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79 森の中の邂逅の話


「悪かったね。まさかあんなに驚くとは思ってもみなかったものだから」


 家の中に招いてくれただけでなく、お茶とお菓子でもてなしてくれた魔女の人はまず頭を下げて謝ってくれた。


「いえ、此方こそすみませんでした。動揺して武器を向けてしまうなんて迂闊でした」

「その動揺もボクが驚かさなければ、だったでしょ。自業自得だからキミが謝ることじゃないよ。ああ申し遅れたね。ボクはアナイスという。ただの魔女さ」

「ナナシといいます。薬草の採取に来ました」


 あちらが頭を下げたのに合わせて此方も名乗っておく。しかし魔女っていうのはあちこちにいるのかねえ。何かの組合でもあるのだろうか。


「薬草の採取にこんな森の中まで来る人はあんまりいないと思うけど、異方人って変わってるね」

「こんな森の奥で暮らしてる人もあんまりいないと思いますけど。街の中では駄目なんですか?」


「ああ、まあ、駄目ってことはないんだけれど。魔女にはテリトリーってものがあるのさ。近隣の街にはもう魔女がいるんで、ボクはこうやって森の中という訳なんだ」

「はあ、なるほど」


 どうやら縄張りの意味合いが強かったようだ。


「魔女という方は1人だけ出会いましたけれど、ヘーロンのセルテルさんとはお知り合いですか?」

「ああ、セルテルと会ったんだ。元気してるのかな、あの子。ちょっと抜けてるところがあるから、迷惑とか掛けられなかったかい?」

「へ?」


 ええと、その言い方はまるでセルテルさんの方が下のような?


「あはは。ちょっとだけ姿変えてるけど、こう見えてもボクはエルフなんだ」


 疑問が顔に出ていたんだろう。アナイスさんは耳を一瞬だけ長いものへ変える。

 なるほど、彼女の方が師匠なのか。


 ちなみにアレキサンダーはいつもの頭上。シラヒメは膝の上。その上にグリースである。シラヒメとグリースは俺が砕いたクッキーを食べているが、アレキサンダーだけはカリカリベーコンだ。


「ナナシくんも妙な布陣でペットを揃えているんだね。特にそのコカトリスの雛なんて興味深い」


 さすが魔女。

 1番突っ込んで欲しくないところに注目するのは、弟子も師匠も一緒のようである。俺がぎくりとしたのをアナイスさんも気付いたようで、眼光鋭く質問してきた。

 さっきまでのボーイッシュで活動的な容姿から一変して、経験の深みを感じる凄味が伝わって来る。


「キミの持ってるそれは【死霊術】だね? 出来ればどういった経緯で取得したのか、教えてもらえないかな」


 「嫌です」なんて言えない雰囲気だ。

 激おこの母親に匹敵する威圧がにじみ出ている。だからといって、取得した経緯は別に隠すようなことじゃないしな。

 俺はイビスであった不審な骨格標本事件の詳細を話す。


「ふぅん。そんな魔術師がイビスの街中に居たんだ。キミも災難だったね。でもイグサ様が何も言ってないなら、ボクが言うわけにもいかないか。ゴメンね。怖がらせるような態度取っちゃって」

「いえ、気にしてませんから。それに俺はコレを悪いことには使わないと、ホクマーに誓って宣言しときます。それにしてもあのおばあさん、偉い人だったんですねー」


 ホクマーに誓ってみたが、束縛系の称号は発生しなかった。

 それにしてもイビスにいた道具屋のおばあさんは、イグサという名の魔女だったようだ。アナイスさんがいうにはトードー国の魔女組合の纏め役で、彼女も尊敬する凄い腕前の魔女だという。


 イビスやヘーロンやガルス村を含むのがトードー国のようだ。イビスは王都になるらしい。

 ベアーガはノースウェンという国の王都だという。しまった図書館に地理の本もあっただろうに、見とけばよかったなあ。だからあんな所に関所があったのか。


 ふむふむと地理解説に頷いていると、アナイスさんが手の平に乗る程度の小さな壺をテーブルの上に置いた。


「なんですか、これ?」

「驚かせちゃった分と怖がらせちゃった分のお詫びさ。お香なんだけどね。これに火を付けていれば、ある一定レベル以下の獣は近寄って来ないアイテムだよ」


「それはまたずいぶんととんでもないアイテムですね。有り難く使わせて頂きます」

「それ1つでもって2時間ってところかな。森を出るまでは足りる筈さ」


 どうやらふらふらしているうちにそれだけの時間が経過していたようだ。

 リンルフとかに出逢わないなら正直助かるかな。


 ついでにとレシピも教えてもらった。

 調合の上位スキルで作れるようだが、材料にドラゴンの血とかあるので作れる気がしない。アイテム名は「獣避けの香」、別にドラゴン以外にもヒドラとかワイバーンの血でもいいそうだ。生憎とどっちも見たことも聞いたこともないんだが……。

 未来の課題になりそうだなあ。


 アナイスさんが会話に飢えてるそうで、ペットと出会った経緯を一通り話していたらゲンドーから連絡が来た。名残惜しいがヘーロンにまた行かなければ。


 アナイスさん宅から帰るときに「またおいで」と言われたら、「アナイスの話し相手になろう」というクエストが発生した。

 時期を見てまた来ることになりそうだなあ。

 今度はボタン鍋でも完成させて持ってくるのもいいかもしれん。


 キャラクターだけなら最古を誇るアナイス。これ知ってる人が居たら驚きだわ。


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