第八幕 WYVERN(ワイバーン)「敵の正体を知って、それでも戦いを止めないのか」編
ついにワイバーンが目の前に姿を現わした。俺と北条政子ことホマーはワイバーンを倒すために挑む。ただ力任せに戦うだけでは勝てない相手を倒すために、秘策を巡らせる。
俺の車椅子はタダの車椅子じゃない。ワイバーンが息を潜めていたこの数ヶ月、俺は車椅子を有事に備えて強化していた。ざっとリストアップすると以下のような機能をもつ。
・電動アシストするモーター駆動システム
・モーター駆動システムに付随した3分間限定の加速装置
・車体後方に二人乗り用の台座を装備
・車体前方に射出可能な有線式のフック
・周囲を照らすライト
この装備を車椅子にすべて組み込んだ時、ただ歩くだけでは出来ないことも可能になったと確信した。
「ホマー!後ろに乗れ!」
「これに乗るの?私は走れるわ!」
「いいから!」
ホマーはまだ改造された車椅子の機能を知らない。ホマーが後ろの台座に乗ったのを確認すると、俺はモーター駆動システムを起動した。
ヴウウゥゥン!!
「行くぜ!ちゃんと掴まってろよ!」
「わ……きゃあああ!!!」
モーター駆動システムを起動すると、手で車輪をほんの少し回転させただけで高速で車輪が自転をするようになる。上限速度を高めに設定しているので、電動アシスト自転車の高速版と考えてもらえるとわかりやすい。
「市街地まですぐにつく。このままワイバーンの追撃を問題なく避けられれば、より早く着く。ホマー、後ろを見張っていてくれ!」
「ワイバーンがこちらに向かってきてるわ!翼で大風を起こしてきた!!」
「避けられるかな……!?」
「スケさん!風が来る!」
「よし!!ちゃんと掴まって!」
フロントの補助輪を右に切ると車体は一気に右方向に移動する。竜巻とも言えるほどの土埃の渦が左前方へと過ぎ去っていく。だが、竜巻は再びこちらに戻ってきた。
「スケさん!」
「分かってる!!」
今度は左に切る。竜巻は右後方へと過ぎ去る。
「ホマー!可能な限り避けるから、なるべく魔法は使わずに温存しておくんだ」
「助かるわ!」
「最後はホマーが決めるだろう。俺にできることはホマーを送り届けることくらいだ」
「頼りにしてるわ、スケさん!」
「へい!」
会話を楽しんでいるときに限って、ワイバーンが追いついてきた。そして目の前に立ちふさがる。
「逃げられると思うなよ!資長!!」
「く……!これならどうかな!?」
有線式のフックを射出した。これからはワイヤーフックと呼ぶ。ワイヤーフックは車道前方の信号機の支柱に巻き付く。そして引き戻し操作をすると、車体ごと宙を舞った。
「いやああああああ!!!」
「ちゃんと掴まってろ!!飛ぶぞ!!」
「もう飛んでるじゃないぃぃ!!?」
ワイバーンのすぐ横をすり抜ける。その瞬間、ワイバーンの横顔がすぐとなりに迫ってきた。ふと目線をヤツの目に移す。爬虫類のような顔つきをしている。ヤツの目は赤く光っていて真珠のような瞳をしていたが、その奥には憤怒の炎が燃え盛っているように見えた。
「うっ……!」
「スケさん!ワイバーンの目を見てはだめ!心を乗っ取られるわ!!」
「乗っ取られる?何を言っているんだ。そんな馬鹿なこと……?」
その時、自分の手を何気なく見ると、手がワイヤーフックの切り離しボタンのところに向かおうとしている。いまワイヤーフックを切り離したら、ビルに激突してしまう。
「!!」
焦った。いまこの瞬間だけ、ワイバーンに乗っ取られていたというのか。慌てて手を元の位置に戻した。
「助かった……!」
「もうヤツに目を合わせてはだめよ」
「ああ……まさか意識を乗っ取られるとは思わなかった」
ホマーはワイバーンの目に意識乗っ取りの効果があることを知っていたのだろうか。
「ホマー。済まない。俺がヤツの目に意識を乗っ取る能力があることを知らなかったばかりに」
「私も今気がついたの。あなたの様子がおかしかったのを見て、それで分かった」
「そうか。ワイバーンの能力がまだ完全に理解できてない。情報が足りない……」
ワイヤーを適切な位置で切り離す。車体を脇道に転換し、住宅地の細い道に入る。この道ならヤツも自由には動けないので、攻撃を受けにくくできるかもしれない。
「このまま裏道を通れば駅前に出れる。そこからはホマーが罠を仕掛けたポイントが近いんだな?」
「そう!駅前に出たら私が指示するわ」
「よし、行くぞ!」
ワイバーンは上空を飛んでいるが、俺達が走っている住宅地の道は左右に建物が並んでいるので、奴は入り組んだ住宅街の真ん中まで入ってくるのに手間取っているようだ。複雑な飛行には向かないタイプなのかもしれない。
「これならヤツも攻撃できまい!」
その時、ワイバーンの口元が一瞬光ったかと思うと大量の炎が吐き出された。炎は住宅街を焼き払う。このままでは行く手を炎で阻まれてしまう。
「く!まずいな。奴は力技で俺たちをあぶり出すつもりだ!」
「魔法を使うしかないわ!!」
「くそ!この車椅子に消化器を備えてればよかった!!」
「そんなに豪勢な装備をしたら重くなって走れなくなるでしょ!!」
「そ、そうだな……!すまんホマー、魔法を頼む!」
「この程度なら大したことはないわ!」
ホマーが手を空にかざすと空が暗くなり、土砂降りの雨が降ってきた。周囲を包んでいた炎が一気にかき消えていく。
「よし、突き進むぞ!」
鎌倉駅前まで来た。駅前の風景を見ると三年前を思い返す。三年前、俺はここで源義経と戦ったのだ。江ノ電にのって片瀬江ノ島駅まで行ったな。あの頃は(今もそうだが)直感だけで敵と戦っていた気がする。三年が過ぎて、こうして再びこの地で敵と戦うことになるとは思わなかった。
「ホマー!どっちに行く!?」
「なるべく江ノ電沿いに走ってほしい。できれば裏道を優先して!」
「オッケ!」
江ノ電の周囲は住宅街が続く。海辺まで行くと海岸線に近いところをずっと走っていく、いい風景が続く素晴らしい電車だ。平日は学生さんも多い。でも今はワイバーンの攻撃によって市内に警戒令が出されている。そろそろ自衛隊が来る頃ではないか?
ウオオオオオーン!!ウオオオオオーン!!
サイレンの音が鳴り響く。
「その交差点にワイバーンを引きつけてほしい!」
「よし、わかった!」
ワイバーンが丁度、俺たちの上空を通りかかる。
「ぐふふふ!!こんなに広いところに出てきて大丈夫かなぁ?」
ワイバーンがこちらに急降下してくる。すると鋭い爪を振りかざしてきた!
「しねぇええええ!!!」
「くっ!来るぞ!!」
「分かってるわ!臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前」
ホマーが九字を切ると、交差点の周囲の電信柱が光り出す。光が繋がり、線を描く。下から見ると魔法陣のように見える。
「破邪顕正!!」
ホマーが叫ぶと光の魔法陣の中央から巨大な獅子(ライオンが伝説化した存在)が姿を現した。
獅子は全身が長い体毛で覆われている。顔は赤く、口は大きく開かれており、頑丈な歯を持つ。目はギョロリとしており、憤怒に満ちている。手は鋭い爪を持ち、どんなに硬いものも切り裂くような強さを感じさせる。
さらに特徴的なのは、その動く姿だ。ふらりふらりと舞うように移動するのは、東北の祭りに出てくる獅子舞のそれだ。しかし、獅子舞と違って動きは大変速く、簡単にとらえることは出来そうにない。
「さあ、ワイバーンに襲いかかりなさい!そして、私達を守るのよ!」
「グルルル!!」
獅子が跳躍すると上空にいるワイバーンめがけて飛びかかった。
「グオオオンン!!!」
「う!何だこの化け物め!!くそ!離し給え!!」
獅子が鋭い爪でワイバーンを引っ掻き回す。
「うごおおお!!!」
「ホマー!あの獣は一体……!」
「獅子よ。獅子舞を見たことある?あの獅子のモデルになった存在よ。鋭い爪はどんな敵も簡単に切り裂く。そして一番の武器は」
獅子が大きく口を開けると、どんな存在も噛み切るような立派な歯が剥き出しになる。歯がワイバーンの首元に喰らいつく!
ガシイイイ!!
「お……!!おごおごおおおお!!!!」
ワイバーンの首から大量の血が吹き出る!
「うわ!!エグいな!あれはワイバーンでもひとたまりもないな!」
「スケさん!今のうちに次のポイントに向かってほしい。このまま前に……!」
「よ、よし!行くぞ」
ホマーがどれだけこのような仕掛けを用意したのか検討もつかない。後ろでワイバーンの苦痛に満ちた絶叫が聞こえる。
「おごおおおごぐぎががががが!!!」
その時だった。
ワイバーンの全身が光り始め、形を変えていくように見えた。
「ぐ……ぐふ、ぐうふふふふ!!」
ワイバーンは血を吹き出しているのにも関わらず、不敵な笑みを浮かべている。ワイバーンの体が龍の姿から人のような姿に変わっていく。この姿、悪魔そのもの。
「人の姿!?悪魔か!」
俺は”裏切り者の名を受けて”と始まる歌を思い出していた。だが、こいつはあんなにかっこいい男ではない。こいつは……!
「資長くん。君にこの姿を見せるのは初めて……でもないかもしれないな!」
「あ……あなたは!!」
この姿は、俺の働く会社の社長、吉田 敬司!!
続く
もう8月ですね……突然の熱帯夜で、作者は参ってます……今。




