序章-地獄編-
また、あの感覚が襲ってきた。
自分が宇宙飛行士にでもなって暗闇を漂う、そんな感覚だ。
暗闇を漂うのは、まるっきり同じ。
知覚できない自分の頬を歪ませ笑う。
より暗い場所に、気が付いたら俺は座り込んでいた。
目覚めても、目覚めていないような錯覚が襲った。
手を顔の前まで近付けて、ようやく目覚めていると理解した。
自分の足さえ見えない闇に手をつき、立ち上がる。
果てしなく広がる暗闇は、距離感を殺す。
けれど、なぜか落ち着く闇だった。
左手に握り締めていた、胸にあったはずの短剣に、俺は願う。
(光を生め)
生じた星のような光達が、俺を包む。
光の一つが、指に当たった。
天使との、繋がりの証を。
俺は闇の先へ歩き出した。
どことも知れない、この場所を。
『天界』から、地獄へ。
まるで幸せの絶頂から転落したような言い方だが、それは違う。
あの場所こそが、地獄だった。
だから俺は、逆だと考える。
この場所こそが、天国だと。
陽の当たらない楽園だと、俺は考えた。
残して来た者達の事を思う。
まず、両親。
今更だけど、まず今まで俺を育ててくれた二人を思った。
急に俺が消えた事を、どう感じただろうか。
悲しいだろうか。それとも何も分からないのだろうか。
今となっては知る術はないだろう。
次に、友達。
両親より近しく遠い、そんな関係だった。
悩みを言ったり、馬鹿をしたり、俺の毎日が楽しかったのは彼等のお陰。
文化祭、楽しかったな。
またやろうなんて言えなかった、俺が情けなかった。
そして、天使達。
個性的で、おかしな奴等。どこにもいない、存在の消えた者達。
自らの死という重い過去を背負いながらも、明るく笑っていた。
今何をしているのだろうか。こんな所にいる俺を心配とか、しているのだろうか。
もし彼女達に会ったらすぐ、謝りたかった。
(…紗良)
特にお前は、どう思っているだろう。
彼女が一番その気持ちを多く抱き、誰より上手くそれを隠すから。
間違っているであろうこの選択を、彼女はどう受け止めただろうか。
(今、何してるかな)
俺は、どこよりも広がる夜空を仰ぎ見る。
(…すぐ、戻るよ)
前を見据え、俺は力強く踏み出した。
そう、すぐに戻るから。
「とても大切」な、君の元へ…。
地獄編開始です。
下界編、天界編、二つを足しても地獄編は長いです。
色々な謎が明らかになる所なのでぜひともご覧になって下さい。
閲覧、ありがとうございました。