序章-天界編-
暗闇を彷徨う感覚。
上下左右がどこかなんて分からない。
あるのは途方もなく広がる暗黒だけ。
俺が誰かとか、何があったとか、いつどこでこうなってしまったのかなんて、もう知る術がない。
ただ、なぜか頭に閃くのは、
鮮やかな色の衣に、身を包んだ人。
仄かに明るい場所で、俺を見ていた。
青い目、茶色い髪、輝く鎌。
それと、あの衣の色は、何色だったか。
あぁ、そうだ。
俺は、その『誰か』に、何かをされて。
今きっと、この場所にいるんだ。
なら、その人の事を考えよう。
きっと、何か分かる筈だ。
俺は、誰だ?
何があった?
いつどこで、こうなった?
『誰か』は、誰だ?
何をされた?
今、この場所にいるのは何故だ?
よく考え、考え、思い出す、その色。
あの色は。
「桜の色…」
瞬間、俺の視界は、不意に光に包まれた。
そこで俺は全てを思い出す。
ど忘れをしていたように、光に包まれた途端、全てを思い出した。
俺は、堤 衛多という、人間で。
神の元に連れて行かれ。
東雲が流れる中、俺はある人に斬られ、自分の家の屋根から落ちていくなかでここに来た。
『誰か』は、天使。
あの輝く鎌で、俺の腹辺りを斬った。
今、この場所にいるのは、その天使のせい。
決して、それを思い出して、怒ってはいない。
だって、それは仕方のない事だったから。
いつかはされる事だったから。
だが。
今。
この場所に彼女はいない。
探さなきゃ。
もしかしたら、違う所にいるのかもしれない。
探さなきゃ。
今。
自分がどんな気持ちなのかは全く分からないが。
俺は、声に出してその名前を呼ぶ。
「紗良…」
会いに行こう。
きっと、今彼女は、自責の念に駆られているに違いないから。
天界編スタートです。
これは衛多が『天界』に着く前のほんの数秒の出来事です。
なので、彼が自分を殺した紗良の事をどう思ってるかが分かる、少し大事な話です。
閲覧、ありがとうございました。