10 演劇部に入ってしまった。
俺は、板谷翔。男子校の桃花高校1年生。
高校に入ったら、何かに夢中になろうと思ってた。
中学時代、部活に入らず、何となく過ごしてしまったからだ。
あと、中学の時は恋愛もうまく行かなかった。
それなりにまともな容姿で、178センチあるから、一部の女子生徒から好かれたけど、
自分の好きな女子とはうまく話せず、告白もできなかったんだ。
自分を変えたい!そう思って、桃花高校にはいったら、
早速面白い事を見つけた。
入学早々、ちょっとしたきっかけで話した同級生、小出葵が、学校の女形制度の
「姫」に選ばれたという。
こりゃ、一緒にいたら面白そうだ。
演劇部に入って、小出がどれだけ、女っぽくなるか、芝居で成長するか見てみたい。
小出は可愛いくて、性格もよさそうだ。
親友にしたい。
俺は、やはり、入学後意気投合した尾崎皆と相談し、演劇部に入部することに決める。
尾崎も、何かに夢中になりたかったようだ。
中学の時に運動部に入っていたようだけど、いろんな嫌なことがあって、高校ではやりたくないと
言ってた。
俺の「演劇部で、女形の小出をサポートしながら、演劇の勉強をしてみないか?」という提案には
「そりゃいい!」と全面賛成してくれた時はうれしかった。
最初は小出には、二人が入部することは秘密にしていた。
驚かせたかったからだ。
新入生が顔を合わせる日に、小出はかなり驚いてくれて、期待通りだった。
まあ、それにしても、小出は女の子っぽい。
話し方や性格はふつうに男だけど、背は低いし、顔はちっちゃいし、肩幅狭いし、
髪の毛もちょっと長くて、女の子風だ。
これで、女装したらどんな感じになるんだろう?
そして、芝居ができるんだろうか?
あ、そんな心配しててもしょうがないか?
俺たち二人も、一生懸命やらないと、大道具係しかやらせてもらえないかも。
なんせ、芝居はど素人だ。
中学の時からやってた人間と違う。
小出と一緒に成長しなきゃ。
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週末、俺は、地元の大規模ショッピングセンターにやってきた。
ちょっと、服を買いにきたんだ。
中学までは親に服を選んでもらってたけど、今日は一人で買う。
親は、資金だけよこし、「自分で選んできなさい。もう高校生なんだから。」
と言ってくれた。
けっこう、オシャレな親だから、自分でセンスを磨けってことなんだと思う。
高校になったら、彼女ができるかもしれない。
男子校にいるけど、演劇部に入ったから、女子高との合宿とかある。
交流のなかで、いい子と知り合いになれるかもしれない。
オシャレを磨かなきゃ。
カッコいい男になろう。
もらった資金では、そんな買えないけど、見て回って、いろいろファッションの勉強ができる。
がんばらなきゃ。
俺は、片っ端から、紳士服の店舗、バッグや時計の店舗、スポーツウエアの店舗とかを
回る。
雑誌とかネットでいろいろ勉強してたけど、やはりリアル店舗じゃないと、わからないことがいっぱいある。
予算で買える納得の服だけを何とか選んで、買い物を終えた。
成果はまずまずだ。
そして、ファーストフード店で、コーヒーを飲んでくつろいでいると、
ボブカットの高校生くらいの可愛い女の子が店の前を通るのを見かけた。
母親と、20才くらいの女性といっしょだ。お姉さんかな?
「あれっ?もしかして。」
どう見ても女の子に見えるし、話している声は女の子の声だし、
口紅塗ってるけど、
あれは・・・小出じゃないか?
体格的にそうだよ。
髪の毛はなんか微妙に可愛くなってるけど。
小出に違いない。
スカートはいて、胸もちょっと出てる。
女の子に見えるけど俺には本物の女性じゃないってわかる。
小出だ!
学校で仲良くなって、1週間くらいか?
可愛いくてじろじろ観察してたから、わかっちゃうよ。
うわー、ヒールのある靴はいて、ミニスカだよ。足きれいだ。
たぶん、女装始めて間もないと思うけど、
見事に女の子だ。
すげえー。素質あるんだ。
あんなレベルなら、俺と歩いていたら、高校生カップルに見えるかもしれない。
もし、小出だって知らなければ、惚れちゃうレベルだ。
今の時点で、あんなに可愛いんだから、これから本格的に女性の演技を勉強したら
どうなっちゃうんだ。
俺、あいつの相手役ならやりたいな。
がんばってみようかな。
よし、あいつに似合うかっこいい主役級の役者を目指すっていうのもありか?
うん。
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俺は、急いでコーヒーを飲んで、追いかけた。
「小出!」走りながら声をかける。
「えっ!」
葵とお母さん、お姉さんが振り返る。
「小出だよな?
なかなかいいと思う!
最初気づかなかったけど、何とかわかった。
すげえ、可愛いよ。」
「あらあら、お友達?」
お母さんが興味深そうな表情で声をかけてきた。
「なかなかカッコいい男の子じゃない。」
お姉さんが褒めてくれる。
うわ、年上の女性に褒められると
恥ずかしい。
でも挨拶はきちんとしないと。
「えーっと、
同じクラスで、演劇部に一緒にはいった板谷です。
よろしくお願いします。」
「ふふふ、爽やかな子ね。うちの娘をよろしくね。
仲良くしてあげてね。」
「可愛い妹だから、大事にしてね。」
何だ?女の子扱いしてるぞ、このお母さんと、お姉さん。
ちょっと冗談ぽく言ってるけど。
小出は急に声をかけられてことと、家族のオフザケに対し、どうしていいか困ってる。
そりゃそうだ。
今は、女装してるから目立ちたくないよな。
さっさと退却するか。
「いきなり声をかけてごめん!
月曜日からあっちの学校で頑張れよ!
じゃあな。」
俺はお別れの挨拶をして、踵を返し、急ぎ足でその場を去った。
あのお姉さん、美人だけど、小出にそっくりだったな。
小出も、髪の毛伸ばして、色っぽくなればあんな感じになるのか?
ああなったら、ドキドキしそうだ。
なんか楽しみになってきたぞ。
男子校に戻って来るのは2週間以上先か?
待ち遠しいな!




