18 葵と祐希の休日
この回は第三者目線にします。
「うわーっ、ドキドキ。」
葵は女の子と繁華街なんて行ったことはない。
というか、渋谷とか原宿とかに子供だけで行くことは初めてだった。
どんなかっこで行こうか?と思ったけどわからない。
休日の朝、
結局、女子大生である姉の柚の着せ替え人形となり、一番可愛いと思われる服装を選んだ。
グレーのミニプリーツスカートにニーハイソックス。
ちょっとお姫様っぽいベルト付きでヒールのある靴。
リボンのついた白いブラウスにピンクのカーディガン。
姉が1年ほど前に買ったものだが、可愛すぎて着れなかったというコーデだ。
「うん、高校1年生なら、可愛すぎると言うことはないね?」
年齢ではなく、性別男なんですけどと葵は思う。
でも、葵は嬉しかった。
可愛いかっこは好きなのだ。
「きょうは、見せパン抜きで外出してね。」
「ええっ?それ、ハードル高すぎる!」
「いつも履いている制服のスカートより長めだし、いいでしょ?
訓練しないと。階段とか、電車で座っている時とか、気を付けてね。
パンチラしちゃったら、可愛さ台無しだよ。」
「うーん、わかった。チャレンジしてみる。
これからあったかくなるから、いつもスパッツとか短パンとか履くわけにいかないよね。」
そのあとは、メイクだった。
ファンデーションを薄く塗り、アイメイク、アイブロウ、チーク、そして、リップと
高校生らしい薄くナチュラルなメイクをする。
そして、仕上げに柑橘系のコロン。
「男の子のデートだったら、ちょっと可愛い系のコロンをかけるけど、女の子同士だからね。
これにした。」
「あの、私、男の子なんですけど。」思わず葵は反論する。
「だめだめ、そんな意識は持たないの。あと、バッグは私の貸すから、化粧品やブラシ、鏡も入れておいた。女の子は大変だよ。
トイレも、うまくやってね。」
「そうだね。共用トイレとか使うようにする。」
そのあと、両親にもお出かけ姿を披露する。
母は「また、可愛くなったわねー。これならお嫁にいけるわね。」
父は「完全に女の子だな。うーん、男だったことを忘れそうだ。」
両親はちょっとふざけていた。ノリがいいというか何というか。
用意を何度も確認し、姉から注意事項を言われ、やっと外出した。
ちょうど一週間前に、家族と出かけたけど、目的地のショッピングセンターまでは車での移動だったし、
買い物のときは家族と一緒だった。
そして、そのあと1週間、女子高生として通学したけど、ほとんど由奈といっしょに通学だった。一回だけ一人で帰ったけど。
私服での一人での外出は緊張する。
家から、駅まで歩き、電車に乗って渋谷まで行く。渋谷の駅前での約束だった。
(うわーっ、緊張する。渋谷まで1時間くらいの道のりだけど、座れてよかった。
通学の時は学生ばっかりの車両に乗ってるけど、今日は、色んな人いるから、ちょっと怖い。
男性であること見抜かれたらいやだな。
痴漢も怖い。)
実際はすし詰めの満員電車ではないのだが、立って電車にのると、痴漢に会いそうで怖かった。
ちょっとは可愛い女の子に見えるかもしれないというささやかな自信があった。
葵は人の波に乗りながら、何とか渋谷の待ち合わせ場所に到着する。
初めて、一人で渋谷に来たので、超緊張した。
違う駅から乗った祐希も到着したかな?
祐希は一人で渋谷に何度も来たことがあると言ってた。
自分より大人だなって感じる。
待ち合わせ場所で、キョロキョロすると、すぐ声をかけられた。
「お嬢さん、可愛いね!」
聞き覚えのあるふざけた感じの明るい声。
思わず振り返ると、セミロングヘアの高身長女子がいた。
やっぱり、そうだった。髪型違ってもわかる。
「わかった?私、祐希だよ。
きょうは女の子っぽくなりたくて、ウイッグ被ってきちゃった。
いいでしょ?」
「うん、わかったよ。ちょっと驚いたけど。
髪の毛長いと、やっぱり女の子っぽくなるね。
あ、胸もある!」
「今日は胸を押さえつけてないからね。
ちゃんとブラもしてるし。
これが本当の私の体だよ。」
「あ、自分のこと私って言ってる!」
「だって、女の子だもん。
学校でやっているのは演技だよ。」
「そうだったんだ。
やっぱり、祐希は普通の女の子だったんだね。」
「うん、可愛くなりたいし、オシャレもしたい女の子だよ。
男の子にも恋したいけど、それは当分我慢する。
部活にさしつかえるもん。
あ、葵は、やっぱり24時間女の子なんだね。
私服も可愛い。
そんなかっこで一人で歩いてたら、男の子に声かけられるかも。」
「私・・・
祐希みたいな器用なことできないよ。
ある時は男で、ある時は女なんて絶対できない。
今は、ずーっと、女の子の姿でいたいかな。
女形として一人前になるために。
それに・・・」
「それに?」
「女の子のカッコ楽しいんだよね。
スカートはいて、メイクして、ヒールのある靴はいて、アクセして。
なんか、女子のファッション、楽しむようになっちゃった。
男でいるよりこっちの方が楽しい!」
「やっぱり、葵は女の子のほうが向いてるんだ。
もう、このまま女の子になっちゃえば?」
「ふふふ、また悪魔の誘惑?
この間、言われた時は、とんでもないこと
言うなあって思ったけど、
少しは考えるようになった。
私の顔、体格だと、男としてはいろいろ不利だけど女の子としてはけっこう普通。
女子校来て思ったけど、お話しするときに見上げないで済むもん。
ただし、ホルモン治療とか性転換とか言うと
一生の問題だし、家族の同意なしでは無理だし。」
「お、真面目に考えてるんだ。
そうだね。高校1年で身長157センチだっけ?厳しいこと言うなら、もう大きくならないと思う。伸びても160センチ台前半?
男としては不利だと思う。
女の子の恋愛対象としてももの足りないのは事実。
身長150センチの女の子だって、男の子は170センチ以上欲しいと思ってるよ。」
「がーん!やっぱりそう思う?
なんとなくわかってたけど、口に出されると
辛い!」
「まあ、いろいろ考えましょ!
まずはウインドウショッピング行こうよ!」
「う、うん!」
手を引かれて渋谷のファッションビルに向かう二人。
葵はぷっくり盛り上がっている祐希の胸を見てしまう。
(やっぱり本物の女の子は可愛いなー。
女の子だったら、やっぱり胸がないとなあ〜。
欲しいな〜。)
と思ってしまう。




