97 幼女が現れる話
きっとサブタイトルで歓喜した人もいる筈。
トンネルを抜けたら雪国だった。
いや、正確にはトンネルのようなと表現すればいいネットゲートを抜けてゲームのアバターで目覚めたら、辺り一面真っ白になっていた。
「なんだこりゃ?」
「ぴいっ!」
真っ白な中で何処からかグリースの声がする。今居るのはベッドだから、宿屋の一室でいいんだよなここ……。
手を伸ばしてみれば、覚えのある柔らかな手触り。シラヒメの糸じゃねーか。
何があってこんな糸だらけになったんだか。
「シラヒメ! 何やってんだお前は!」
反応なし。なんだか分からんな。しばらくすると糸の壁を食い破ってアレキサンダーがやってくる。そのあとにはグリースが続く。
アレキサンダーは体を1度シラヒメみたいに変化させてから、卵のような形へ。
ええと、シラヒメが卵になったと言いたいのかな?
よくわからん、どーなってんの?
困った時はログ頼みだ。
昨日のログアウトした直後まで遡って、順繰りに見ていく。
バージョンアップが完了しましたと、ほうほう。
現在の満腹度が20%だとな、これだと小腹がすいたくらいなのか。
アレキサンダーは50%でグリースは30%。串焼きが25%を埋めるから、これを与えておけばしばらくは平気だな。
今なら潤沢な食料があるから、その辺の草をむしゃむしゃやらんでも大丈夫だな。
ペナルティが入るのは0%からと聞いている。
串焼きをむぐむぐと全員で食べながらログを追っていく。
大半は「何々が修正されました」という通達だ。
「お、これか?」
辿っていった中に「経験値テーブルが修正されました」という項目があった。
それによると俺が18になってグリースも17へ変更。アレキサンダーは変わらず、シラヒメが20だ。
その直後に「規定レベルに達しました。アラクネ幼体から成体へ変化致します」とあった。
どうやらこれのようだ。
成体となると、親のように女体が生えるんだろうな。
そのために繭を作って体を変化させているらしい。
この部屋に張り巡らせた糸は、その繭を作るための支えか何かか。
今現在のシラヒメの繭の場所が俺の真上……。
完了したら落ちてきたシラヒメに俺が潰されるオチ?
ステータスは確認できないが、完了まで後1時間くらいは掛かるみたいだな。
それまでにここで出来ることをやっておこう。
まずは前回、道具屋のお婆さんに渡された兎の綿毛から糸を繰るレシピだ。
「よく解してから茹でて手繰る」? 蚕の繭と同じ扱いかーい!
魔導コンロを出して鍋を置き、生活魔法から水を出してってところでアレキサンダーがキラキラした瞳でこっちを見ていた。
鍋を見て、俺を見て、ぽよよんと跳ねる。
目力に耐えられなくなった俺は、鍋をアレキサンダーの上へ移動してやる。
お前はいいのかそれで……。
グツグツと煮立ってきたら10個ほど綿毛を沈める。突つくと解れてくるからそこから糸を1本拾って糸巻きに巻き付けると。あとはこれの繰り返しになる。
四苦八苦しながら、全部の綿毛を糸にし終える頃には1時間近く掛かっていた。ついでに【裁縫】スキルも生えていた。何時使うんだこれ。
そろそろかと思いベッドから移動すると、しばらくしてするするとシラヒメが上から降りてきた。
パカッと割れた繭があるのはいいが、このままだと宿屋の人から清掃費用を請求されそうなので、アレキサンダーに食べて貰う。
まあ蜘蛛の部分はログアウトする前と大して変化なし。ただ蜘蛛の頭の上に10歳くらいの少女が……。
「オト「アウトオオオオッ!」
慌ててマントを投げて頭から被せる。
素っ裸はマズイだろう、なに考えてんだ運えええいっ!
被ったマントの中でゴソゴソとやっていた少女シラヒメに手を貸して、体に巻き付けるようにさせてやる。
「ゴメンナサイ、オトウサマ」
「ぶっ!?」
衝撃の発言がが!?
確かに生まれてからずーっと仲間としていた雄なのには違いがないがっ!
なんで「お父さま」呼び?
ぐるぐるした思考で混乱してたら、アレキサンダーとグリースとシラヒメが対面していた。
「ぴぃっ!」
ぽよんぽよん
「ぴぴーっ!」
ぽよよんぽよん
「オニイサマ。グリース」
ひしぃっ
……謎の交流が成立している……。
この世界のペットってなんなん?
これに後1匹増えるのか。俺の存在が薄くなりそうだな。
良く見ると上半身部分は人のようで人に在らず。白い髪の毛部分は剛毛が変化したもののようだ。
顔に眉は無く、瞳は角の丸い横長の菱形で眼球ではなく、もう1対の単眼のようではある。
少々マネキンじみているところが微妙に不気味だ。
それでもグリースに抱きついたりして、嬉しそうな表情ができるところを見ると、その辺を指摘しようという気が失せるな。
商業ギルドに行こうと思っていたが、その前に服屋かねえ。
次回また掲示板です。
 




