八章-end-
召喚の素顔
ルリさんが「大切なひと」の事を語っている時、諦めと情愛が混じった感情が彼の言葉や動作に滲み出ていた。
今でもその人が大切なのが、よく分かった。
勝手な事だったが、俺は願った。
(ルリさんの「大切なひと」を、ここに…)
ルリさんと同じ名の石が輝き、光が生まれた。
光は黒い霧と同様にその人の場所へと向かった。
程なくして、光は俺の正面に落ちた。
誰かのその中に含んで。
納まった光の中には、
「あれ…?私、何故こんな所に…?」
「玻璃さん!?」
以前天使の礼服を作ってくれた玻璃・ニーダさんがいた。
つまり彼女が、ルリさんの「大切なひと」なのだ。
「その声…バンクスさん?」
「そうです。俺があなたを呼んだんです。早く行きましょう!」
俺は玻璃さんの手を取って願った。
(今すぐルリさんの元へ…!)
かつて蒼良が俺にかけた転移の魔法、「トランスフェアレンス」。
それを使ったように『エトワール』は俺達をルリさんの所へと導く。
彼の家に着いた時、ルリさんは家の表に出る所だった。
まるで、こうなる事を知っていたかのように、ゆっくりと。
「ルリさん!!」
「…るり?」
背後で玻璃さんが小さく呟く。
「ルリさん、ごめんなさい!…連れて来ました!」
「…やってしまったね、ナイト君」
ルリさんは少し寂しくそう言った。
まるで、それをする事が間違いのように。
「はい…知ってたんですか?」
「名前の力でね。仮名の『視千』は『千を視る』という意味だ。俗に言う千里眼だよ」
ルリさんは自分の目を指差し、言った。
そこで、掴んでいた玻璃さんの手の感触が消える。
彼女は俺の一歩前に踏み出した。
「瑠璃…あなた…」
「…ごめんね、玻璃。僕の友達が、君をこんな所に連れて来て」
俺が悪い、そんな言い方だったが、表情は自分を責めているようだった。
その顔を見て玻璃さんは言う。
「ううん、私がいけないの。向こうの方が私のしたい事が出来るからって、あの日から数百年もあなたの事を放って、天使でいるんだから」
「さっさと昇華しない僕が悪いんだ。…君と同じだよ、玻璃」
昇華とは、悪魔が天使になる事だ。
神様の耳に届くくらい、良い事をしなければ出来ないと言われている。
二人は、ぐずぐずと私が悪い、僕が悪いとしばらく言い合っていた。
煮え切らない二人の態度に、俺はつい言ってしまった。
「…結局、会えて嬉しいのかよ、嫌なのかよ?
お互いが悪いのはもう分かってるんだ、天使とか悪魔とか今はそんなのどうだって良い。素直に再会を喜べよ」
そう、ただの生き物として。
元人間として。
「大切なひと」同士として。
「…そうだね」
ルリさんはそう呟き、玻璃さんを素早く抱き締めた。
「「!!??」」
俺と玻璃さんは驚いた。
玻璃さんはルリさんの突然の行動に、俺はそれを目の前で見せつけられた事にだ。
「ありがとう、ナイト君。目が覚めたよ。…玻璃、僕は君に会えて嬉しい。君は?」
「私も…。バンクスさん、ありがとうございます。私をここに連れて来てくれて…」
玻璃さんが言い終わった後、ルリさんは玻璃さんに囁く。
「…二回目、だね」
耳から唇へ。
ルリさんは見せつけてくれた。
一瞬驚いた玻璃さんも、すぐに受け入れ、目を閉じた。
俺は逃げるように『エトワール』で自室へ帰った。
(普通人前でするかよ…)
直後、俺は思った。
(天使とか、悪魔とかを忘れて、素直に…)
自分に当てはまる、自分で言った事。
(伝えよう、この事を…)
ズボンのポケットに入っている、二つの指輪を握り締め、決めた。
(紗良に言おう、素直に…)
なんだか衛多が暴走し始めましたね(笑)
まだまだ暴走する可能性あると思います…
閲覧、ありがとうございました。