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爆誕!魔法少女プリティーモンキー

 私は羽崎みなも。ごく普通の女子高生だ。


 「お久しぶり!みなもちゃん!メグミちゃん!」


 今日は、ちょっと長めの夏休みの最終日。

 いつもの待ち合わせ場所に、真っ黒に日焼けしたエリカが駆けてきた。


 「お久しぶり!エリカは真っ黒だね!どこ行ってたの?」

 「海だよ!おばあちゃんちの近所の海だけど」


 ちなみに、エリカのおばあちゃんちはカリフォルニアにある。


 「みなもちゃんは?」

 「私はちょっと北海道に」


 「いいなぁ、二人とも。私はずっと病院だったよ」


 前回の事件で怪我を負ったメグミは、夏休みの殆どを病院で過ごしていたのだ。

 幸いにも、後遺症は残らず、こうして夏休みが終わる直前に無事に退院することができた。

 今日のお出かけはメグミの快気祝いも兼ねている。


 ちなみに、私たちの学校は、超局地的な地震によって欠陥建築だった校舎が倒壊した……ということになっている。

 いったい誰がそんな話を信じるのだろうか?

 いや、突然現れた巨大ロボットに破壊されたというよりはマシなのか。



 チケットを購入し、遊園地のゲートをくぐった私たちは、さっそく作戦会議を始めた。


 「見てみて!十時からヒーローショーだって!」


 入り口でもらった案内を見ながら、メグミがはしゃいだ声を上げた。

 この子は特撮に目がないのだ。


 「じゃあ、最初はこれにしようか」

 「そうだね。あんまり時間がないよ。急がないと!」


 いうが早いか、メグミは私たちの手を引いて走り出した。


 ステージのある観覧車前の広場は、既にチビッ子たちで一杯だった。


 「すごい人出だねぇ」

 「今日のショーは特別だからね。テレビの時と同じスーツアクターさんたちが中に入ってるんだよ!」


 なぜかメグミが胸を張って得意げに教えてくれた。

 さてはコイツ、事前にリサーチしていたな?


 その時、不意にステージに流れていたヒーローのテーマ曲が途絶えた。


 「あ、いよいよ始まるよ!」


 メグミは目を輝かせる。

 だけど、代わって会場に響いたのは、最近すっかり聞きなれてしまった嫌な笑い声だった。


 「フハハ!よく来たな!プリンセス・エイプリル!」


 私は即座に跳躍し、ステージ上の男に脳天に空中カカト落としを見舞った。

 タキシード男は一撃でその場に昏倒した。

 こんなこともあろうかと、私は夏休みの間ずっと、北海道の奥地に棲む達人の下で厳しい修業を積んでいたのだ。

 修業をしておいて本当によかった。

 これで私の日常は守られた。


 だが、甘かった。

 タキシード男はよろよろと立ち上がりながら私を指さした。


 「ククク。ついに本性を現したな、プリンセス・エイプリル!」

 「そんな名前知らない。私は羽崎みなも! どこにでもいるごく普通の女子高生よ!」

 「あの距離から空中カカト落しを放てるごく普通の女子高生などいるものか!出でよ我がしもべたち!プリンセスを捕らえるのだ!」


 どこからともなく現れた黒タイツたちがステージの上の私を取り囲む。

 だけど、もはや彼らは修業を積んだ私の敵じゃない。

 達人から学んだ四十八の奥義が一つ「空中竜巻蹴り」でまとめて始末する。


 「さすがはプリンセス・エイプリル!ならばこの私が直々に御相手しよう!」


 タキシード男はすらりとサーベルを引き抜き、構えた。


 「貴方が誰かなんて知らない!プリンセスなんて私には関係ない!だけど、あなたが私の日常を壊そうというのなら!私は容赦しない!」


 タキシード男が斬り込んできた。

 私はそれを横に躱し、無防備に晒された側面めがけて膝蹴りを――

 だが、それは罠だった。

 サーベルの切っ先がありえない軌跡を描きながら私の首筋を狙ってきた。

 間一髪でそれを躱したが、タキシード男は姿勢を崩した私にさらなる追撃を加えてくる。

 私は次々に放たれる斬撃、刺突、打撃をかわしながら隙を窺う。


 チラリとみると、会場は大盛り上がりだ。

 事情を知っているエリカとメグミだけが蒼い顔で私を見ている。

 そんな顔しないでほしい。

 大丈夫、今度は守ってみせるから。

 そのために私は強くなったんだから。


 不意に、ありえない方向から殺気を感じた。

 バカな!タキシード男は目の前に――

 いや、違う。目の前の変態も眼を見開いて私の背後を見ている。


 振り返った先に見えたのは、観覧車のてっぺんから跳躍する、輝く杖を握った小柄なシルエットだった。


 私は即座に回避。

 タキシード男は一瞬だけ反応が遅れた。

 その頭蓋に、銀の鈍器の先に埋め込まれた真っ赤な宝石がめり込む。

 あっけない最期だった。


 誰もが呆然とする中、マジカルモンキーがゆっくりとこちらを振り返った。

 その眼は、手にした杖の宝石と同じく真っ赤に輝いていた。

 なるほど、貴女も私を見逃してはくれないってわけね。


 私は戦いに備え、構えをとった。

 それを見て、マジカルモンキーは嗤った。

 いや、そうじゃない。

 鋭い犬歯をむき出しにして、こちらに闘志を見せつけているのだ。

 今ならわかる。こいつはただの闘いに飢えたケダモノだ。

 強者を求めてこの場に現れたのだ。

 私は口角を上げ、同じように犬歯をむき出しにして見せた。


 いいよ、全力で相手してあげる。

 こいつの意図がどうであれ、助けられてきたのは事実なのだ。


 こちらの意志をくみ取ったのか、マジカルモンキーはピンクのフリルスカートから、一本のバナナを取り出した。

 よく熟した、美味しそうなバナナだ。

 マジカルモンキーは、バナナを崩さないように丁寧に皮をむくと、一口でそれを食べた。

 そのつぶらな瞳から燃えるような赤い光が消えうせ、代わって知性の光が宿る。

 知性を宿したチンパンジーが、銀の鈍器をシュッシュッと振った。

 獣然としたその姿とは裏腹に、その軌跡は優雅で、品性と洗練された技術を感じさせる。

 なるほど、それがあなたの本気なのね?


 それじゃあ、始めましょうか。


 会場は静まり返っていた。

 多分、何が起きているのか誰にも分らないのだろう。

 私にもわからない。


 ただ、一つだけわかっていることがある。

 

 ――勝負は最初の一撃で決まる。


 私たちは静止したまま、ひっそりと見つめ合った。


 遊園地の能天気なBGMが途切れた。

 曲の切り替わりだ。


 新しい曲が始まった瞬間、私たちは動いた。


 勝負は一瞬


 達人から伝授された四十八の奥義、その最後の一つにして究極の奥義――


 ――正拳突き


 それは確かにマジカルモンキーの急所をとらえていた。

 マジカルモンキーの小さな体躯がゆっくりと傾く。

 私は倒れ行く強敵(トモ)を抱きとめた。


 マジカルモンキーの目には、まだ知性の光が残っていた。

 彼女は、その手に握っていた銀の杖を私に差し出した。

 受け取れということだろうか?

 私がその杖を受け取ると、彼女は満足そうに微笑んだ。

 そしてその瞳から急速に光が失われていった。


 なぜか、彼女の顔が濡れていた。

 涙だった。

 私は泣いていた。



---



 キャアアアア!


 夜の闇に悲鳴がこだまする。


 街灯の明かりに浮かび上がるのは、一人の若いOLとそれを取り囲む黒タイツたち。

 少し離れた場所には白いワンボックスカーが停まっている。


 「そこまでよ!」


 闇を切り裂く、鋭い声。

 全員がその声の主を振り返る。


 そこにいたのはピンクにフリルの衣装を身にまとったうら若き美少女。


 「魔法少女プリティーモンキー見参!私の日常を乱す黒タイツどもめ!成敗してくれる!」


 プリティーモンキーは跳躍し、黒タイツどもに躍りかかった。



 そう、私の戦いはまだ続いている。

 マジカルモンキーから、魔法のステッキを受け継いだ私は、怪傑プリティーモンキーになった。

 杖を握ったからといってチンパンジーになったりはしなかった。

 衣装は自前だし、スカートからもあの不思議なバナナは出てこない。

 杖の宝石はピカリとも光らず、私にとってはただの鈍器だ。

 それでも、私は自らの意志で戦いを続けていた。


 私の日常を乱すあの黒タイツどもがいる限り、私の戦いは終わらないのだ。


第一部、完


ひとまず完結です

最後までお付き合いいただきありがとうございました

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