115 噂をつくった張本人は誰?
ちょっとした裏話の回です。
電車の中で、高校1年生の新川梨亜と友利豊が言い争いをした日の数日後のある午後。
県立弘進高校のグラウンドでは、女子野球部の試合が行われてた。
1年生ながら、早くもレギュラーになっている宮田朱理はレフトを守っている。
カーンッ。
大きな当たりが左中間に飛んできた。
朱里はものすごいダッシュで、定位置を飛び出すと、走りながら、ホームランにでもなりそうな勢いの飛球をキャッチ。
「朱里、ナイスキャッチ!
さすが、うまいねー。
小学生時代、スポ少で男子に混じってレギュラーやっていた感覚、鈍っていないね。」
サードを守っている2年生の先輩から声がかかる。
「いや、まだまだですよ。いろいろ鈍ってます。」
朱里が野球部に入ったのは、この先輩に頼まれたからだ。
創部2年目の女子野球部は人材不足だった。中学で経験がなくても、小学校のときにスター選手だった朱里は是が非でもほしい人材で、再三の説得に朱里が折れて入部することになった。
定位置にもどり、独り言をいう朱里。
「中学3年間、演劇にかけて、県大会優勝まで行った私がなんで、野球をやる羽目になったんだろう。
梨亜が裏切って、弘進高校に来なかったからだよなー。
あの子がいなければ、やる気がでないもん。」
そう、彼女は西中で、演劇部に所属していた。
役者でもあったが、どちらかというと演劇をトータルプロデュースするのが好きで、劇の内容を決めたり、配役を決めたり、役者をレベルアップさせたりする監督みたいな役割を担っていた。
主役には、飛び切りの美人の新川梨亜を選び、彼女を部長にして、演劇部が一心同体になるように規律を強くした。
元々気が強かった梨亜は2年生で部長になり、主役になると、朱里の思う通りに動いてくれた。
「梨亜、あなたは人望があるんだから、少し厳しくみんなに言ったほうがいい。その方が、みんな同じ方向を向く。」副部長の朱里は、梨亜に厳しくするように言い、実際梨亜は部員に厳しく接した。
で、朱里は、梨亜が恋愛をしないように、催眠術をかけるように洗脳していった。
「梨亜、男なんかにうつつぬかしたらだめだよ。男なんかろくなもんじゃない。
女の子の体だけ狙ってるんだよ。
女の子同士で仲良くしてた方が、学生時代は絶対楽しいんだから。
恋愛するなら、大人になってからしようよ。」
つまり、恋愛をすると、演劇の活動に支障が出ると朱里は考えたのだ。
梨亜は美人だ。いろんな男子からアプローチが来る。
恋愛に夢中になったら、演劇部の部長と主役は務まらないかもしれない。
そう心配した朱里は梨亜が恋愛嫌い、男嫌いになるよう、いろいろ梨亜に吹き込んだ。
素直だった梨亜は、そのせいで、男嫌い、恋愛嫌いになっていった。
でも、一度だけ、危険な時があった。
2年の時、複数の中学が集まって、演劇を見せあうイベントがあったのだが、梨亜が朝日中学の男子に
一目惚れしてしまったのだ。
「友利君、かっこいいー!」目がハートになってしまった梨亜の顔を見た朱里は困ってしまい、嘘を考えた。
友利が、複数の女子と遊びで付き合い、そのあと、すぐ捨ててしまうというような悪い男だという噂を作る。演劇部の他のメンバーにそういう情報を流し、梨亜の耳に入るようにした。
がっかりする梨亜に対し、
「かっこよく見える男子に騙されないで。裏があるんだから。
友利君って、どうも女たらしみたいじゃない。ひどいよね。」
梨亜は、他の部員から噂を聴いていたので、すっかり信じこんでしまう。
可愛さ余って憎さ100倍じゃないが、必要以上に嫌なヤツだと思ってしまう。
その後、大会会うたびに憎まれ口をたたいてちょっとした言い争いをするような関係になっていったのだ。
また、さらに、朱里は用心に用心を重ね、梨亜がモテないように他校に噂を広める。
「新川梨亜は性格がきつくて、部長になった後、部員に対してパワハラがひどい!」
という噂を流した。
まあ、気が強いのは事実だが、ひどい言いようだった。
その噂は梨亜の耳にはいって、
「私、パワハラ部長と思われてるみたい。なぜなんだろう?」と梨亜は愚痴をこぼすことになる。
結果、他校の生徒には、美人だけど、性格に難がある女子という評価が定まってしまう。
そして、美人なのにもかかわらず、恋愛に全く興味を示さなくなった新川梨亜は、演劇部をよくまとめ、
朱里と2人3脚で、県大会優勝まで実現させた。
「一緒に弘進高校に言って演劇をやろうよ!」
「うん、そうだね。」
朱里の提案に梨亜はうなづく。
弘進高校は演劇部がまずまず強く、そして二人の学力にぴったりだった。
ところが、梨亜はこっそり私立の桃花女子高校を受けていて、何と桃花高校に入学してしまった。
「ごめん、あのさ、どうしても男女共学が嫌で。女子校に入ることにした。」
朱里は呆然とした。
男嫌いになったのは、自分のせいだとわかっていたので、怒れなかった。
策に溺れたと思った。
朱里は、梨亜が同じ高校に入らなかったことで、演劇に対する意欲を失ってしまった。
そんな時に小学生時代の野球の先輩から勧誘されて、女子野球部に入部してしまったのだ。
かーんっ!
また、大きい飛球だ。今度は後ろ側だ。朱里はボールに背を向け、走り出す。
「よし、この辺で落ちるだろ。」朱里は顔と手だけ球の方に向けほぼ背面キャッチのような感じで捕球に成功する。
「すごい!イチローみたいだ!」
どこからか、そんな声が飛んでくる。
でも朱里は満足していない。強豪校の選手の打球はもっと速く、伸びもあるに違いない。
「ナイスキャーッチ!」とまた先輩が声をかけてくれた。
「たまたまですよ。」と言い返し、先輩にボールを投げる。
「そういえば、梨亜が桃花女子校にはいって、確か朝日中の友利君、桃花の男子校にはいったんだ。
あの二人、会っちゃうかも。会ったら、喧嘩しちゃうのかな?それとも真実を知るのかな?
どうでもいいや、私には関係ないし。」
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その数日後、授業中、新川梨亜は考えごとをしていた。
(あーあ、男子が嫌いなのに、男子校との連絡係になっちゃった。そういえば、四半期に一回の男子校・女子校の演劇研究会が今月あって、そのメンバーにも私選ばれちゃった。男子校行かなきゃいけないよ。憂鬱。あいつ、友利豊にも会わなきゃいけない。
それにしても、あいつ、女子と付き合ったことないなんて言ってたけど、ホントかな?
ものすごくモテて、いろんな女の子と付き合って、泣かしたっていう噂はどうなの?
そもそも、その話を聴いて嫌なヤツと思うようになったんだ。
その話を聴く前は、確か、ちょっと・・・かっこいい・・・かな?って考えてたかもしれない・・・
あれっ、うまく思い出せない。
あ、前に座っている宮本さん、確か朝日中学出身だ。聴いてみよ。)
チャイムが鳴り、梨亜は前の席に座る宮本琴音に聴いてみる。
「あのさ、宮本さん、朝日中学出身だったよね。ちょっと聴いてもいい。」
「うん、いいよ。何?」
「演劇部の友利豊君って知ってる?」
「おっ、イケメンの友利君ね。知ってるよ。すごい人気だったもん。」
「性格悪くなかった?私、すごく性格悪いって噂聴いてたんだけど。」
「とんでもない。すっごく性格よかったよ。可愛い子にも可愛くない子にも同じくらい優しくて、
しかも、誰とも付き合わないから、卒業までモテまくり。
何か、すごくストイックで、部活に夢中で女の子と付き合ったら、構ってあげられないから、つきあわないんだって言ってた。」
「そ、そうなの?」
「そういえば、新川さんも噂とは違うね。もっときつい人かと思ってた。パワハラ部長の噂があったけど、全然ちがうじゃない。確かに気の強さは感じるけど、優しいところもあるし、可愛い女の子で安心した。
あ、中学の時の噂って、あてにならないね。」
「そ、そうだね。」
(どうしよう。友利君って、イメージと違うじゃない!ああっ!やだっ!恥ずかしくなってきた!)
梨亜は自分の机に突っ伏した。
女子野球も盛んになってきたので、お話に取り入れることにしました。
宮田朱里ちゃんって、策に溺れた策士って言う感じですね。
新川梨亜ちゃん可愛いな。恥ずかしくてたまらない彼女の気持ちわかります。




