19 ショッピングとお呼ばれ
葵と祐希は渋谷、原宿、新宿と若い女性ファッションを見まくる。
原宿では女の子が群がるクレープ屋さんでクレープを購入し頬張り、
新宿では若い女の子に人気のカフェで話し込んだ。
祐希と違い、葵はすべてが初体験で楽しかった。
(それにしても、女の子の服って可愛いものがいっぱいある!
下着も可愛い!
バッグやアクセサリー等の小物も楽しい!
メイク用品もいろんな種類のものあって
覚えきれない!
女の子だけが入れる雰囲気の飲食店の
スイーツって美味しい!
女の子って最高!)
もともと男子としては可愛いもの好きの方だったし、甘いものも好きだったので
祐希の後をついて行きながら、葵は笑顔で夢中になった。
「葵、楽しそうね!」
「うん、
女の子のショッピングと食べ歩き楽しいよ!
男の友達と街中に行ってもゲーセンとゲームとマンガ、あとスポーツウエアくらいかな?観るのは。
男同士でスイーツの店行くなんて恥ずかしくて無理だもん。
それに、何となくだけどパス出来てる感じがする!」
葵は、原宿で同年代の男子に声をかけられたりしたし、洋服屋さんで店員とおしゃべりしても全く男と見破られてない雰囲気だった。
ちょっと自信がついた気分だった。
「そうね!
男の子とは違うよね!
あとパス?出来てると思うよ。
何てったって、小柄だもん。
ただ声はちょっと怪しいかな?
動きもまだまだだと思う。
あと、これから夏になって薄着になったら
肌出すからどうだろう?」
「うわぁ、厳しい指摘!
でも、がんばるよ!
もっと女の子に見えるように努力する。」
「うん、その調子!」
「あ、そうだ!
今日、ウチに来ない?
お父さんとお母さんに葵のこと話したら
夕ご飯ご馳走したいって言ってたの。
女役のとても可愛い男の子と
遊びに行くって言ったら、なんか興味持ったみたい。
妹も会いたいって言ってた。」
「え?夜お邪魔して悪くない?
それに夕食ご馳走になると帰るの遅くなるよ。祐希の家は私の住む市の隣の市だし。」
「ご飯食べたら、お父さんが送ってくれるって。だから来なよ!」
「じゃあ、今、お母さんに電話してみる。」
「うん。」
「あ、お母さん?
あのさ、祐希の家にお呼ばれしちゃった。
うん、夕ご飯ご馳走になりそう。
えっ?
帰りは車で送ってくれるって。
うん、わかった。迷惑かけないようにする。
じゃあね。」
「許可もらえたよ。お邪魔いたします。」
「やったー!」
ウインドウショッピングと食べ歩きを満喫した二人は、祐希の家へ。
お医者さんの家ということで、立派な一軒家だった。
そこで、祐希の両親、竜輝と梓、中学2年生の妹の祐香と
一緒に夕食を食べる。
「あらー、本当に葵さんて可愛いのね。ちょっとみただけだと男の子ってわからないわね。」
「うん、小柄で、目もクリっとしていて、可愛い。」
「ホント、女の子の服が板についてる!お姉ちゃんも可愛いけど、葵さんも可愛い。」
「ほめ過ぎです!祐希さんと一緒に行動してると、やっぱり男の体なんだなって、けっこう
落ち込みます。確かに男としては華奢ですけど、筋肉質ですから。」
「あらーっ、女の子の体になりたいの?そんなところ気にするんだ?」
「確かに、男と女はいろいろと体が違うからなあ。女形って言ったって、表面上をごまかすだけで、
体型や、脂肪でおおわれている女性の体にはなれない。」
「そっかー。葵さんにはおっぱいないもんね。」
その時、祐希が面白そうに会話に入ってきた。
「だから、私、葵にホルモン治療と性転換を勧めてるの!
前に話したとおもうけど。
こんなに可愛いのに男の体なんて、もったいない。男の子にモテそうだし。」
「ちょっと、祐希、私性同一性障害じゃないよ。お母さんとお父さん専門家なんでしょ?
誤解させちゃう。」ちょっとだけ、葵は慌てた。プロが目の前にいるのに、変なことを言ってほしくない。
でも、竜輝と梓は暖かい目で祐希をみていた。
口を開いたのは、梓だった。
「葵さん、確かに性同一性障害って言うと、もの心ついた時から、女性の性自認があったという
イメージだけど、後天的に女性になりたいっていう人も多いのよ。
あなたほど、女の子っぽい人なら女性になりたいって後天的に思っても不思議じゃないの。
よかったら、今度、私のクリニックで診察受けてみる?
ほおっておくと、どんどん体や顔が男性化するから、今がタイミングだと思う。
まずは、相談からでいいのよ。」
竜輝もうなづきながらコメントした。
「そうだな。まずは、相談から始めてみよう。
女の子っぽくなれるチャンスかもしれない。
強制はできないけど、いろいろ考えてみたら。」
最後に祐香が、
「うわっ、それいいと思う。
葵さんにはもっと女の子っぽくなってほしい。」
「えっ!!どうしよう?
確かに、男っぽくなりたくはないって最近思い始めてるけど。
その、性を変えるみたいな話は真面目に考えたことないです。
両親に相談してみないと、何とも言えません・・・」
「じゃあ、ご両親に相談してみてね。
うーん、あなたが女の子になったら、相当可愛い女性になる気がするなあ。
今でも女の子に見えるんだから。
女性化について考えてみない?」
梓は、二人の娘がいる女性と思えないほど、若々しく、美しい容姿をもっていた。
そんな女性に、容姿を褒められて、うれしくないわけがない。葵は女の子になっても
いいかな?なんて思い始めてしまう。
「そうですね。ちょっと両親と、それから姉に相談してみます。
精神科の受診ですね。
うーん、ドキドキするなー。」
「あ、受診の時は、女の子のカッコできてね。男の子のカッコはだめよ。」
「わかりました。女形をやってる間はずーっと女装してるので、大丈夫です。
もし、受診するなら女子の姿で行きます。
もう、下着も女ものを付けてるほうが安心するようになっちゃいました。
胸がないから、ブラがずれるのが悩みと言えば悩みですけど。」
「わかるー!私も、胸が最近大きくなってきたからずれにくくなったけど、それまでは、
すぐ上にズレて大変だった!葵さん、おっぱい大きくしようよ!」
「ちょっと、祐香ちゃん、そう簡単にはいかないよ。」
葵は、ホルモン治療すれば、おっぱいが大きくなるんだろうなと想像しながらも、
男の自覚はきちんと持っていたので、困ったなーと心の中でつぶやいた。




