五章-end-
胎動の微笑み
艶やかな銀髪を後ろに引っ詰め、キビキビと歩く者がいた。
前を見据える真紅の目は、強い意志を瞳に宿している。
堅く引き結んでいた唇は、足音が静まると同時、言葉を発す。
「衛多・バンクスの生命力の正体が分かりました。」
―どのようなものだったのですか?―
それに返る言葉は、どこか遠い。
だが彼女の胸には何よりも強く響く声だった。
「…それが、彼は自ら生命力を作り出していたのです。
…そこまでしか分かりませんでしたが…」
静歌・キャロルは申し訳なさそうに言った。
だが、返事はとても優しかった。
―そうですか、ご苦労様です。それだけでも分かれば十分ですよ。
…では、そろそろ動きましょうか…。―
「…あの、神様…」
―なんでしょう?―
神は、言葉を待った。
生真面目な彼女なら、それに対する異論などを言ってくるのではないか、と。
しかし、静歌は周りを見渡し、か細い声で言った。
顔を俯け、その表情を読めないようにして。
「今ぐらいは、…姿をお見せしても良いのでは…」
ほんの少し見えた静歌の顔は、羞恥か何かで赤く染まっていた。
神は、小さく笑い、
―そうですね…。―
答えた。
眩い光が白い空間に発生する。
その色は黄金。
光が消えた頃、そこには一人の天使がいた。
緩く下方で一つに結んだ長い金髪。
空より青い碧眼。
雪より遥かに白い長衣を纏った彼は、優しく銀髪の天使を見つめる。
「…神様…」
「今の私は神様ではありません。唯の天使です。」
金の天使はそう言うが、銀の天使は首を振った。
「いえ、原初の天使、そして真の最初の大天使です。
シン・クリスト…」
頬を桜の色に染め、はっきりと静歌は言う。
「忘れていました。ありがとうございます。」
笑う彼は音をたてずに動き、静歌の赤い頬に手を伸ばす。
「…なんでしょうか、シン?」
「あなたは髪を下ろしていた方が似合いますよ、マリア。」
「静歌」ではない名を聞き、彼女は否定の言葉を紡ぐ。
「その名は捨てています…」
それを聞くとシンは、引っ詰めていた静歌の銀髪をほどいた。
「あなたが捨てたその名はずっと、私が預かっていました。
今この時だけは、あなたは静歌・キャロルではなく、マリア・ブレスです…。」
金糸が銀糸に絡んだ。
数秒も経たずに二人は離れる。
シンはマリアを抱き締め、囁く。
「動きましょう、マリア。世界の為に。
全てを護る神として、私はあなたに命じます。」
「仰せのままに、神様。
私は永遠にあなたと共に…。」
二人は顔を見合わせ、微笑んだ。
神様の正体、ついに登場です。
五章はこれにておしまいです。
次は間章です。
今の季節にピッタリ(笑)のクリスマスです。
なんだか衛ちゃんと紗良が急接近の予感、です(笑)
閲覧、ありがとうございました。