13 女子校の演劇部
放課後、女子高の演劇部に参加します。
男子演劇部と同様、ジャージ姿での集合です。
人数は同じくらい?
福島先生も来ていました。
「部長で3年の荒木です。
女の子だらけで慣れないでしょうけど
頑張ってね。
何かを掴んで、男子校に戻ってください。」
まるで大人のような容姿と風格を持つ
部長さんでした。
3年生だけどまだ引退してないみたいです。
特に私のことを可愛いとか女の子みたいと
囃し立てたりはしません。
冷静に男子として見ています。
うーん、身が引き締まる思いです。
誰が見ても女の子に見えると思わないほうがいいかも。
それから、早速ストレッチ、柔軟体操に入りました。
二人一組で柔軟体操をする時に、荒木部長に声をかけられます。
「小出さん、今日の相手は藤原祐希くん。
藤原くんと組んで。
藤原くんは男役の「王子」に選ばれたの。
あしたから、小出さんと入れ替わりに
男子校に研修に行くから、あとでいろいろ情報交換してね。
あ、王子は君付けしてる。
男役だからそうしてる。
違和感あるかもしれないけど慣れてね。」
「よろしく、藤原です。
男子のこと、いろいろ教えてください。」
「は、はい!」
藤原君?は、爽やかにニコっと笑って握手を求めてきました。
私はそれに応じます。
男役はガタイのいい女子かな?と勝手に想像してたけどそんなことはありませんでした。
身長は160センチ代後半はありそうだけど、
ショートカットの美少女って感じ?
男っぽくはありません。
逆に可愛い!髪の毛 長ければ、女の子らしさがあふれそう。
髪の毛、かなり短いからボーイッシュだけど
せいぜい、美少年アイドルって感じかな?
でも、これから男っぽくしていくのかもしれない。
うーん、胸はないなあ。
ぺったんこだ。
これは男役に向いてるかも。
一緒に柔軟体操をしてみて、
男と女の違いを思い知リます。
うわっ、腕とか手とか柔らかい。
プニョプニョだ。
女子って脂肪が多いっていうけど
細身の藤原君でさえも、女の子らしい
柔らかい身体なんだ。
藤原君も同じことを思ったようで
「小出さんって、女の子みたいな体型だと
思ったけど、やっぱり筋肉質なんだね。
女の子と感触違う。」
それを聞いていた福島先生が声をかけてきました。
「そうなの。男は筋肉質、女は脂肪の多い身体って事を覚えておいてね。
演技する上で、女形は身体の柔らかさを出せるように、男役は逆に筋肉の硬さを感じさせるように工夫するの。」
「はい、努力します。」
二人で同時に返事してしまいます。
思わず顔を見合わせて、笑ってしまいました。
打ち解けた藤原君は、
「僕のこと、祐希って呼んで!君のことは葵って呼ぶから。
あ、男装してる時は自分のことを僕って言うようにしてるんだ。これも訓練。君も私って言ってるでしょう?
よろしくね。」
「オッケー。その方が親近感湧くね。」
「あ、さっき僕の胸見てぺったんこだと思ったでしょ?
ホントは人並みにおっぱいあるんだよ。
でも学校にいる間は「王子」だから晒しを巻いて抑えつけてるんだ。
ブラしてる葵も大変だと思うけど僕も大変なんだ。
男装始めたのは今日から。
大変だけど希望して、王子になったから
頑張るよ。
今日、部活終わったらいろいろ情報交換しよ。
明日から男子校行くし、いろいろ教えてもらわなきゃ。」
「うん、了解。
同じような苦労がありそうだから仲良くしてね。
「うん。」
そして、次に発声練習に移りました。
ここで私は困ります。
先週までいた男子校では発声練習は
男の声でやっていたからです。
女の子の声でやろうとすると
大きな声が出ません。
祐希も男っぽくやろうとして
苦労してます。
福島先生からアドバイスがありました。
「難しいでしょ?
でもやらないとね。
役者は大きい声で話さないと役者じゃ
ないから、二人とも慌てず、少しずつ前進してね。」
その後、校舎まわり5週のランニングをしたり、ダッシュを繰り返したりと
運動部のような体力づくりをやって
即興芝居の訓練という流れで進みます。
体力づくりは慣れてないから1年生はみんな苦しそう。
ホントは男子の私も、クタクタになりました。
ムキになると男丸出しになりそうなので
女子部員を見ながら合わせます。
でも即興芝居はゲームみたいで面白いと思いました。
発想力と表現力の訓練になるし。
部活が終わったあと、祐希と二人で
ファストフード店で話しこみます。
由奈には先に帰ってもらいました。
祐希は男子校の制服、私は女子校の制服で
逆転カップルみたいになってます。
まずは、スマホで連絡先を交換。
いつでも、情報交換や相談をできるようにします。
そして、次に何で、女形、男役に選ばれたか教え合いました。
私はスカウトされた事情を説明します。
「なるほどね。
やっぱり女形は体型とか顔とか
大事だよねー。
華がないといけないから。
だからスカウト主体になるんだろうな。
男役は違うんだ。
希望者を募るの。
だから、けっこう競争があったよ。
僕も選ばれる自信なかったけど
アイドルのA君に似ているっていうことが
決め手になったみたい。自分では似てる
とは思わないけど。」
「うーん、似てるかなあ。
目とか部分的に似てるかもしれない。」
私は、祐希の顔はA君みたいに男っぽくないと言いたくなりましたがそこは抑えます。
「でも、なんで希望したの?」
「女の子にモテたいから!
僕、レズではないんだけど、
女の子にモテたいって気持ちあるんだ。
高校時代に男の子になりきって、女の子にきゃあきゃあ言われたい!
今のところ好きな男の子いないしね。
宝塚の男役の雰囲気になりたい感じかなあ。
もともと、宝塚の男役って素敵だなあって思ってた。
現実の男とちがって、女の子の理想を絵に書いたような存在かな?
葵はどう?
成り行きで女形になったみたいだけど、男の子にモテたいと思わない?」
「ええっ?そんなこと思ったことないよ。
だいたい、女の子に化けるので精いっぱい。
男の子にモテるどころか、
気持ち悪いと思われないようにしないといけないなって
思ってる段階かな?」
「でも、相当可愛いよ。
私が男の子だったら、意識しちゃうレベルかな?」
「あっ、そういえば・・・」
「何?そういえばって?」
「土曜日、女装して、家族と買い物してた時に、大規模ショッピングセンターで、
高校の同級生の男の子、板谷君っていうんだけど、その子と偶然出会って・・・」
「出会って?」
「突然声をかけられたの?」
「そしたら?」
「可愛いって言われた。
その時は驚いて何にも言えなかったんだけど、
後で家族にからかわれて、ドキドキしたかな?」
「ふーん。それは美味しい話だなあ。
その板谷君って、かっこいいの?」
「一般的に見てどうかわからないけど、
私はかっこいいと思うけど・・・」
「彼女とかいないの?」
「いないはず・・・」
「へえーっ。」
祐希はニヤニヤしてます。
「ええっ、変な事考えないで。
私も、板谷君も同性愛者じゃないから。」
それでも祐希のニヤニヤはとまりませんでした。




