96 幼馴染との夕食会の話
ようやっと実験台バイトが終了した。レポートも提出して、纏まった額のバイト代を手に入れたぞ。
この機会にインベントリの増強に突っ込むぜ。
かなりの不良在庫を抱えているからなあ。
「翠」
「ん、何、兄さん?」
「お前毒針のスティレット買うの、買わないの? 買いに来ないから在庫が4本に増えたんだが」
「あ!? 忘れてた!」
「増えるのかよっ!」
「スコピオ倒したら増えるだろう?」
「なんで俺が常識を問われる側になってんだよ! ぞんざいにレアを見せびらかしやがって」
「まあまあ、タカにぃ落ち着くっすよー」
「そうだぞ貴広。興奮することなど何もないんだからな」
「テメエがレア情報をポロッとこぼすからだろうが!」
「ああ、でもこの情報。嵐絶に渡した奴だから他に漏らすなよ」
「「先に言え(言ってください)!!」」
つー訳で貴広と純義を呼んでの晩餐である。明日から純義も入るからな。
バージョンアップに手間取っているらしく、半日ほどログインができないそうだ。
その関係で牙兄貴と母親が残業らしい。珍しく夕飯になっても帰ってこない。
「今度のアップで何が変わるんだっけか?」
「空腹度の実施ですね。空腹のまま放置すると、HPが減っていって、動きが鈍くなって最後には餓死するそうですよ」
「任せろ。料理なら35レベルある」
「「高っ!?」」
「あと俺は草を食ってれば餓死はしないから安心だな」
「なんすか。食べ物が無くなったら草を食べれば生きていけるんすか? 山羊みたいっすね」
「純義には中で会ったらそのままで食べられる草を教えてやろう」
「それは喜んでいいのか判らないっす」
「ちょっと待てや大気! うちの弟を悪の道に誘い込まないで貰おうか」
ディスられた気がしたんで、突っ込みを入れるフリをしながらフェイントで貴広の肋骨を摘まんでやる。報復終了。
「あ、後は寒暖の差が体感できるようになるそうですよ」
「ふぅん。先に砂漠行っといて正解だったな。汗とかもかくんだろ。翠なんかは生活魔法あって良かったな」
「それでいきなり砂漠なんて行ったんですね……」
翠は合点がいった表情で頷く。この後、ダンジョン行く奴は不快感大変だろう。
ジョンさんたちは大丈夫かな。
でも亜熱帯な所だったら、不快感は変わらないかもな。
「翠はエトワールで動いてんだろ? どこか行けたか」
「こちらはベアーガ周辺で廃坑行ったり、芋鉱山行ったりですね。ワールドアナウンスで砂漠行こうかという話がでてましたけど、スフィンクスは強いんですか?」
「詳しくは嵐絶から買ってくれ」
「だーっ! 嵐絶に先越されると情報溜め込まれるからキツイ」
ぶるぶる震えてた貴広が復活するなり文句を言う。
しょうがないじゃん、俺もあそこが情報屋だなんて知らんかったしな。
「うちの全力攻撃で片足にヒビを入れるのが精一杯だったが」
「うちの?」
「うちの子たちを含む通常攻撃の総力でだ。俺の最大攻撃で下半身粉砕したけれども」
「お前の最大攻撃ならそーだろうよ」
貴広と翠は城落としを知ってるが、純義は知らないのでクエスチョンマークが頭上に浮いている。そのうちあるブイ内でも知られるようになるって。
「いいか純義。大気の行動だけはマネすんなよ。あんなの常人には無理だからな」
「それは自分で見てみないことにはなんとも言えないっす」
「すみちゃんに幸運なのは、兄さんがイビスにいないことですね」
「はっはー。なんだか煙たがられてるのは分かったが、残念だったな。俺がいるのはイビスだ!」
「「ぶっ!?」」
フォークや箸をポロリと落とした貴広と翠の表情が青褪める。うん、色々と話し合おうか2人とも。
「純義はインフィニティハートに入れる予定だからな!」
「うん、それは俺が決めることじゃないからどーでもいいが。クランリーダーのアサギリはペット持ってるよな。そっちから話を通して貰うという手もあるが」
いや、通さないけどね。
ニヤニヤしながらそう持ちかけてみると、絶望的な顔の貴広が暗黒を背負っていた。
いやー、からかうと面白いなー。
「バージョンアップだと、でかいのはそれくらいか」
「後は細々したスキルの修正だそうですよ。兄さんの方は何かありましたか?」
翠は自分に飛び火しないからのほほんとしやがってるよ。現金な奴め。
「こっちは魔女の知り合いが1人増えた。あと嵐絶の人たちともフレンド交換したから、フレンドがようやく30人近くなったぜ」
「兄さん、フレンド少ないですからねー」
「あとまたペット増える」
「ま、また増えるんですか!? 段々PT組みにくくなるじゃないですか」
ペット持ちでもその辺りが問題になっているそうだ。戦えない小動物でもペットだとPTメンバーに加えられたままらしい。
だから一部のサモナーの間では、ペットは2体までというような風潮になりつつあるとか。
「兄さんのとこは食費をどうするんです?」
「あいつら放置しても自分で捕るけどね。焼き肉とか食べるし。でも砂漠戦で大量の肉がこっち回ってきたんで当分困らんな」
「嵐絶から譲って貰ったんですか?」
「いや、砂漠で一泊した際に料理振る舞った対価らしい。後で半分くらい燻製にすっけどな」
そういえばたらいに入れといたポーション忘れてた! 後で引っ張り出しておかねえと。
「そうだ。剣スキルってどうなってんだ?」
「取ったんですか?」
「拾った」
ということにしておこう。理由を話すとそれでまたメンドクセエ事態になるしな。
翠はそれを適当に変換してくれた。
「ああ、宝箱からでたんですね。兄さんは運がいいんだか、悪いんだか」
「全くだ。剣なんか使う予定がないぞ」
「取得しないで売れば良かったじゃないですか、勿体ない。ええと剣スキルはとりあえず何でも使えます。でもレベル5まで同じ武器を使っていると、それに対応した種別スキルに変化します。SP1必要としますが。私なら短剣、貴広さんなら大剣みたいにですね」
「なるほど、それで剣のままなのか。武器じゃねえんだな」
「何が武器になるかにもよりますが、兄さんはトンファーで変化するんじゃないですかね。あれも打撃武器ですし」
「格闘に含まれてんのか、それはそれ理論なのか。やってみないと分からんな」
なんかやっとこう、やっとこうと思っててやってねえことが多すぎる。商業ギルド行って生産部屋に缶詰かな。
「貴広、純義のレベル上げは大丈夫か? 平原はまだオンドゥリ待ちいっぱいおったけど」
「タマラビやってリンルフで平気じゃねえ。あいつら人気ないし。ああでも、第2陣が一斉に放たれるのか。獲物の取り合いになるな」
「模擬のPVPなら少しくらいスキル上がりますけど。10くらいまでならそれでいいんじゃないですか?」
「でもオレ、走ってみたいんですけど。走力を鍛えるっす」
「どういう戦闘方法だ。エネルギーの固まりになってぶっちぎるのか? それとも300km/hを越えたら異次元に突入すんの?」
「生身で300km/hが出るわきゃねーだろう、貴広もアホか」
「大丈夫っすよ。人間頑張ればなんとかなるっすから。黄色い長いマフラー付けて加速するっす」
なんの会話だよこれ。
ネタ3つ入りです。




