76 装備新調の話
ヘーロンまで戻り、プレイヤーの露店を探す。
露店を出すのにも商業ギルドの登録が必要で、出せる場所は決まっているという。住人の商店とは違う場所となっていたが、北側の壁の内側にあった。なんか日がな日影へ追いやられたって感じだな。
「皮防具作ります」とか「武器作成要相談」とか看板を掲げていたりする中に見知った顔があった。
「やあ、オロシ。お久しぶり」
「これはこれは最凶の開祖殿」
「……」
「ぴぃ!」
「待て待て冗談だ冗談! 無言でそのコカトリスを目の前に持ってくるのはやめてくれ!」
俺の手の上でグリースは尻尾蛇と共にオロシを威嚇していた。青い顔のオロシは両手を上げて降参のポーズを取る。その左右の露店のプレイヤーは完全に逃げの態勢になっていた。
シラヒメも腹を上げて戦闘準備を整えているため、俺の足元限定で緊張感が半端ない。肩の高さまでぽよんぽよん跳ねていたアレキサンダーを捕まえて頭に乗せれば、3匹の緊張が解ける。
「こいつら言葉分かってんだから、発言には気をつけろよ」
「おっかねえ……。飼い主がおっかないとペットもおっかないのか。最悪だな」
実際どういうAIが積んであるんだか知らないけど、妙に感情豊かなんだよな。他のペットはどうなんだろうか。今度アサギリに会えたら聞いてみよう。
「最近調合の方はどうだい?」
「すまん、全然やってない。最近の成果はこっちだな」
リンルフ肉串の味噌焼きを1本渡す。受け取ったオロシは詳細を確認したらしく、眉をひそめた。
「どっから味噌を……?」
「宝箱からだな」
フライングのことは伏せておく。めんどくさいことにしかならんからな。
「さすがビギナー先生。目ざといことで。それにこれ満腹度25%って多くね?」
「普通の串物がどれくらいだか分からんのだが、そいつは手が込んでるからな」
胡椒を振ってちょっと置いといただけだけれど、称号のことも伏せておこう。プレイヤーの作れる串物は10%前後くらいなんだそうな。
満腹度の実装は3日後なのだが、急遽料理をするプレイヤーが増えてきているらしい。別に売り出そうとかは考えてないが、オロシには材料費がちょっぴりでも10%で800は取れと言われた。
「で、これは2000くらいか」
「いや、それは今の情報のお代でいいや。本題としてはここで露店出している皆に聞きたいんだ」
聞き耳を立てていたであろう露店の店主たちが挙ってこっちに顔を向けた。俺は皆に見えるような所に毛皮を敷き、さっき狩ったモルキャタピラーの戦利品を置く。大小のナゲット、金銀鉄銅をだ。
「「「!?」」」
たちまち色めき立ち腰を浮かせる職人プレイヤーたち。
「これを適正価格で売るから、アクセサリーを作って欲しい」
「ナナシよう。どうしたんだそれ?」
金属加工には興味のなさそうなオロシが代表して出所を聞いてくる。
どっちにしろ北の街へ行けば途中のモル幼成虫には出会うのだから、今のうちに伝えておけば金属産業が加速しそうだね。
「北の街行く途中のモルキャタピラーって奴が落とした」
「「「「なにいいぃーっ!」」」」
「「「鉱山以外にそんな産出場所があんのかっ!?」」」
ワイワイガヤガヤと露店一帯が騒がしくなる。
ちなみにこれも少し経った後で聞いたのだが、大のナゲットは滅多に出ないレア物だったようだ。ゴロゴロ出るから判別が出来るわけないだろう。【アイテム知識】にはレア度は表記されてないし。
露店近辺が騒がしい中で1人のドワーフのプレイヤーが手を上げる。
「ちょっといいか?」
「うん?」
「レンブンからナナシのことは聞いている。俺がゲンドーだ」
「ああ、アンタが。その節は悪かった」
レンブンから聞いた腕のいい鍛冶屋というのが彼で間違いないようだ。
「最初は短剣を鋳溶かして武器を作るって話だと聞いたが、これをアクセサリー系に変えりゃあいいのか?」
「ああ。俺はメインの戦闘が格闘だから指輪以外で頼むわ」
「そうすると腕輪とかか。分かった請け負おう」
ゲンドーは鉄と銀少量を使うという。品物の代金から材料費を引いて、工賃をおまけして17000だそうだ。
俺も俺もと立候補してくれた人たちから、3人ほどに金と銀と皮でアクセサリーを作ってもらうことになった。それぞれ鉢金、バングル、ベルトだという。
あとはリングベアの皮で防具も作ってくれる人もいたので、任せることにする。アクセサリーは今日中、防具は明日くらいに連絡をくれるそうだ。余った金銀銅の材料は適正価格で代金から引くという【細工】持ちの人に渡すことにした。
モルキャタピラーの情報は適当に掲示板に上げてもらう。
ついでにモルフォの羽を売れば、鉢金とバングルの代金がタダになった。
連絡はゲンドーが纏めてしてくれるというのでもう1人、防具職人のハルハルトともフレンドを結ぶ。
そこを離れてから次に向かったのは商業ギルドだ。
カウンターで「競売に品物を出したい」と告げると、別室に通されてギルドマスターが出てきた。
ヘーロン支部は小さいので、大金が動く場合はギルドマスターが担当なんだそうな。聞いてもいないが嬉々としておばちゃんギルドマスターが答えてくれた。
「どのような品物を出品して頂けるのでしょうか?」
毛皮を敷いてからテーブルの上に黄金の蛹を出す。テーブルが潰れるような気配はなかった。ギルドマスターはあんぐりと口を開けている。
「これはもしかして北の街道に生息しているという……」
「モルフォの蛹ですね。偶然見付けたので入手しました」
唖然とばかりしてられないのか、ギルドマスターが気を取り戻したのは早かった。契約書を出してきたので1つずつ確認しながら記入していく。
直接競売に参加するのならばギルドの取り分は代金の1割、代理人を立ててギルドに任せるのなら2割だそうな。競売の期日を聞いてみたところ、ログイン出来ない時間帯だったのでギルドに任せることにする。
ギルドマスターの見立てでは8~90万はいくのではないかということだ。
ギルドを後にしてから毒針のスティレットのことをすっかり忘れていたことを思い出した。
次の機会にするとしよう。もしかしたらアルヘナが2本とも買うかもしれないし。
 




