78 ペットたちとピクニックの話(2
ここまでの道中、隠された感じの場所はないようだ。街中を離れれば宝箱の気配は無さそうかな。
ノックラクーンはさっきの1回だけで、あとは散発的にリンルフとフォレストスネークが襲ってきたくらい。こっちはペットたちで対処が可能だったので、ちょっと手助けする程度で済んだ。
さっきの金属バットは攻撃力は28と低いが、ノックバック効果が付いているらしい。アレキサンダーがタヌキにあれだけ飛ばされた原因はこの効果か。
道なき道をのんびりと進む。
ほぼアレキサンダーの好きな方角に進んでいると言っても過言ではない。一応北へ北へと北上していることになっている筈だが、フィールド上はそんな遠くまでマップが表示されないからな。行った場所が分かるだけマシかもしれん。
でもこうやって街道を外れることも出来るし、他にも行ける所を探ってるプレイヤーとか居そうだがなあ。
「ぴゅい!」
「チー!」
薬草を摘んでいたらシラヒメとグリースが何かを見付けたようだ。
木の根元に開いた穴を覗き込んでいる。洞窟という程大きくはなく、何かの動物の巣穴のようだ。
グリースが短い翼を広げたり、尻尾の蛇が口を開けたりしてる。対するシラヒメは体を震わせたり、前肢を上下に動かしたりして会話をしてるように見える。いや、会話してるんだろうけど、ジェスチャーが高度過ぎで意味わかんねえよ。
そこへのそりとやってきたアレキサンダーがグリースを体で突き飛ばす。
ぺこぺことアレキサンダーに頭を下げたグリースがゆっくりと穴に入っていった。
ええと、よく分からんがグリースとシラヒメが穴に入るのを躊躇していたら、「グダグダ言ってねえでお前が入れ!」ってアレキサンダーが突っ込んだってことなのかな?
グリースは鳥目とか関係ないのだろうか?
いや、コカトリスという魔物だからそういった弱点は無いんだろうな、たぶん。
嫌な予感がするな……。
しばらく待っていると何かを引きずるような音が中から響いてくる。アレキサンダーの目力に促されたシラヒメも穴の中に入り、糸を絡ませた宝箱を引きずってきた。
グリースがそれを途中まで押してきたようだ。
なるほど、俺に見付ける気がなくてもペットが見付けてしまうこともあるのか。これは盲点だったな。
俺の目の前まで宝箱を持ってきた2人を撫でて労う。
宝箱は片手に乗るくらいの大きさで、中身は月光草が1本丸ごと入っていた。葉っぱじゃなくて草というところに悪意を感じるんだが……。
ポーションと違って、中身を抜いても宝箱は残るようだ。
片手で持てるサイズの割りにはずいぶんと重い。
何気無く【アイテム知識】で宝箱を見たら、そっちの方が地雷だった。「アダマンタイト製の宝箱」ってなんだよっ!?
ご丁寧に蓋の裏に鍵がくっついてやがった。何に使えと……。
たぶん、俺が持ってる物の中で1番硬いだろう。殴るときに武器にして使ったらダメかな。
月光草を中に戻してインベントリへ入れておく。今の調合レベルでは月光草が使えるレシピが出てこないからなあ。しばらく死蔵しておくか、オロシに売るかだな。
ちょっと目を離した隙にシラヒメが木に登っていた。
降りてくると、北西方向を前肢で指して「チー、チー!」と鳴いている。上から見て何か目立つものでもあったみたいだな。
「何か見付けたのか?」
「チー!」
前肢で山型のなにかを形作ってるみたいだが、何を表してるのか分からないな。
俺が首を捻っているとシラヒメはアレキサンダーに対象を代える。ふんふんと頷いていたアレキサンダーが俺の前に出てきて、その体を家の形に変形させた。
「はあっ!? まさか家があんの? こんな森ん中に!?」
「チー!」
どうやら家を見付けたらしい。
なんとなくシラヒメがふんぞり返ってドヤ顔をしてる気がするよ。理解してやれなくてごめんな。
採取を中断して、周囲を警戒しつつシラヒメの示す方向へ進む。20mほどの所から木立が途切れ、拓けた場所になっている。そこには確かに家が存在していた。
木造1階建てで小さな畑とともに柵で囲まれている。その柵も大人であれば跨いで通れるだろう。木立から出ると、さっきまで感じていたピリピリしていた感覚が消えた。
この辺りにだけ外敵を寄せ付けない何かが張られていると見ていいな。
俺たちが入ってこれるということは、外敵と見なされていないか、とるに足らない存在だと思われているかのどちらかだろう。後者じゃない方がいいんだが、さて。
一応警戒しながら、ソロソロと家に近付いてみる。戸口まで1mというところに来ても何の反応もな……「うちに何か用なのかい?」
「うわあああああああっ!?」
突然背後から声を掛けられて転びそうになりながらも大慌ててその場を離脱する馬鹿な後ろに気配なんかこれっぽっちもなかったぞ俺よりアレキサンダーたちの方が真っ先に野生の勘か何かで気付くだろう普通いったいどういう気配の消し方をしているんだ翠の完成形というのはこれかこれなのかもしかしたら敵なのかもしれない迎撃しなければ早くもっと迅速にっ!!
「待って待って! こっちに敵意は無いってば! 驚かせたのは謝るから敵じゃないって判って欲しいな!」
籠手を構えたところで目の前が真っ白い物でいっぱいになった。
この感じは……、シラヒメ!? いったい何を?
顔に張り付いていたシラヒメを引き剥がすと、両手を大きく振って焦った表情の魔女っ子がいた。後ろから声を掛けてきたのはこいつか。ああ、びっくりした。
連休を挟むと一気にストックが消える……。
 




