187 ラーメン店で その2
朝倉良太です。
お店がオープンして、やっとお店に入ります。
我々は先頭に並んでいた女性から一番離れた席に座ります。
女性の顔はよく見えませんが、彼女が店のスタッフにラーメンの写真をとっていいか聴いているのがわかります。
おお、ラーメンブロガーだ。兄貴と一緒だ。
すると、兄貴も近くのスタッフに声をかけてました。
「あの、ブログにアップするんですけど、ラーメンの写真撮っていもいいですか?」
「あ、いいですよ。かまいません。
その代わり、悪口は書かないでくださいね。」
「了解です。」
ブロガーも気を使うもんだ。
注文して、十数分待つこと、ラーメンが運ばれてきた。
兄貴は急いで写真を撮る。
うわっ、大変だ。
早く食べたいの我慢している。
でも、兄貴は手早く写真を撮り、すぐにスープに向かった。
カウンターの端の女性も写真を撮り終わり、もう食べている。
俺と和音ももスープをすする。
「おおっ、美味しい!複雑な味がする。でも、芳醇で贅沢な気分になる。」
テレビのタレントのように食レポなんてしたことのない俺だけど、普通のラーメンより出汁にすごく工夫を凝らしていることがわかる旨さで、自然と感想が出てきた。
和音も「うん、美味しい。良太が表現したことに全面的に賛成。」
おお、和音は俺と同じ、感想か?可愛いやつ。
兄貴はすでに、麺を食していた。
「この平麺はコシがあって、スープにすごく絡みつく。いい麺だなあ。叉焼も濃い味付けで、すごく主張している。うん、さすがのバランス。」
さすが、兄貴。
俺たちは腹も減っていたので、ものすごい勢いで、ラーメンを平らげる。
あっという間に完食だ。
「ごちそうさま!美味しかった。」
俺たち3人は、ほぼ同時に同じ言葉を発した。
会計を終えて、店の外に出ると、兄貴が、
「ちょっと、二人ともいいか?炎天下の中、申し訳ないが、ちょっと、数分ここで待ってくれ。」
店の外にはやはり30人くらい並んでいた。
みんなラーメンを楽しみにしている顔だ。
それにしても、何で兄貴は店の外で待機するようなことを言うんだろう?
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朝倉蒼汰です。
ラーメンは想像以上のおいしさだった。
俺は食べながら、俺たちの席から離れて食べている女性の食べるところも観察していた。
(ただもんじゃない。スープ、麺、具材を一つ一つ、十分味わって食べている。もしかして、
あの女性が師匠の「麺汁好き蔵」さんじゃないか?中年独身男性っていうプロフィールは、女性であることを隠すための防御策である可能性は捨てがたい。
あ、俺たちの方が早食いだから、先に食べ終わった。
よし、彼女が俺の師匠が確かめてみよう。
あの分で行くと、俺たちが会計した後、数分で出てきそうだ。
店の外に出て大待機だ。)
俺は、店の外に出てから、良太と和音ちゃんに待機したい旨を伝える。
事情がわからない二人だが、同意は得た。
さすがに、店の真ん前は待っている人の迷惑になるので、ちょっと離れたシャッターが閉まっている店の前で待機する。
(あ、出てきた。師匠かもしれない女性だ。
うーん、満足そうな顔をしている。
何か、師匠で間違いなさそうだ。
よし、おっかけよう。)
女性が、店から出て、店から十分離れた時を見計らって、俺は、良太と和音ちゃんに声をかける。
「よし、動くぞ。俺に付いて来い。」
「えっ?どうしたの?」と良太は疑問を呈するが、おれはその質問に答えず、早歩きを始める。
早歩きをすると、数分で彼女に追いつくことができた。
もう店から十分離れていて、ラーメン店で待つ人からも、気づかれない距離になっていた。
俺は、彼女の背中にちょっと大きな声で呼びかけた。
「あの、すみません!」
すると、彼女はこちらを振り返る。
すかさず、俺は質問した。
「失礼ですが、もしかして・・・麺汁好き蔵さんじゃないですか?
僕はブログネーム叉焼好き兵衛です。」
彼女はものすごく驚いた顔をした。
そして、俺の顔を見たあと、横にいた良太に視線を移動させた。
「あ、朝倉君じゃない?!」
良太がその声を聴いて反応する。
「あ、その声は!小山先生!!」
すると、和音ちゃんも反応した。
「ホントだ南中学の小山朱里先生だ!」
良太が謎が解けたみたいな顔で、話し出す。
「ラーメン屋さんで並んでいた時に、誰かに似てると思ったんですよ。
髪を束ねてるし、メガネをかけてるから、わかりませんでした。
へーっ、先生の休日モードって学校にいる時と全然違うんですね。」
「わ、恥ずかしい。まさか、担任していたクラスの男の子に会うなんて。
すっごい油断。というか偶然。
もうしょうがないわね。
会っちゃったんだから。
あ、そちらの二人は?」
「あ、こっちはうちの兄貴です。ラーメン好きで、俺がラーメンごちそうしてって頼んだら連れて来たんです。
あ、こっちは、わかんないかな?
南中学出身の太田和音です。桃花高校演劇部の姫として入学した太田です。
今は24時間、女装してるんですよ。」
「ええっ?!
朝倉君のお兄さんと、あの太田君?
朝倉君のお兄さん、歳離れてるのね!
それから太田君、全然女の子じゃない。びっくりした。
すごいね。姫になると、性別を超えちゃんだね。太田君すごく可愛いっ。
あ、朝倉君のお兄さん、初めまして。
もう、腹をくくります。
あの、恥ずかしいんですけど、私が麺汁好き蔵です。
隠してもしょうがないですね。
見抜かれちゃったんですから。
それに、教え子の肉親に嘘はつけません。」
「やっぱりそうですか?
食べている姿をみたら、何となく、好き蔵さんじゃないかって思ったんです。
改めてご挨拶をします。
師匠、よろしくお願いします。」
そこで、弟の良太と和音ちゃんが吹き出す。
「兄貴、キレイで若い小山先生に師匠なんて言うなよ。
ラーメン好きの仲間って言う事でいいんじゃない?」
「う、若くはないんですよ。もう26才です。」
「あ、俺と同い年じゃないですか。話が合いそうですね。
でも、いろいろお世話になっているから・・・尊敬しちゃいます。
師匠って呼ばないでいいですか?」
「ええ、師匠は恥ずかしいです。」
「じゃあ、小山先生でいいですか?」
すると、和音ちゃんが突っ込んできた。
「蒼汰さん、同い年だし、別に蒼汰さんの先生じゃないんですから、先生はやめましょうよ。
うーん、そうですね。先生の呼び名は朱里さんにしてください。
その方がいいです。」
「ええっ?名前で呼ぶの。初対面の人に呼ばれたら、恥ずかしいよ。」
「先生、いいじゃないですか?先生は良太のお兄さんのことを蒼汰さんって呼んでください。
それがいい感じだと思います。」
「うん、そうしましょう。朱里さん、ラーメン仲間としてよろしくお願いします。
よろしければ、これからこの二人を、美味しいデザートのあるお店に連れて行くんですが、
ご一緒しませんか?もしかしてラーメンは好きだけど、スイーツは嫌いってことないですよね?」
「太るから、気にしますけど、甘いもの・・・大好きです。
はい、ご一緒します。」
師匠とこんな形で出会うとは思わなかった。
ラッキーだ。




