99 奉仕活動の話
やっともっていけた。
実に77話ぶりの伏線回収w
この世界、服屋というのは基本古着のようだ。
既製品が無くて、その人それぞれに合わせようとすれば全部オーダーメイドになると、服屋のおばちゃんに説明された。
「この子に合うものを見繕ってくれ」とシラヒメを連れていけば、服屋のおばちゃんは「あらあらまあまあ」と奥へ連れていってくれた。
アラクネだとか魔物だとかと、差別しないでくれて助かった。
ちなみにペットたちは武器防具は装備出来ない。
防御力のない服飾と、アクセサリーは可能だという。
前に貰った指輪は前肢から指へ装備箇所が変更されたようだ。
おばちゃんが見繕ってくれたのは、街で見掛ける子供が着ているような薄茶色のスモック?
スカートと一体化した上着を頭から被る服だ。
スカート部分を詰めて腰回りを帯で結んで固定するものにしてもらう。
それを色違いで2着ほど買う。
ファッションのことは専門外だから、後で翠かプチ姉に相談しよう。
「アリガトウゴザイマス、オトウサマ」
「いや、まあ、いいか」
嬉しそうな顔を見れば、俺の呼称についてとやかくいう気は失せるな。
ハイローやアサギリに突っ込まれそうな気はするが、めんどくさいからいいや。
改めて商業ギルドへ行こうとしたら、今度は俺たちの前に神官服の人物が現れた。
「失礼。ナナシ殿でいらっしゃいますか?」
「そうですけど」
ローブを被っていて顔が窺えないが、男性かな。申し訳なさそうに尋ねてくる。
「それでは、以前にホクマー様の神殿で奉仕活動を申し付けられたのは覚えていますでしょうか?」
「奉仕活動……? って、えーと? あ、ああ、あれか」
以前【城落とし】を街中で使った時に、法の神ホクマーの神殿に連れてかれた。
その時に【城落とし】を街中で使えなくなる誓約を掛けられたんだが、ついでにいつか奉仕活動をしろと言い付けられてたな。
あれのことか。
神官の人は「詳細はこちらに」とだけ言うと、紙を渡してからさっさと帰ってしまった。
何あれ感じ悪い、第一印象最悪じゃん。
触りくらい自分の口で説明してけってんだよ。
渡された紙には簡略化した街の地図が書いてあって、南西の端に「↙ココ」と記してあった。
地図の下には「この建物を修繕すること」と書いてある。
「建物の修繕かあ。何処かで材木を仕入れてくるか」
結局商業ギルドで木材を販売してる所を聞いて、お金をいくらか下ろす。
ついでに珊瑚を売り払っておいた。
1つ5万で計20万とかになった上に、定期的に仕入れられないか相談を持ち掛けられたが、またイカとやりあうのかと思うと断ったわな。
木材の加工所で板材を中心にそれなりの数を手に入れる。お金があるって良いねえ。
インベントリの中にポイポイ放り込み、たくさん買ってしまった。
ついでに釘を売っている所を聞いてみたら、ここにもあるとのことなので纏めて買っておく。
ちなみに街中ですれ違うプレイヤーがシラヒメを見る目がとても怪しい。
通り過ぎたあとがザワザワどよどよである。
途中でアサギリからピロリンとメールが届いた。
内容は「紳士掲示板がお祭騒ぎだぜ」だった。なんだそりゃ?
地図の場所まで移動してみるとこぢんまりした小さな教会があった。
この辺はアレキサンダーと出会った廃井戸が近い。
廃虚家屋が周囲に多いが、使われていない教会でもないらしい。
俺たちが教会前へ着いたところで中から牧師さんらしきおじいさんが現れた。
「おや、どなたですかな? この辺では見掛けない方ですね。ここに何の御用でしょうか」
「どうも初めまして。異方人のナナシと言います。ホクマー教会の方から、ここの教会の修繕を頼まれましたので」
そう告げるとおじいさんは目を丸くした後で、満足そうに頷いた。
後ろにいるアレキサンダーたちを忌避する様子もないし、いい人だな。
「そうですか。近々あちらの方から修繕の者を寄越すと通達がありましたから、どんな方が来るのか気になっていたのですよ」
「幻滅させてしまいましたか?」
「いいえ、全く。一応中には大して値打ちのあるものはありませんが、なるべく位置は今のままでお願いします」
「はい、判りました。もしかしたら数日掛かるかもしれませんけど、構いませんか?」
「そこは私には解らない分野ですので、専門の方にお任せ致します」
牧師らしきおじいさんは頭を下げて、ここを離れて行った。
つーか、こんな所で教会を預かる人は普通じゃないのかね。えらい武闘派なジイサンだったけど。
放ってる気配がメッチャ尋常じゃないくらいつええぞ、あれ。ナニモンだよ。
まあジイサンが何者でもいいから仕事に掛かるか。まずは全体の状態だけ確認しておこう。
教会の中に入ると12人くらいしか座れなそうな椅子があった。ホントに小さいな。
正面には明かり取り用の小さな窓とここの聖印がある。
「なんの聖印だこりゃ?」
称号に神様の名があるとそれらも分かるらしいが、ここにあるのはゲヴラーでもマルクトでもネッツアーでもないな。
「ぴいっ!」
「あーはいはい。仕事な、仕事が先な」
床板に穴が開いてる所を見付けたグリースが鳴いて教えてくれる。
内部は壁や天井は平気のようだが、床板はけっこう穴が目立つ。
無理矢理塞いだ所が幾つかあるな。
外側は壁だけかなあ。
シラヒメに登って貰うが、屋根は問題なさそうだ。まずは内側からやるか。
内部の長椅子は床に固定されてなかったので、脇に寄せておく。
板の幅は加工所の人が細目に加工してくれた。
この街では定番の幅だと言うので、後は長さを調節すればいいだろう。
俺が板を切ってる間に、アレキサンダーたちには穴の空いた床板だけを剥がして貰う。
グリースが【腐蝕の視線】で釘を錆びさせ、シラヒメが板を強引にひっぺがし、腐った釘をアレキサンダーが食うという流れ作業だ。
その後に俺が板を打ち付ける。
大工スキルのお陰か、作業の手順は頭の中にスラスラと出てくるので問題ない。
床の張り替えは1時間くらいで終わった。
「いやー、大工スキル様々だなあ」
一旦休憩して食事タイムにしよう。
この数時間で満腹度が3割程減っている。
感覚的に言えば朝昼夜と3食食ってれば問題なさそうだが、戦闘を交えるとどうなのかなあ。
アレキサンダーには塩ふっただけの焼いた肉。グリースは葉物野菜丸ごとひとつ。シラヒメは串焼きである。少女の口じゃなくて、蜘蛛の口で食ってるな。謎だ。
それから3時間くらい掛けて外壁を張り替えた。人(?)海戦術は早いな。
各所をチェックしてこれで終わりにするかと思ったのだが、屋根にいたシラヒメが不思議そうに尖塔の部分を気にしていた。
「どうしたシラヒメ?」
「オトウサマ」
家屋の方が断崖絶壁より余程登りやすい。
屋根を踏み抜かないように気を付けてからシラヒメに尋ねると、空の尖塔部を指差して首を傾けた。
「アソコハナオサナイデイイノデスカ?」
棒読みのボイス女史みたいな言葉使いは、少し矯正する必要があるかもしれんな。
尖塔内部には、鐘を撞く機構は残っているが鐘自体は無い。
機構をちょっと弄ってみるが、動かす分には問題はなさそうだ。
「直す以前に物が紛失してるからなあ……」
「?」
アラクネに人類の宗教を説明しても理解出来るんだろうか。
一旦下に降りて、地面にガリガリと絵を描いて3匹に説明する。
「あそこにはこういう形の鐘というものがくっついてたんだ。尖塔部分の大きさからしてグリースよりちょっと小さいくらいか?」
「ぴぃ?」
グリースがくりっと首を傾け、アレキサンダーがぽよよんと跳ねて自分の体を鐘型に変える。
だが、その形はちょっと違う。俺に絵心が無いのが悪いのか。
「アレキサンダーのは鐘は鐘でも梵鐘みたいだな。除夜の鐘でも鳴らすか?」
「ぴぃっ!」
短い羽根をぱたぱたさせて楽しそうなグリースと対称的に、しおしおと潰れるアレキサンダー。梵鐘がなんなのか知らないだろお前。
「シラヒメはあれを直したいのか?」
「……ハイ」
申し訳なさそうに頷くシラヒメに寄り添うグリース。丸型に復活したアレキサンダーは俺とシラヒメを交互に見てから、妹の方に移動した。
民主主義で3対1じゃあ俺の負けが確定じゃねえか。
「取り付けるのはいいんだが、アレ自体は紛失したのか盗まれたのかが解らねえな」
周囲の廃虚ばっかりを見るに、金属製の鐘は盗まれて鋳溶かされたのちに売り払われたのかねえ?
「おーし。じゃあお前たち鐘を探すぞ。あんまり遠くに行くなよ。あと住民の人に迷惑かけんなよー」
「ぴいっ!」
「ワカリマシタ」
ぽよよん
とりあえず手分けして周囲の家探しでもしてみるか。
最終奥義「鍛冶屋に特注」は出番があるかもしれないな。お金は足りるとは思うけど、足りなかったら毒針のスティレットを競売かなあ。
3方に散ってその辺の廃家屋に突撃するアレキサンダーたちを見ながら、俺も動き始めた。
本日のファミ通文庫公式Webサイトの方にリアデイルの刊行情報あります。
特設ページやらイラストやらは1月になってからだそうです。




