六章-end-
充足の死に顔
衛多くんを探すのに、一番簡単な方法があったのに、私は今の今まで忘れていた。
私が魔法で作った銀の指輪。
指輪に意識を集中して、彼の居場所を知る。
走って向かう途中、蒼良と萌の二人と合流して、向かう先―『天賜器庫』へ行った。
扉を開けて私は、
信じる事を一瞬やめた。
血の中に沈む、天使の姿。
私より少し背の高い萌はそれを見て、惨状を見ていない蒼良の腕を掴んでどこかへ駆けて行った。
おぼつかない足取りで、目の前の衛多くんに近寄る。
「えいた、くん?」
返事はない。
「えいたくん、…返事してよ!」
虚しく私の声が、天使の武器庫に響く。
彼の隣に膝をつく。
血なんか気にしていられなかった。
彼の頭を腿に乗せる。
触れた肌は冷たかった。
「…なんで?なにがあったの…?
教えてよ衛多くん!」
「…その『天賜器』は、『エトワール』ですね」
「…静歌さま?」
静歌さまは私と衛多くんの元に歩み寄り、彼の胸に刺さる短剣を見た。
「願いを叶える『天賜器』、『エトワール』。
…今の彼の姿は、何かを願った結果です」
「何か…?」
「例えば、この世界にいたくないから、自分をなかったことにしたい、とか」
「そんな…!」
その時、衛多くんの体を真っ黒い霧が包み始めた。
どこからか発生したか分からないそれは、彼を覆い飲み込み、やがて消えた。
「静歌さま…今のは…」
「紗良さん、冷静になりなさい。今の霧を貴女は知っています」
知っている。だがそれは、
「……『遣い』…、けど、なんで…」
「『天賜器』であれ、彼が自らを殺めた事は確かです。
…衛多・バンクスは、だから『遣い』に体を持っていかれ、地獄へ行ったのですよ」
「………」
『遣い』は、人を殺めた者の亡骸を、地獄へ攫う。
漆黒のその蠅の集まりは、たとえ自殺をした者でも例外なく、自分達の居場所へ連れて行く。
「私は神様に報告をしてきます」
小さくそう言い残し、固い靴音を鳴らして、静歌さまは立ち去った。
「…、なんでなの」
あの時、衛多くんは、これで良いと言っているようだった。
安らかな顔をしていた。
充ち足りた、表情だった。
「なんで!?なんでなの!?どうしてあなたが堕ちなきゃいけないの!?
…答えてよ、衛多くん!!!!」
私の叫びは虚しく白に、溶けていった。
次回で天界編は終了になります。
閲覧、ありがとうございました。