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Silver Ring  作者: 紫花
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間章

夏休み終盤。

いつまでも終わって欲しくないと思うのは俺だけだろうか。

少なくとも、俺は永遠を望む。

宿題は残り一つ。

なので少し余裕がある俺は、


「衛兄ちゃん!」


と、俺を呼ぶ天使と外を歩いていた。


金の髪、翠の目を持つ、十二才程の小さな天使、蒼良・サンデル。

多くの能力を持つ十二個の宝石が付いた数珠『ゾディアック』を使う、紗良の義妹(いもうと)


初め、彼女は俺の並外れた生命力を測りにやってきた。

だがそれはあまりに予想を超えていたらしく、幼い天使は俺を殺そうとしたのだが、その事でなぜか義姉(あね)と対立してしまった。

「ケンカ」の末二人は和解、どういう訳か俺は蒼良に好かれ、今のところ死なずにいる。

「殺せ」という命令は「逃亡された」という事で失敗に終わっているらしい。


とにかく、今生きている俺は、黄緑のワンピースを着た少女と夕方の散歩をしていた。


「なんだ?」


「今日はね、ボクの特別な日なんだ!

知ってた?」


「いや、知らなかった。

誕生日は五月だろ?」


問いかけに、蒼良はうん☆と頷く。


「そうだよ。けど今日も特別な日なんだよ。

だから…ちょっとボクについて来てくれる?」


「?

…あぁ。」


明るく振舞う蒼良の表情は、なぜか曇っていた。



*  *  *



向かった先は玩具(おもちゃ)屋だった。

けどそれが『特別な日』と何の関係があるのだろう。

中に入り、彼女はまっすぐに、ある売り場に行った。


ぬいぐるみ、だった。


熊や兎、犬などの可愛らしい人形がズラリと並んでいる。

だが、蒼良はぬいぐるみ達の中に入ろうとしなかった。


「…中、入らないのか?」


「ここまでが限界。

実はいつもは玩具屋にも入れないんだよ。

ここまで来れたのは衛兄ちゃんのお陰。」


「…『特別な日』って、ぬいぐるみと関係してるのか?」


「そうだよ。

…衛兄ちゃんだけだよ。この話するの。」


遠くを見て、天使の少女は話し始めた。


「ボクは、世間知らずのお嬢様だったんだ…―」



*  *  *



少女は、ある裕福な家に生まれた。

何不自由なく、いつも周囲には家族、友達がいた。

学校という社会の波には入らず、隔離されるように日々を過ごした。

世界の闇を知らずに…。


ある年、ある日、少女とその家族はある国へ旅行に行った。

平和な国で、争いを知らないような場所だった。

肥沃な土地で、過ごしやすく、少女達はすぐにこの国を気に入った。

どうせならこの国に住もうか、そんな事も考えていた程だ。


滞在から数日、少女は退屈し、その国の小さな玩具屋へ行った。

そこで、ぬいぐるみを買おう、そう考えたのだ。

なかなか気に入るものが見つからず、諦めかけた時、少女は隠しているように置かれたテディ・ベアを見つけた。

それは大人の目線では見えないように配置してあった。

少女はテディ・ベアを手に取り、ある事に気付いた。

テディ・ベアが、震えているのに。

不思議に思った少女はテディ・ベアを調べた。

すると、背中にファスナーがある事に気が付いた。

少女はそれを開けた。

中には、






金属の光沢とビニール製の紐とデジタル表示の「00:01」と




「ピピピ」が連続して、

連続し過ぎて、






「ピー」に変わってしまった音。






そして彼女の世界は終わった。






後日、天使になった彼女は知った。

平和な国は、実はその土地が素晴らしすぎる故にたくさんの国から狙われていた事。

あの日が争いの始まりになった事。

あの人形の一番近くにいた自分は、焼け焦げ原形すら分からなかった事。

家族はそんな自分を「自分」と認めず、逃げるように帰って行った事。

家族は自分の事を疎ましく思っていた事。

友達は自分の事を嫌っていた事。

自分には、力が無かった事を。



*  *  *



「そして、『ボクの望む力』と、『あった筈の可能性』を材料として、ボクの『ゾディアック』は生まれたんだよ。

変身してる時のあの大人の姿は、今生きていたらの自分。

もう世間知らずのお姫様にはなりたくなかったから…」


「蒼良…」


俺は何も言う事が出来なかった。

同情、憐み、そんなものは言える訳がなかった。

彼女にもそんなのは必要ないだろう。

行動を起こしても、逆効果の気がした。

だから俺は、黙って目の前のぬいぐるみを見ているしかなかった。


「…さ、帰ろっか。」


蒼良はしばらくしてから、明るく俺にそう言った。


「分かった。

…そうだ、アイスでも食べるか?」


「うん!ボクグレープフルーツ☆」


「……売ってるかな…?」


当然のように言う彼女の言動に苦笑しながら、相槌を打つ。


「ん〜…、じゃあ何でも良いや。

その代わり肩車してくれる?」


「良いぞ。」


そして肩車をしながら俺と蒼良はコンビニへ向かった。

案の定グレープフルーツ味のアイスはなく、仕方なく蒼良はオレンジ味のアイスキャンディを買った。

夕闇迫る中、家へ帰っている最中、少女は聞いた。


「ねぇ、衛兄ちゃん?」


「ん?」


「ボクは弱虫かな?」


「なんでだ?」


「今だってこうやって甘えてるよ…?」


小さく、か細く、彼女らしくない声で。

蒼良は心情を吐露する。


「弱虫と甘えは違うと思う。

それにお前は弱虫じゃない」


「なんで?」


「さっきお前は何をした?」


「え?

…玩具屋に行った、だけだよ?」


「過去に立ち向かっていただろう?

だから蒼良、お前は強い奴だよ。」


「衛兄ちゃん…」


蒼良はそれから黙りこくってしまった。

家に帰るまでずっと。

だが一言だけ、聞き取れない程小さな声で言った。


「……………」


「ん?

なんか言ったか?」


「え?

何も言ってないよ。」


本当は聞こえていた。

彼女が言った言葉は、




「ありがとう」。

本編でありながらも、途中休憩のような章、それが間章です。

けれど内容的には重かったりします(汗)


閲覧ありがとうございました。

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