82 ペット質問会の話
ヘーロンに着いたら、街の中が離れる前よりプレイヤーで賑わっていた。
ここ数時間程度で掲示板をたよりに職人系のプレイヤーが移動してきたようだ。
オープン状態で会話している人たちの話を拾っていくと、そういうことらしい。
あとはまた「ビギナーさんが」「開祖様が」と囁き声がやたら多い。言いたいことがあるんなら目の前で言えよ。
プレイヤーの露店が出ていた場所に着けば、ここを離れる時は6つくらいしかなかったのが倍くらいに増えている。そして賑わっている。
賑わっている所は金属加工系職人の露店のようだ。
目が合ったオロシのとこへ近付いていけば、呆れたような視線を向けられた。
「ナナシよう」
「ん、なに?」
「なんかお前の赤玉ペットでかくなってねえ?」
「ああ。なんか進化した」
「「「「「えええええええええっ!!」」」」」
何重奏ともいえる絶叫が周囲から轟いた。そして降り注ぐ大量の視線。お、俺が何をしたというのか。
いや、今更すっとぼけるとかはしないけれど、ちょっと聞き耳立ててる奴多くないですかね?
「し、しんか?」
最初に俺と会話していたからか、オロシに周囲からプレッシャーが集中した。どいつもこいつも「ペット進化のことを聞け」の血走った目が物語っている。だーかーらー!
「聞きたいことがあるなら、挙手しろ!」
オロシから離れて周囲に呼び掛ける。
しーんと静まり返ってからあちこちでアイコンタクトの押し付けあいが始まった。
「お前が行け」「いやお前が」「いやあんたが」といった具合に。シラヒメが「チー!」と鳴けば、全員がビクついて静かになる。
そのあとに魔術士らしき女性がゆっくりと手を上げた。足元にはドロデロのグリーンスライム、ダンジョン産かな。
「どうぞ」
「進化というのは具体的にどういった進化ですか?」
「種族が変わっただけだな」
「「「「「おおおおおおっ!!」」」」」
いや、なんでそこで興奮大合唱すんだよ?
次に指名した人が「なんて種族になったんですか?」と言おうとしたんだろう。周りにいた他の人に口を塞がれて沈黙した。
どうもそういったことを聞くのはマナー違反らしい。そういうものなのか、知らなかった。気を付けよう。
聞くのがダメなら言うのはいいんだろうな。
「元々がレッドスライムで、今はエルダーレッドスライムだな」
どよどよどよと集まってる者たちがどよめく。次の質問は「進化の切っ掛けは?」だった。
これには「レベル20になったから」としか言えない。他のプレイヤーのペットには、もうすでにレベル20を越えてるのもいるようだ。
その辺りはペットの種族によって違うのかな。バランスボール大になったアレキサンダーは、ぷるぷると震えている。何人かがアレキサンダーの姿に目を輝かせており、触りたいようだ。
俺が何も言わないからか、近くに寄って来てはシラヒメやグリースの威嚇に慌てて離れていく。
仕切る者が出てきて質問会は終わりになった。
次に何人か集まって来たのは、金の卵の孵し方を知りたい者のようだ。
お金を受け取ってからPT会話で、手順を説明する。やはり数人は魔法を行使するという部分で顔をしかめていた。
それが終わればようやく周囲から人がいなくなった。仕切ってくれた人にはお礼を言っておく。なにかえらく感動してたけど、もしかして信者って人なのかな?
ようやく新装備が受け取れるよ。ちょっと忘れかけてたけどな。
「たった半日でなにやってたんだよ」
と疑問視してくるのはゲンドーである。
他の職人は商談の最中だというので、装備は纏めて彼から受け取る。
渡されたのは「根性の鉢金」「根性のベルト」「根性のバングル」だ。どんだけ根性があるんだよ。
「ああ、それな。完成品のHQで、たまにステータスのプラス効果がでるやつができるんだよ。根性はHPがちょっと増える」
「何故根性しかないのか……」
「珍しく、皆揃ったんだよな。HPがあって困ることは無いと思うぜ」
「俺の戦い方だとそうなんだろうけどよ。なんか納得いかねえ」
「まあ、その辺はランダムだから諦めてくれ」
代金を払って受け取る。
HPのバーを見ながら装備していくと、確かに増えてはいるようだ。装備一個につき0.5ドットくらいだけど。
オロシに月光草を売ると、前回渡した時より単価が上がっていた。
最近はチラホラと見つかっているようだ。何かのクエストの報酬とか、ダンジョンから出る宝箱とかから。
誰も平原に生えてるとか思わないのかい……。
ちょっと気になることがあるので、今日はこれでログアウトしよう。1日目はPK以外に売買要請は無しっと。明日は学業倍加して2日連続ログインでもいいかもしれん。
貴広にはなんだかんだ言ったが、どっぷりはまっているから何も言えなくなってきたぞ。
今回までのステータス。
名前:ナナシ
種族:人間
職業:ビギナーLv.15
SP:8
所有スキル:
【格闘Lv.42】【投擲Lv.24】【蹴りLv.12】
【剣Lv.1】【急所攻撃Lv.22】【カウンターLv.24】
【闘気】
【死霊術Lv.12】【水魔法Lv.1】【生活魔法】
【観察Lv.27】【気配察知Lv.26】
【忍び足Lv.12】【軽業Lv.17】【隠れるLv.3】
【水泳】【潜水】【登攀】
【料理Lv.24】【調合Lv.3】【大工Lv.5】
【植物知識】【鉱物知識】【アイテム知識】
【毒耐性】【暗視】
【解体】
ユニークスキル:【城落としLv.4】
称号:
【後先考えぬ者】【スライムの友】【アラクネの友】
【草を食む者】【闇を歩む者】【強奪者】
【料理人】【半魚人】
【ネッツアーの加護】【マルクトの興味】【ゲヴラーの興味】
ペット
名前:アレキサンダー
種族:エルダーレッドスライムLv.1
名前:シラヒメ
種族:アラクネ(幼体)Lv.16
名前:グリース
種族:コカトリス(雛)Lv.11
段々、ステータスの方が難解になってきたなあ……。




