77 ペットたちとピクニックの話
今のところPVPの戦利品のポーションは30本以上ある。毒消しも同じくらいだ。それでも調合は上げておいた方がいいかもしれないな。決してオロシを見て思い出したとかじゃないぞ。
なので西門を出てイビス方面へと向かう。
リングベアと1度戦い勝利すれば、次にそのエリア内は通過可能だ。再戦したければそこに近付き、「リングベアと戦いますか? Y/N」と表示される「Y」を選べばいいらしい。リポップには30分くらい掛かるとのこと。ハイローとアサギリに聞いた限りでしかないがね。
リングベアの戦闘用エリアを通過すると、数組のプレイヤーが列を作っていた。目が合った人たちから「ビギナーさんだ」や「開祖さまだ」とかいう囁き声が聞こえてくる。
最早それで定着されちまったなあ。思うところはなくもないが、プレイヤーにアダ名が知れ渡るのは決して悪いことではないらしい。こちらはアルヘナからの受け売りだ。
列作ってる全員が見えるような位置で会釈してから通りすぎる。
目的は草全般だ。むしってむしってむしりまくろう。シビレ草を喰うときは街に入ってから!
街道沿いに生えているのはほとんどが薬草だ。なので早々に北側の森の中に踏み込む。
隊列はアレキサンダー、シラヒメとグリースが横並び。最後尾に俺だ。今のところ1番体躯がでかいのがシラヒメなのだが、防御力という点においてはアレキサンダーが上なのである。
アレキサンダーは人が行き来できそうなところを選んで森の中を進む。
余程ヘンテコな所に踏み込まなければ、マルクトの称号の効果で迷子にはならないだろう。
数歩進んで草摘んで、数歩進んで草摘んでとしてるので歩みは亀のように遅い。
グリースはあちこちを啄みながらちょこちょこと歩いている。
その仕草だけなら(鳩位の)ヒヨコなんだけど、マウススネークみたいな尻尾があるからなあ。そっちは鎌首をもたげて、舌を出し入れしながら周囲を窺っている。
シラヒメはいつのまにか全長80cmぐらいに成長していた。
未だステータスから幼体が取れてないので、まだまだ大きくなると思われる。成体のアラクネさんがあの大きさだからなあ。やっと5分の1くらいか?
採取の方は豊作である。8割が薬草で残りが毒草やシビレ草も摘めていた。
その他に野苺とかアケビとかも生っている。季節バラバラすぎるだろう。探せばリンゴとかミカンとかありそうだな。
一応【気配察知】と【忍び足】を使っている。片方はレベル低いから、効果があるんだかないんだか……。
アレキサンダーが歩みを止めるのと、俺の【気配察知】に何かの反応があるのは同時だった。
前方の茂みが揺れてタヌキのような、アライグマだかが顔を出す。奴は俺たちを威嚇するように牙を剥いた瞬間、唐突に飛び掛かってきた。
「つっ!?」
かなりの素早さだったんで、回避したつもりが腕に2本の引っ掻き傷が出来ている。
ステータスを横目で確認するが、毒や病気の類いは発生してないようだ。
敵の名前はノックラクーン。タヌキか。頭のノックってなんぞや?
アレキサンダーが飛び掛かって行くも、ノックラクーンが大きく振り回した尻尾に「パッカーン」と弾き飛ばされた。当たった瞬間に後から編集で付け加えたような音が響いたのだ。
まさか野球用語のノックか!?
アレキサンダーはぽーんと放物線を描いて木々の上の方に飛んでいく。PTから外れた様子も無く、HPにも変動はなさそうなんで大丈夫だろう。
シラヒメが網を投げるも、素早い動きでかわされる。エナジードレインを発動させてHPを奪うも、その値はちょっぴりだ。
グリースはちょこちょことした小走りでノックラクーンの攻撃を回避している。
籠手で防御に集中しながら、カウンター狙いで少しずつダメージを与えていく。
「ええいめんどくせー! グリース、シラヒメ下がれ!」
森の中とは言えどもたいして暗いとは言えないが、ゴースト召喚をノックラクーンの鼻先に発動させた。黒いローブを着こんだ上半身だけの人らしき者が、半透明となって顕現する。
ノックラクーンは一瞬ビクッとするも、果敢にゴーストに立ち向かって行った。もちろん実体がないから通り抜ける。
通り抜けた瞬間に横合いからアレキサンダーの突撃ボディーブロウを食らって体が浮く。いつの間に戻ってきたのやら、でかした!
【闘気】を目一杯注ぎ込んだ俺のアッパークローを首に叩き込む。ノックラクーンの首を切り飛ばして、ようやく戦闘は終わった。
ゴーストは木々の間からチラチラと差し込んでくる光に耐えられず、2分も持たずに消えていった。
囮の役目は充分やってくれたし、ありがとうな。
攻撃がかすったとかくらいの負傷がシラヒメとグリースだ。アレキサンダーは無傷。
ポーションを皿に移して2匹にだしてやる。
俺は食らったダメージと【闘気】のせいでHPの7割を消費した。やっぱ諸刃の剣過ぎるわ。
戦闘があれ以上長引くのは避けたかったからな。回復にはポーション2本分くらいか。
「3人ともありがとうな」
予め炙ってカリカリベーコンみたいになった肉を与えておく。これはリングベアの肉だ。
ドロップ品はタヌキの毛皮と金属バットだった。
誰だよこんなモンスター作ったの……。
どんどん重くなる管理ページ……。




