72 海中戦の話
飛び込んだ海中は遠浅の砂地が広がっていた。水深は6~7mくらいか。
海上は白波が立つほど荒れているが、海中は穏やかだ。昆布とか欲しかったんだが、周辺には見当たらないようだ。
魚も小魚か、少し大きいくらいのがちらほらと泳いでいる。大きくても手の平サイズだろう。魚の種類には詳しくないから分からんが、あれ食えるのか?
崖から少し離れるとサンゴ礁らしきものが少しずつ増えていってる。
潜りながらステータスに備え付けられた時計を確認するが、5分経ってもまだ苦しくはない。
肌の露出しているところには薄緑色の鱗が浮き出ている。顔を触ってみると額や頬にゴツゴツした感触があるので、こっちも鱗なんだろう。指の間にも同色の膜が出来ている。これが水かきで間違いはない。
1度呼吸しに海上へ出てみる。
崖からはまだ50mくらいしか離れていなかった。おそるおそる下を覗き込んでいたハイローと目が合ったので、手を振ってから再度水中へ潜る。
サンゴ礁の隙間とかを確認してみるも、ウツボやタコは出てくる気配がない。小さなカニやイソギンチャク、ヤドカリが居たくらいだ。
このカニがでかくなったらイビスの海岸線に出るという巨大カニになるのかね。
サンゴ礁をあちこち調べていると、採取出来るポイントがあるのに気が付いた。適当にポキポキ折ってみると、アイテム名は赤サンゴや青サンゴ、桃色サンゴと名称が変わる。
説明には【細工】スキルの材料とある。それぞれ2個ずつ手に入れるだけに済ませておこう。スキルからしてアクセサリーにしかならんようだし。
【気配察知】に反応があったので目を凝らすと、沖の方から敵意のあるものがこっちに迫って来るようだ。警戒しながら崖の方へ戻ろうとするが、あちらの方が動きは早い。
サメかとも思ったが白くて細長くてうねうねしている。
距離があるうちに一旦海上に出て空気を補給しておいた。
名称が判明する距離になったところで、相手が急加速した。真っ向から突っ込んでくるので、慌てて回避行動をとると脇腹ギリギリを掠めて通過して行った。
(あっぶねえ)
名称はスキッドランサー。
ヤリイカのようだが、見た感じ頭頂部がまんま槍になってたぞ。なんだありゃ!
全長は足も込みで3mくらい。全体的に白いが、槍部分だけは幅広のギザギザの刃みたいになっている。
何回か攻撃をかわしていたが、どうやら遠距離から速度を稼いで突撃してくることしかしないようだ。そのお陰でギリギリ避けられているんだが。回避しているだけだとこちらがジリ貧になる。
戦闘行動に移ると潜水時間がバーで表示され、通常活動よりその時間は半分くらいになるようだ。
奴は体の中心しか狙って来ないので最小の動きで活動を止める必要がある。肉を切らせて骨を断つ的な。リングベアの籠手を装備して待ち構える。
突撃のタイミングに合わせ、【闘気】も注ぎ込んで肘と膝で奴の槍を挟み込んで受け止めた。
水中の抵抗でスピードが緩んだところを見計らい、奴が再加速をする前に目にクローを突き立てる。脚部分は全体の5分の1くらいしかないので、格闘戦には向かないだろう。
体を捻って逃れようとしているところを押さえ付ける。
【闘気】を使って何度もクローを突き立て、ヌメヌメした体表を貫く。内部の心臓だか脳だか分からないが、中心部を破壊したところでようやく倒すことが出来た。
潜水時間がぎりぎりだったので慌てて海上へ頭を出す。ドロップ品の確認は後回しにして海から上がろう。
崖はボルダリングの要領で突起を探しながら登って行く。
登りきるとすぐさまアレキサンダーたちが寄って来た。くすぐったいからぐりぐりすんのはやめろー。
「おうお疲れー」
「ご無事で何よりです」
「あれ、アサギリは帰っちゃったのか」
上にはハイローとレンブンしか居なかった。アサギリはクランメンバーに呼ばれたらしい。
「どうだった?」
「遠浅だな。水深7m弱ってとこか。小魚ばっかりで旨そうなのは見当たらなかった」
「食う方を聞いてんじゃねーよ」
呆れたようなハイロー、それを聞いたレンブンは吹き出した。
ステータスを開いてインベントリからポーションを取り出して飲む。なんだかんだでHPの3割程が減っていた。水中だとポーションは使えるのかねえ。次の機会に試してみよう。
スキルは【カウンター】や【気配察知】が20に上がっていた。【登攀】が生えてるな。
スキッドランサーのドロップ品はゲソと墨袋と槍だ。
名称は魚骨の槍。イカなのに魚ってところに突っ込んだらだめなんだろうな……。取り出してみると三角形を縦に重ねたようなギザギザの刃を持つ幅広の槍だった。柄は短いんで短槍になるんだろう。
【投擲】でも使えそうだな。
攻撃力は58もあり、5%で出血の状態異常がつくようだ。
レンブンが掲示板に上げるというので、性能を提示する。
「これはまたとんでもない槍ですねえ。出してしまうんですか?」
「そうだな。槍は使わないから競売行きかな」
「ちょっと待てえええーっ! 早まるな! まだ売るんじゃない!」
必死の顔で引き留めたのはハイローである。俺から槍を奪おうとして、手に取れないままオロオロしている。貸し出し許可してないんだから、奪うのは無理だって。
「こんな凄い武器がみすみすどことも知れぬ闇に葬られるのは見過ごせねえ!」
「競売で買えばいいじゃないか」
「んな30万だか40万だかになるもんが買えるプレイヤーなんかいねーよ!」
レンブンに幾らになりそうかと聞いてみると、推測で6~70万じゃないかという答えが返ってきた。高っ!?
「ますます買える奴がいねえ……」
ハイローはあまりの高額予測にどんよりと落ち込んでしまう。苦笑いの顔でレンブンは「どうします?」と聞いてきた。これはもう仕方がないな。
「じゃあレンブン。掲示板に出したら60万で譲渡するって書いておいて貰えるか? 期限は第2陣が来る日までだ。それを過ぎたら競売に出す」
「分かりました。ナナシさんのところに伺えばいいんですね」
「ああ、それで構わない」
「おお友よー!」
ハイローは涙を流さんばかりに喜んでいるし。大袈裟過ぎる……。
「じゃあ俺は期間中隠れ里にでも行ってもふもふしてるかな」
「売る気ないだろお前えええっっ!?」
「はっはっは」
ベツニソンナコトナイヨ?
海中のイメージはベターマンのOPみたいな感じですね。




