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119 板谷家での会話

板谷瞬です。


家族そろっての食事の最中、とんでもないことが判明した。


母親と、妹の話からその事実は俺の耳に入ってきた。


「ねえ、お父さん、今日、佳織と一緒にお買い物してたら高校時代の友達の智花に会ったの。」


「おっ、娘さんが、アイドルの白石琴美に似てるっていう、例の友達だな。」


「そうそう、その友達。

娘さん、ますます可愛くなってた。

ウチの佳織も可愛いけど、あちらの娘さんはアイドル並みの可愛さなのよねー。」


「そうなの。私、すごく憧れてるの。髪型とか服の着こなしもちょっとおしゃれで、洗練されてるっていうか、とにかく魅力的なんだ。部活にも夢中になってるのもいいなー。」


「ほおっ、そりゃすごいな!会ってみたいな。

で、どこの高校なんだ?何の部活をやってるんだ?」


「あ、聴いてなかった。」

「そうね、私も聴くの忘れてた。」


「うっかり、母子だなあ。それじゃ、どんな女の子か全体像がつかめないぞ。」


「でも、どこの高校だろうと、素敵な女の子だと思う。

部活と勉強もすごくがんばってるって言ってたから、いい大学目指していそう。」


「うん、大学決まるまで、男の子と付き合うような気はないって言ってた。

けっこう真面目だよ。

彼氏つくらないなんて、もったいないんだ。

お兄ちゃんを紹介しようと思ってるんだけど、その気なさそう。」


わ、また、俺を巻き込もうとしてる。

妹にしろ、母にしろ、前にもその女の子を俺に紹介しようとしてたもんな。

やめてほしい。

俺は彼女を当面作らないから迷惑だ。

作ったら、一緒に演劇をがんばってる葵に申し訳ない。

別に葵を好きってわけじゃないけど、本物の女性になろうと努力しながら、演劇と勉強に夢中になってる葵を一生懸命応援している俺としては、チャラチャラ女の子と付き合うなんてできない。

うん、高校にいる間は、葵がちゃんとした女性になるまで見守っていたい。


そんなこと考えていたら、父が母と妹にまた聴いた。

「その子の名前は何ていうんだ?」


「葵さん!苗字は小出だよね?お母さん?」

「そうね、小出葵さん。そういえば、智花も高校時代、アイドル的人気だったもん、葵さんもすごい人気かも。」


俺は、飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。


うわっ、小出の話だったんだ!ていうか、話の流れから推測すると、二人とも小出が男だって知らないぞ。

小出のお母さん、しらばっくれてるんだ。

スゲーお母さんだな。

小出も嘘に乗っかちまってるんだ。

まあ、街で出会って、自分の娘はニューハーフですって紹介するのも変だし、自分から名乗るのも変だから、しょうがないのかな。

でも、・・・そのうちバレるぞ!

うーん、この話には関わらないようにしよう。


そうだ!とりあえず小出に話をしとこう!


「あ、俺、ちょっと友達と電話するから、自分の部屋に戻る。」


俺は、自分の分だけ食事を片付け、部屋に戻って小出に電話をした。


数回のコールの後、小出が出る。


「はい、葵です。」


俺は、夕食を食べ終えたことを確認して、小出に質問する。


「あのさ、今日、ショッピングセンターで、お母さんと二人で歩いてなかった?」


「え?歩いてたよ。もしかしたら、板谷君もショッピングセンターに行ったの?」


「あ、俺は行ってないんだけど、話を聴いてくれ。

もしかしたら、小出のお母さんの友達と出会って、その娘といっしょにおしゃべりしなかった?」


「ええっ?何で知ってるの?その通りだけど・・・」


「実はその母子は俺の母親と妹なんだ。母の名前は公佳で、妹の名前は佳織だ。」


「うそ?そうなの?びっくり!全然気づかなかった。

だって、ウチのお母さんも板谷君のお母さんも名前で呼び合うから、苗字なんてわからなかった。」


「おれも、その話を聴いたとき、最初わからなかった。

おやじが、詳しく聴いたからわかっちゃったんだ。

とりあえず、俺は、真実を黙ってるけど、そのうちバレるぞ。」


「うん、ばれると思う。

だって、全国大会の時、ご家族呼ぶでしょ?私、晴れの舞台だから呼ぶよ。」


「そうだな。

ブロック大会までは興味なさそうだったけど、全国大会となると、興味津々だよ。

うん、観に来てもらうつもりだ。」


「うーん、ばれたらバレたでいいんじゃない。

仕方ないよ。

笑い話にしちゃうしかない。

まあ、結果的にだましちゃってるけど、迷惑がかかる行為はしてないと思う。」


「そうだな。ウチの佳織が小出のことを男だと知ってショックを受けるくらいか。」


「うわっ、そうだ。

佳織ちゃんに私のこと気に入ってるみたいだから、悪いことしたなあ。

そこは、お兄さんの力で、癒してあげてよ。」


「しょうがないなあ。

まあ、できるだけフォローするよ・・・。」


「あ、そういえば、お母さんにしろ、妹さんにしろ、私を彼女にしたら?って勧めてこなかった?

私は板谷君を彼氏にどうかって勧められてた。

まさか板谷君とは思わなかったけど・・・。

部活と勉強に集中したいから、今は恋愛はしないって答えたよ。」


「おお、確かに言われてたよ。

まさか、紹介しようとしてた女の子が小出だとはな。

断ってくれて助かった。」


「でも、ちょっとがっかりしたんじゃない?

本物の可愛い子だったらよかったのに・・・なんて思わなかった?」


「がっかりも何も、母さんや佳織に振り回されるの嫌だったから、その話からは逃げてたよ。」


「だよね。ふふふ。まあ、いいじゃない。お母さんも佳織さんも悪気はないんだから。

あ、うちのお母さんは親友をだましちゃっているから、ちょっと困るかな?

どうしよう?

あ、そうだ。板谷君のお母さんは女子高出身だから、男子校の姫制度のことは知ってるんでしょ。

聴かれたことないの?」


「うーん、姫制度について知ってるのかな?

高校時代の話って、あんまり聴いたことないんだ。

俺、部活のことは家庭で話すけど、女形のことはあまり説明してない。

もしかしたら、男子校の演劇では女性が登場しないと思っているかも。

もし、女性の役があっても、部員の誰かが適当に女装してお茶を濁している程度に考えてる可能性が高いよ。」


「そうなんだ。

こりゃ、全国大会の時に、驚くかも。

あ、ちょっと、待って。

ステージ上の私を、高校時代の親友の娘の葵って気づくかわからないよ。

客席からみたら、メイクしている私を認識できないよ。

声の出し方も違うし。

部員の名前をいちいち発表しないし。」


「おお、そうだな。

メイクしてるしてないにかかわらず、客席からステージ上の人間を見た時はわかりにくいかも。」


「そうすると・・・対応難しいね。」


「まあ、なるようになるさ。バレたらバレたで、さっき言ったように笑い話にしちゃおう。」


「うん、そうだね。そうしよう!」


俺は、コロコロと笑う葵と話ながら、こいつ本当に女の子みたいだなと思う。

実に可愛い。

うちの家族、男だって信じないかも。


そうだ!性転換に向かって突き進んでるんだから、うちの家族にはあくまで女性として扱うように言わなきゃ。

バレた後にね・・・。



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