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80 怖い人に遭遇した話


 獣避けの香の威力は凄まじく、帰り道は平穏無事だった。


 逆に敵が倒せなくてアレキサンダーたちに不満が溜まっていたくらいだ。いつからこんな戦闘狂になっちゃったのやら。前肢をシャキーンシャキーンと鋭く磨いているシラヒメがちょう怖い。

 今度は時間を作って、街中でゆっくり構ってやらないとなあ。


 イビスとヘーロンを繋ぐ街道に出るも、場所が最初に森の中に突っ込んだ位置よりイビス側だった。ちょっとズレたな。マップ上はそんな変わらないと思ったんだが、めんどくさがって縮尺を変えなかったのが悪かったのか。


 俺としては意識外だったのだが、それを受けた体の方が即座に反応した。

 死角から飛んできた吹き矢を先端に触れないように叩き落とし、グリースをひっ掴むと転がってその場を離れたのである。


 さっきまで俺が立っていた場所には長剣を横に振ったらしき戦士。その後ろに吹き矢の筒を携えた盗賊と、本持ちの魔術士がいた。魔術の発動体は杖と本と指輪と聞いている。本は可もなく不可もなく、だったか。


 3人とも黒い衣装に目だけ出した頭巾で揃えていた。


「暗殺者かよ」

「いいやPKだね」


 俺の問いに代表して答えたのは後衛の魔術士だ。頭巾をかぶっているからか、その声はくぐもっている。


「よくかわしたね。僕はいまのでビギナーは殺れると思ったんだよなあ」

「生憎直感がないと生きて行けなくてね」


 スキルで持ってるんじゃなく、生きていく上で仕方無く備わったに近い。

 無いと年単位で10回くらい死ぬ罠。


「チッ、【直感】持ちか。不意討ちで殺せないとなるとどうする?」


 長剣野郎が意識をこっちに向けながら、首半分を魔術士に向けて会話をしている。

 残念、意識向けてなかったら首を刈ってやったのに。こりゃ手慣れてるな。


「正攻法しかありませんよ。囲んで嬲り殺しで、いいでしょう」


 リーダーは魔術士のようだが一言も喋らず従ってる盗賊が1番怖そうだ。グリースをシラヒメに預けると、アレキサンダーが戦士との直線上に割り込んだ。

 こっちは左腕に籠手、右腕に金属バットを構えて腰を落とす。


「ぎゃはははは! こんな所で野球をやろうってか? 追い詰められて頭が壊れたかよ!」

「やってみないとわからんよ」


 魔術士が本を開いているところを見るに、こっちがちょっとでも動けば対応は可能なんだろう。攻撃魔法はともかく拘束系のデバフが1番やっかいだな。


 PKはPVPと違い、精神系負荷になるような制限が発生しない。残酷描写で油断を誘うことは出来ないだろう。


「狙いは槍か?」


 ここ最近、というかついさっき。外に俺名義で出したものは金属と槍しかない。金の卵ってことはないだろう。


「そうです。あのような優れた武器はアナタのような素人に扱わせる訳には参りません。我々のように選ばれた者にこそ、使われるべきなのですよ」

「選民思想は流行らないと思うんだけどな。つか欲しけりゃ金を払え」


 統合統制機構を見ていれば分かるが、こういう奴らは幾らでも湧いてくる。呆れを通り越して毎回同じことしか言わないから、飽きたレベルだ。

 ちなみにこのやり取りの最中に、シラヒメはグリースを連れて森の中に引っ込んだ。「ペットにも逃げられちまったなあ!」とか得意気に言ってる奴は無視する。


「行きなさい2人とも! 奴が優位に立てる条件はもうありませんよ!」


 魔術士の号令で戦士と盗賊が並んで襲いかかって来た。

 とりあえず俺にとって致命傷となりえるのは、威力の高そうな戦士の攻撃だろう。毒が塗ってあるっぽい黒い色の盗賊の短刀は、急所に当たらなければあんまり怖くない。


 後は位置取りを調整して魔術士の視界に入らないよう、戦士と盗賊を壁にするよう動く。


 戦士が縦、横、縦、横としか剣を振らないんだが、誘っているのか? それとも素なのか?

 当たらないからいいんだけど、反撃に転じるにはタイミングの悪いところでチクチク来る盗賊が邪魔だ。狙いは別なので、その時が来るまでは闘気を防御に回して耐えてればいいや。


「いい加減当たれや!」

「さすがにその大根剣術に当たれというには無理な話だ」

「ムガーッ!!」


 いきり立った戦士の攻撃速度が加速するが、縦横剣筋は変わらない。これでPKとか大丈夫か。

 それでも盗賊の攻撃と、ファイアーアローとかフリーズアローが散発的に飛んでくるのがウザい。アレキサンダーが戦士と盗賊の足元にまとわりついていのもあって、なんとか回避がやれている。


 盗賊からようやく舌打ちが聞こえて来た。

 ダメージをちまちま与えられていても、毒は効かねえよ。残念だったね。

 あんまり【毒耐性】に慢心は出来ないんだけどな。


 残りのHPが4割を切ったところで、後方にいた魔術士の方から「うわあああっ!?」という悲鳴が聞こえてきた。やれやれ、ようやくか。長かったな。


 盗賊と戦士が振り向いた先には粘着糸の網を被って、その辺の木に貼り付けられた魔術士がもがいていた。森の中を迂回したシラヒメが木の上から網を投げて、魔術士を封じるという作戦だったからな。

 奴の持っていた本はグリースに奪われ、クチバシで突つかれたり蛇に咬まれたりして既にボロボロだ。


 再び舌打ちした盗賊がこっちの戦線を離れて魔術士を助けに向かう。PT会話で何かを話してるらしく、声は聞こえないが戦士の注意は後ろに向いている。


 こちらに振り向いた戦士の顎にアレキサンダーのジャンピングアッパーカットがぶち当たった。ふらついたところへ金属バットをフルスイング、後方へ吹き飛ばす。

 といっても魔術士たちの所まではほど遠い。盗賊だけでも逃げると思ってたんだけど、どちらにしろそこは俺の射程距離内だ。


 戦士を吹き飛ばした直後にこちらの魔法は既に発動させている。

 慌てて戻ってきたシラヒメも退避完了だ。


「くらえ!」


 対人に使うのは初である。これで即死してくれると助かるんだが、さて?

 PKプレイヤー全員の頭上に影が射す。3人が同時に上を見上げて動きを止めた。何かを叫んでいたようだが、1度発動してしまえばキャンセルは不可能だ。

 間髪入れずに落下して来た石垣(天守台)付きの城が、PK3人を纏めて押し潰した。


 80話にして城落としが3回目というね……。

 本来城の天守台(天守閣の乗っている石垣部分)には地階部があるのですが、この話の城は石が詰まっています。

 そして次の更新は未定……。

 裏でやっているモノの進行度具合によって更新頻度が落ちます。

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