第十幕 WYVERN(ワイバーン)「最終決戦前夜」編
ワイバーンを倒すため、ホマーが仕掛けた罠にワイバーンを誘い込むことに成功した。罠は術式になっており、ワイバーンを拘束し体力を奪っていくが……
「ぐうおおおおお!!この強力な拘束力は一体何だッ!?」
「ふふふ。ワイバーン!あなたに合わせた特製の拘束術はどう?あなたが力を出せば出すほど、その縄はあなたを締め上げる」
ワイバーンはかつて江ノ島があった場所に向かう、破壊された連絡路に続く交差点で、ホマーが仕掛けていた拘束術式によって拘束されている。ここまで誘導するために、すでに数時間が経過している。
三年前、俺とホマーは江ノ島と一体化した源義経と戦い勝った。そして今、ほぼ同じ場所でワイバーンこと吉田敬司と戦い、勝つと決めている。
ホマーが仕掛けた術は、海に沈んでいった怨念の力を蓄えて強力な力を得ることが出来る。鎌倉は長い歴史を持ち、1000年前には幕府も設置され、大きな戦いも起きた。深い海のように怨念が蓄積されているので、怨念を使った術を仕掛けるにはもってこいだ。
術が仕掛けられてから数ヶ月ほど経つが、蓄えたエネルギーは相当なものとなっているようだ。だが、実際に術がどれだけワイバーンにダメージを与えられるのかはわからない。
「ホマー!この術はどれだけ奴にダメージを与えられるんだ!?」
ホマーは目線をこちらに向ける。ワイバーンをじっと見ていた目は、まっすぐ相手を貫くような強さを持っていた。その目つきの鋭さが一瞬だけ自分に向かったので内心ビビった。
「術にかかっている時間が長ければ長いほど、深くダメージを与えられるわ。けど、あの様子だと、術自体がワイバーンを長く捉えられそうにないかもしれない」
拘束されたワイバーンが暴れまわり、大きく口を開ける。閃光が辺りを照らすと物凄い熱気が伝わってきた。周囲が炎で焼き尽くされる。道路も、建物も、逃げ遅れた人々も、皆燃えていった。
「う……!ホマー、あまり考えないようにしていたんだけど、今回の戦いは源義経の時と違って、実体化した化け物と戦っている。奴が暴れれば暴れるほど、リアルで多くの人を巻き込んでしまう!」
「スケさん。なるべく被害が出ないように努力はするけど、ここでワイバーンを倒さなければより多くの人が地獄に堕ちていくことになる。今は耐えてほしいの」
「く……ッ!」
人が死んでいるんだぞ、と言いかけたが止めた。いまここで奴を倒すことだけに集中できなければ勝つことは出来ない。悩むのは後でも良い。ホマーは強いな。でも、俺は人の生死に慣れていない現代人だ。内心はかなり動揺する。
「すまない。今は余計なことを考えず、奴を倒すことだけに集中する」
その時、ワイバーンが翼を動かし、大風を起こしてきた。大風に炎が巻き込まれ、巨大な炎の竜巻になって周囲を焼き尽くす。このままでは周囲に仕掛けられている拘束術式が破壊されてしまう。
「まずい!拘束術式が解かれてしまう……!ホマー!俺の後ろに乗って、奴の周囲を回って水をお見舞いしてやれ!」
ホマーが車椅子の後ろに乗り込む。俺は全速力でワイバーンの周囲を回った。時折炎が行く先を阻むが、ホマーの水攻撃魔法で消化する。
「スケさん、このまま氷の刃でワイバーンを攻撃する!炎を使うと周囲への被害が拡大する上に、奴には高い炎耐性があるように見えるわ!」
「わかった!隙を見て奴の正面に出るから、奴の顔面に氷の刃をお見舞いしてやれ!」
火の手が止んだワイバーンの後方から前方に一気に出る。一瞬、ワイバーンが俺たちを見失った瞬間を逃さない。ホマーは手を前にかざし、氷の刃を生成する。
「いけ、氷の刃!!奴の目を潰すわ!!」
氷の刃がワイバーンの目に向かって何発も飛んでいく。刃はワイバーンの目に突き刺さり、苦痛の声を上げる。奴の目からは血が吹き出る。
「ぐおおおおおお!!!目……!!目がっ!!見えぬ!!!」
「ホマー!今がチャンスだ!奴を完全に凍結させることは出来るか!?」
「絶対零度を試してみるわ!」
「絶対零度!?」
絶対零度とは、摂氏マイナス273.15度の超低温状態だ。原子の振動が止まり、奴の生命活動も止まるだろう。だが、そんな危険そうなことをやって、大丈夫なのか?
「周囲への影響はどれだけのものなのか?」
「大丈夫よ。絶対零度をワイバーンのみに適用することが出来るの。周囲に影響することはない。奴を完全凍結させて、一気に砕くつもり」
「いつの間にそんな事が出来るようになったのか!?」
「スケさんが入院している間、コンビニでマイナス196度ストロンガーゼロというお酒を買って飲んでいたの。とても美味しくてハマった。で、ふと思ったの。マイナス196度を自分でも出来ないかって」
うわ……!ストゼロかよ。気づかない内にホマーが完全にキッチンドランカーになっちゃってたよ!
「そして、いくつかの術式を組み合わせて完成したのがこの絶対零度よ!絶対零度はマイナス196度を大きく超えて、マイナス273度の超低温よ。これでおいしいお酒が作れるに違いないわ!!」
「ホマー……!!ごめん!俺がホマーをほったらかしにしちゃったから、飲兵衛になっちゃったん……」
「さあ、喰らいなさい!!絶対零度!!!」
ホマーの手から幾何学模様の線が現れ、中心から光線が発射されワイバーンに照射される。ワイバーンはようやくこちらに気づいたらしいが、目が潰されている上に、もう遅い。俺たちが元いた場所めがけて爪を振りおろしてきたが、そこに俺たちはいない。すでに奴の懐に入り込んでいた。
「良い動きをしてるわ。スケさん、腕を上げたわね!」
「これだけ戦ってれば運転テクニックの一つや二つ、出来るようになるよ」
「術式は第二段階に移行するわ!絶対零度、セクション2!!」
絶対零度の術式は第二段階に移行する。ホマーによるとこの術式は3段階に分かれるらしい。何をやろうとしているのか聞いても全くわからなかったが、3段階目で絶対零度に一気に到達するらしい。その間、ワイバーンの攻撃を避け続けないといけないが、奴の目を潰している分、こちらはかなり有利だ。
術式がセクション2に移行すると、ホマーの手から放たれる光線の色が青白くなる。ワイバーンの動きが鈍くなり、やがて停止する。
「グ……ガガ……」
「もう奴は動けそうにないな」
この戦い方……どこかで見たことがある。そう、あの時もそうだ。マグマの巨人になった源義経だ。あいつを倒した時も、水で冷却して頭を削ぎ落として終わらせた。俺たちは敵を倒す時、揚げ物を調理した油を固めて捨てるかのように倒してきた。
「今回も固めて倒すことになるのかな……」
「まって。ワイバーンの様子がおかしいわ!」
「グ……グギギ!!」
ワイバーンの動きが鈍くなったが、同時に小さくなってる気がする。縮んだのだろうか。
「おいおい!ワイバーンの野郎、縮まっちまったよ。随分元気なくなったな」
「違う。姿に反して強力な力を感じるわ……これは!」
「んん!?」
ワイバーンが縮小していき、やがて見えなくなるまでに小さくなった。そして、視界から完全に消失した。
「き、消えた!!!???」
「ワイバーンはどこかに移動したのか?それとも、いまので消滅したのか!?」
「違うわ!ワイバーンのエネルギーは確かに感じる。それもさっきよりもずっと強力な力を感じるわ!どこかにいるはずだけど、わからない……」
「おい!ワイバーン!!隠れてないで出てこいよ!」
煽る。
「なんだ?散々俺たちを煽っといて、怖くなって逃げ出しちゃったのかい?」
今はむしろ、俺が煽ってるんだけどな。
「寂しいな。俺、お前のこと、けっこう好きだったんだぜ」
「何、適当なこと言ってるのよ!」
「ホ、ホマーがツッコミを入れるなんて、珍しいな!」
「スケさん……そろそろ戦いに飽きてきたんでしょう」
「いやいや!そんなことは無いぞぉ?俺はいつだって真剣さ」
正直なところ、ワイバーンを倒せる気がした瞬間から、作業をしているような感じがしていた。奴を倒して平穏な日常を取り戻す、それは絶対だ。だけどなんだろう。その後、どうするんだ?俺たちは平穏な日常を取り戻して、それでどうなるんだ?
「変な話だけど、この戦い、結構楽しかったよ。俺の人生は色々あったけど、いつも物足りない感じがしていたんだ。そこに、なんかデカイ目標が突然現れて、それを乗り越える楽しさというか、そういうのを感じているんだ」
「……」
「ホマーがいなかったら、こんな実感は沸かなかったと思う」
「スケさん……」
「ふっふっふ……太田くん。人生の目的に目覚めたんだね?」
「!!!!!」
そこにいたのは……見たことのない男だ。誰だ!?
「お前は……!?」
「スケさん!!離れて!!」
ズン!!!
「ぐッ!!」
鋭利なナイフで刺されたような感覚が脇腹を貫く。しかし、それはナイフではなく、手だった。
「お、お前は……!?」
「お初にお目にかかる。私の名は田沼 意次というものだ」
「た、田沼……!?」
続く
物語をたたむ方向に進んでいます。あ、最近転職しました。




