26 男子校に戻る
板谷翔です。
今、学校の最寄りの駅のそばにある公園で
葵を待っている。
今日から、小出が男子校に登校するんだが、女子高生姿で男子校行くのはちょっと恥ずかしいということで、俺と、尾崎が付き合うことになった。
俺は、ちょっと待ち合わせ時間より早くきてしまった。
15分も早い。当然、小出も尾崎も来ていない。
女子高生姿の小出を早く見たくて1本早い電車できてしまった・・・
なんと3分後に彼女?は現れた。
約束の時間より10分早い。
たぶん、1本前の電車に乗ったんだろう。
ショッピングセンターで、可愛く変身した姿を見てたからすぐわかった。
あの時と、同じで、
耳にサイドの髪をかけて、耳を出し、前髪の横の髪を垂らしたヘアスタイルは今風の女の子だ。
癖っ毛だったはずなのに、髪の毛はまっすぐで、何となくちょっと長くなった感じがする。
うん、ふつうに女の子に見える。
ミニスカ制服から伸びる細い脚も、どう見ても女の子だ。
3週間の研修の効果があったのだろう、ビクビクしてた感じのショッピングセンターでの姿と違い、
堂々としているし、余裕がある感じだ。歩き方も何となく女の子の雰囲気たっぷり。
ショッピングセンターでの出会いがなければ、今日の姿をみて、葵と気づかなかったかも。
「板谷君、おはよう!早いね!」
「あ、ああ!」
俺は、その声に驚いた。
アニメ声っぽい、高い声だった。
わざとらしい声なんだけど、こういう声の女の子はいなくはない。
それに、今までは「板谷!」って呼び捨てなのに、板谷君!って言われた。
そうか、女の子を演じるために、いろいろ設定があるんだ。
「どう?制服似合う?
声も変でしょ?」
「お、おお。声には驚いたけど、そのかっこなら、そうするべきだよな。
制服は様になってる。でも、ミニスカート慣れたか?」
「うん、何とかね。ちゃんと見られてもいいスパッツ履いてるから、大丈夫なんだ。
あと、苗字に君付けしたのは、その方が女の子っぽいかなあって思って。」
「まあ、いいんじゃないか?
そうだよな。女の子って普通男子を苗字の呼び捨てしないもんな。」
「うーん、男子だらけの教室に入るの不安だよ。
守ってね。」
うっ、上目遣いで頼んできやがる。可愛さが増してる。
困ったな。ちょっと照れちゃうよ。
「まあ、みんな、驚くとは思うけど、大丈夫だよ。
先週の最後のHRの時に、全校生徒に担任から、セクハラみたいなことは決してするなって
お達しがあったから。
スカートの中を覗いたり、抱き着いたり、あと、言葉でいじめるようなことをしたら、
成績に影響あるぞって、全校生徒は言われている。
変な事はされないよ。」
「そう?よかった。
マジで、スカートめくられたらどうしよう?なんて思ってたもん。」
「まあ、それでも、いろいろ質問されるとは思うから、準備はしとけ。」
「困ったときは助けてね。頼りにしてるから。」
また上目遣いだ。ドキッとする。
こいつ、本当に男かよ。
そこに、尾崎が駆けつけてきた。
「おお、おはようっ。板谷が女子高の女とイチャイチャしてるって思ったら、
よくみたら、小出じゃないか?
髪の毛感じ変わったな?わからなかったよ。
普通の女子に見えるけど、小出だったんだな。
それにしても、板谷と小出、一緒にいるとカップルに見える。
俺、じゃまか?二人で手を繋いで、一緒に学校に行くか?」
「おいおい、変な事言うなよ。
小出が困るじゃないか?」
「尾崎君、こんな声でしゃべるからへんだけど、私、一応ホモじゃないから。」
「ぶっ!何だ?アニメ声みたいだ。
よくそんな声だせるようになったな?
それから、俺、君づけになったんだ。
そっか、女子はふつう男子を呼び捨てにしないもんな。
わかった。三人でいっしょに行くか。お姫様を真ん中にして。」
「うん、それでいい。」
「ふふふ、お願いします。」
俺たちは一緒に歩き出す。
「祐希はクラスのみんなとうまくやってた?」
「おお、けっこう人気者だったよ。
男役の研修だったけど、それほど男っぽくしてなかったから、
みんな普通の女の子として扱ってたよ。
言葉遣いは俺とか言ってたけど。」
尾崎の説明に俺が追加する。
「特に尾崎が親切に付き合ってたな。」
「別にいいだろ?
可愛いし、上級生やほかのクラスの生徒から襲われないように、守ってたんだ。」
「そりゃ、大げさだな。」
「でも、小出はものすごく女っぽくなってるな。
ホント、クラスのみんなというか学校中で評判になるぞ。
女にしか見えないって。」
「そう見えるなら、研修の成果が出てるってことでいいんだけど・・・
まだまだ自信ないなあ。」
「敢えていうなら、そのアニメ声をもっと普通の女子の声に近づけた方がいいな。
確かに女の子っぽいけど、メイドカフェの店員さんみたいで、ちょっと目立ちすぎる。」
「うん、俺もそう思ったよ。小出、声の出し方は研究もっとした方がいいな。」
「わかった。二人ともありがとう。」
学校が近づいてくると、登校中の生徒からの視線がいっぱい集まってきた。
そりゃそうだ、男子校に女子の制服で向かっているんだから。
「あー、あれが、新しい専任女形か?」
「『姫』っていうらしいぞ。」
「普通の女の子にしかみえないな。」
「女子の制服着てるけど、下着とかどうしてるんだろう?」
いろいろな声が聞こえてきて、ちょっと恥ずかしかった。
教室に入ると、すぐ、クラス中の生徒が集まってきた。
「ええっ、小出なのか?可愛くなったな!」
「髪型が違うぞ!」
「制服が自然だ。女子にしか見えん。」
「おお、俺も、街であったら、女子高の生徒だと思うよ。」
「女子校での授業ってどうだった?」
「女の子と友達になったか?合コンできそうか?」
そこで、俺と尾崎が仕切る。
「まあまあ、みんな落ち着け。時間はあるから、質問は昼休みにしよう。」
「そうだな。まずは、一人一質問ということでやろう。
俺たち演劇部二人が仕切る。」
「そっか、そうだな。じゃあ昼休み。」
「おお、昼休みに訊くとするか。」
クラスのみんなは引き下がる。
でも、みんな小出のキレイな足を見ているような感じだった。
みんな男だとわかっていても、ミニスカートとそこから見える細い脚に注目しちゃうんだよな。
俺もそうだけど。
困ったもんだ。




