表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Silver Ring  作者: 紫花
10/37

終章-下界編-

(はなむけ)の自嘲

『地球』の暦で、神の子と呼ばれる者が生まれて二千余年。

小さな島国の暦で、平成十余年。

もうすぐ霜が降りる月、ある日の夜明け頃、紗良の鎌『ヴァルキリー』によって、

堤 衛多という名の少年は、神の元へと向かった。

理由は、神様から与えられた生命力の持ち過ぎによる、人々の生命力の枯渇に関わるもの。

その事により、最低三百人もの命が消えた。

天使として、それは許す事が出来ないものだ。だから紗良は使命を遂行した。

天使としての、彼女は…。


「お義姉ちゃん、いた…」


蒼良が紗良を探して、ある場所にやって来た。


「なんで、ここにいるの?

衛兄ちゃんはもう神様の元だよ?」


そう、衛多の部屋、

いや、正確には衛多の部屋だった部屋(・・・・・・・・・・)に。

今、ここには何も無い。

シンプルな勉強机も。

小さめの洋服箪笥も。

彼等の出会いの場所でもある、ベッドも。

よく開け放たれていた窓にかかるカーテンさえも。

彼に関する何もかもが、無かった。


「萌は…?」


「萌は休みたいからってさっさと帰ったよ。」


「そう…」


「…お義姉ちゃんは、報告行かないの?」


紗良はゆっくり息を吸う。

鼻腔で感じるものは、少し埃っぽい空気だけだった。

人の部屋独特のにおいさえも消えるのかと、紗良は小さく静かに驚く。

吸いこんだ空気を吐き出し、彼女は絞り出すように声を発する。


「…行かなきゃね。」


「…紗良」


「…!」


初めて、蒼良が義姉(あね)の事を呼び捨てにした。

今まで、紗良の一族が彼女を迎えた時も、紗良の事は「お義姉ちゃん」だったのだ。

義妹(いもうと)は、凛とした口調で言う。


「ボク達は天使。誰かを救う種族だよ。

今回はそれが量の問題だったんだよ」


「分かってる…分かってるよ」


魔法の光を指先に灯し、紗良はゆっくりと帰る為に魔法陣を描いていく。


「行こう、蒼良。

考えてみれば、向こうでも会えるだろうし…ね。」


「……。」


(私、今どんな顔してるんだろう…)


彼女に知る術はなく、また、知りたいとも思わなかった。

紗良は、呟いた。


「トランス…フェアレンス」


紗良は消しゴムで消されるように、『地球』を後にする。

完全に紗良が移動する前、蒼良はポツリと言った。


「…お義姉ちゃん…

無理しなくていいのに…」


彼女が立っていた場所、床には、水滴が一つ落ちていた。



*  *  *



まずは、自室に移動した。

神様に会うのだから、ある程度の身支度はする。

とりあえず、人間に軽くではあるが抱きついたのだから、(みそぎ)ぐらいはしないといけない。


「ピュアファイ」


脱衣し、魔法を発動する。

優しい滝に、身を打たれるような感覚。とても心地よかった。

ふと、目を開けた。

目の前には一糸纏わぬ姿の私と、魔法の滝が映った鏡。

私は笑っていた。

嘲るように。もちろん自分を。

だから、私は自分に言った。


「…それで良いの、紗良。

笑いなさい、自分を…」


そして私はまた笑う。




自分を痛めつけるように。

これで『下界編』は終了です。

次回からは『天界編』となります。

乞うご期待、です(^-^)


閲覧、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ