91 砂漠の先の話
朝になった。
ゲームの中で寝るというのもよく分からない感覚だな。微睡みがなくて、寝た起きたってくらいのあっさりとした感じだ。
この辺は牙兄貴にクレーム入れよう。微睡みは大切だと思うな。
毛布とマントにくるまって寝ていたはずなんだが、起きたら下にはアレキサンダー。懐にはグリース。枕にはシラヒメがいた。
ルビーさんの羨ましそうな目が怖い怖い。
最初はルビーさんもアレキサンダーのむにむにすべすべの感触を楽しんでいたんだと思う。
でも途中からその目付きが妖しくなったところで、身の危険を感じたアレキサンダーが逃げてきた。
それ以来ルビーさんを避けるようになってしまったのだ。
俺の体を盾にするように後ろに回り、左右には蛇尻尾を立てて威嚇するグリースと、前肢を広げて警戒するシラヒメが。
こうなると誰が長男かわからねえな。アレキサンダーの性別は不明なんだけど。
「ルビー、諦めろ。犬猫に1度嫌われると取り返しがつかなくなるのと一緒だ」
「信頼回復には時間がいりますから、ここは引いておいた方がいいですよ」
ジョンさんとマイスさんにたしなめられ、ルビーさんは渋々引いてくれた。やれやれ。
朝になって身支度を整える。とは言っても泉の水で顔を洗い、朝食を準備するだけだ。
持ってきた小さなパンと作った野菜炒めをみんなに配る。
嵐絶メンバーの人たちには、いたく感謝された。
「ナナシはこっからどーすんだ?」
「そりゃもちろん。東の方へ進むけど」
俺が言ったら嵐絶メンバー全員が「やっぱりなー」って顔をして笑いだした。
さっぱり意味が分からない。
ちょっと不愉快な感じに眉をひそめていると、うち1人が皆がそういう結論に至った経緯を教えてくれた。
「うちのボスが掲示板でナナシの行方を聞いてなー。そしたら戻って来ない方に賛成票があってな」
「なんだそれ。みんな俺をなんだと思ってるの?」
「未知のクエスト発見器じゃね」
とはジョンさんの発言である。
他の皆がうんうんと頷いているところを見るに、全員が同意見のようだ。
「別に俺はクエストを探し歩いてる訳じゃないんだが……」
「とか言っても説得力ねえぞ」
「ペットが得られるのを見付けたのもナナシさんですし、アラクネが仲間になる過程を見付けたのもそうですし。金の卵の孵し方を知ってるのもそうですね」
「うりぼうのクエストもあるし、ベアーガ行く方法を見付けたし、このオアシスもそうだよね。あと虫の鉱山もビギナーさん!」
ジョンさん、マイスさん、ルビーさんの順に畳み掛けてくる。
おかしい……、俺はただ気の向くままに歩いてるだけなのになあ。サバイバルがもはや何処へ……。
ため息を吐いて肩を落とす俺にジョンさんが近付いてきて、ニッコリと笑う。
「俺らも着いていくぜ。いいよな?」
「それは俺に決定権があるわけじゃないし。好きにしたらいいんじゃないかな」
「いやいや、お伺いは大事だぜ。お前さんの機嫌を損ねたなんて掲示板に晒されたら、うちのクランなんか全プレイヤーにボッコボコにされるって」
「それこそないと思いますけどねえ」
呟いたら全員が一斉に手を横に振って「ないない」とやりだした。
マジかい。ビギナー教ってそんなに影響力あんの?
自分でやった結果に付いて回る勢力って、扱いがどうすればいいのか分からんわ。もう、なるようになれとしか。
気持ち切り替えて東へ向かう。
クラン嵐絶の方はというと、6人6人5人5人というPTで俺と同行するようだ。
実際はこの倍いるそうだが、残りは時間帯が合わない人だとか、野良でダンジョンに潜り続けている人だとかがいるらしい。
「そこまでダンジョンに潜って何が目的なのか」
「あー、アシッドワーム倒したいって言ってたなあ」
聞いたことのないミミズ名だな?
聞き返すと、B1Fにいるたまにしか出会わないモンスターらしい。
「見たことないなあ。こもってたけど」
「ひどい悪運だなそりゃ」
嫌そうな顔でジョンさんは呟く。残酷描写を気にしてるのか?
あのゾンビは好き好んで直視したいとは思わないけどな。
そういやあれからレンブンの協力要請は来ないな。誰か口の固い人でも見付かったのか。
ちなみにこうのんびりしているが、ひっきりなしに襲撃がきている。
ラージワームなんか10匹まとめて出るし。サンドリザードなんか40匹くらいの群れが襲ってくる。
だが嵐絶もさすが攻略組と言うべきか。俺の出番が全然ないくらい、手を出す隙間がない。
鎧袖一触みたいな感じてバッサバッサとなぎ倒されていく。
そして出たドロップ品のうち、何故か肉だけが俺の手元に回ってくる。
あとは俺が直接手を出さないと、レアドロップは落ちないようだ。
サンドリザードがもう3桁数倒されているのに、俺が直接蹴って倒した奴だけが、麻痺毒瓶を落としたからな。
上に蹴り上げてから、落ちてきたところをアレキサンダーにシュウウウッッ! とかやったら大爆笑された。
大口開けて待っていたアレキサンダーは、サンドリザードをむぐむぐと食べちゃったけれども。
それでもドロップ品は出るってね。
オアシスを出て1時間ほど進んだころか。遠くが見られるスキルを持っている人が声をあげた。
「ボスー! ピラミッドが見えますぜー!」
「おおー。さすがだぜ、ナナシ!」
「いや、なんで俺なんだよ?」
「んー。この先行こうって言ったのはお前だろ。だからだよ」
「お、おう……」
謎の理論で功績が俺のものに。いや、見付けた人を労おうよ。
砂岩の道はそのピラミッドへ続いているようだ。ここが終点なのかな。
建っているピラミッドは3つ。
1つが大サイズとすると、残りの2つは中サイズというべきか。高さが積層形住宅の倍くらいあるな、ありゃあ。
そして手前にはスフィンクス。
10mくらい手前でアレキサンダーが体を剣山のような形に変化させた。俺は慌てて皆を制止させる。
「ストップ! 動くぞアイツ!」
「なにっ!?」
「全員陣形体勢っ!」
驚くジョンさんだが、マイスさんの呼び掛けで全員が戦闘体勢を整える。
スフィンクスはというと、体に積もった砂を震い落としながら、ゆっくりと立ち上がる。
両目をガキーンと光らせたのち厳かな声で喋りだした。
『我はこの地を護る守護者なり。異国より参りし者よ。この先に進むことは許さぬ。死を恐れるのであれば直ちに去れ!』
口は開いてないけれど、声は周囲に轟いている。
「いくぜナナシ!」
「えっ!? マジでやんの?」
「折角来たんだ。こんなとこで追い返されるなんてつまらねえじゃねえか」
「まあ、それはたしかに……」
ジョンさんが獰猛な笑みを浮かべて剣を抜けば、嵐絶のメンバーが4PTに別れてスフィンクスを取り囲んだ。
「そっちは好きに動け! デカイ魔法を撃つときには警告してやるが、巻き込まれんなよ!」
「しゃーないやるか。アレキサンダーはグリースを守れ。シラヒメは来い!」
グリースはアレキサンダーの上に飛び乗り、シラヒメは俺の背中に張り付く。
『死を恐れぬ愚かな者たちよ。汝らの選択を後悔せよ!』
全員の目の前に「スフィンクスと戦いますか? Y/N」とウィンドウが表れ、皆が叩き割るようにYを押した瞬間、戦闘がスタートした。




