07 もふもふ撲殺事件現場の話
さて戦闘についてだが、別にスキルは無くても剣や拳は使える。
スキルがあれば命中とダメージにプラスされるそうだ。更にレベルを上げれば特殊攻撃を覚えると。
「同じことを50回程続ければ、スキルが得られると検証組の方で報告があがってますね」
それでも各種武器や盾スキルなどが主流だそうだ。
リアルでの心得が無い鍛冶や錬金術などは素直にSP使って取るしかないということか。
「ほうほう、なるほど」
エニフさんがいう検証組は掲示板に専用スレが上がっているので、機会があったら見てみるとしよう。
動作確認のために硬球くらいの大きさのタマラビを掴み、メンドゥリに向かって投げ付けてみた。
タマラビはそれで倒せるが、メンドゥリは怒って飛び掛かってくる。その攻撃に使う脚を掴み、地面に叩きつけること数回で倒すことが出来た。
オンドゥリは地を這うように突進してきて、攻撃はくちばしによるツツキだ。
首を上から掴んでゴキッと首折りし、背骨をヘシ折ればそれだけで倒せる。
普通はプレイヤーでもそんな攻撃では倒せないということだが、おそらく痛覚設定50%の影響で急所攻撃(習熟中)が発生しているせいだろう。たぶん、おそらくは。
鶏は鶏でも大きさが1mくらいあるので、取り回し注意である。
対処にやや苦労するくらいかな。
リアルで熊とやった時に比べれば簡単だって。
他はどう見えてるか知らないが、残酷描写さんはキチンと仕事をしている。
当たったりぶつけたりすると結構血飛沫が舞う。
ある意味俺の周りだけ凄惨な殺人現場のようだ。倒したモンスターが消えるとそれも無くなるが。
わざと攻撃を受けてみたが、タマラビはダメージ無し。
オンドゥリとメンドゥリは1撃でHPの1割が減少するくらい。
不意打ちでもされない限り、どちらも目で追える動きなので反撃は可能だ。
「すごいですね」
「動物は直線的だからな。逆に人間の方が攻撃が多彩な分、めんどくさいと思うがね」
エニフさんは俺が素手でモンスターをバッタバッタとなぎ倒しているのを見て目を丸くしている。
アルヘナはというと、草原の一角で体育座りしてふてくされていた。
「なんですかもう折角兄さんと遊んだり兄さんに教えたり出来る機会だというのに兄さんは問題とか騒動しか持ち込まないってどういうことですかふーんだもう知りませんよ勝手にしたらいいじゃないですか……」
「メンタル弱すぎだろう」
「でもあれはあれで」
「ああ、うん。あれな」
何があれかというと座っているアルヘナの周囲にタマラビが集まっているからだ。
見た目にはもふもふ溜まりで癒しに見えるんだが、1匹に手を出すと釣り連鎖で袋叩きにあうという罠である。
初日にあの有り様になって死亡した者が大勢いたとか。
通称『もふもふ撲殺事件』と恐れられているそうだ。
掴む、投げる。
襲いかかってきたのを掴む、叩き付ける。時々折る。
を4セット繰り返したところでレベルが1上がった。
「お、レベルあがった。SP1か」
「おめでとうございます。格闘か投擲を取得するという手もありますけれど?」
「ああ、ありがとう。スキルはちょっと取りたいものがあるからそこまで貯めるかな」
取りたいのは【解体】である。SPが3も必要となる。
解説にはドロップ品にランク上の物が出てくると書いてあったからだ。
今のところタマラビからは兎の毛玉。手の平サイズの綿毛みたいなものである。
オンドゥリとメンドゥリは鶏肉と尾羽が共通。卵がたまに混じるくらいか。
孵化させたらヒヨコが生まれるのかね。
アレキサンダーは俺の戦闘の邪魔にならないようちょっと離れた所で待機している。命令すらもしてないんだが、良くできたペットと言うべきかねえ。
時折、タマラビにぽよよんと突撃して倒し。オンドゥリたちも同様にして一撃で葬ったりしている。
どう見てもレベルが俺より遥かに高いだろう、お前……。
「ああもう兄さん!」
再び復活したアルヘナに捕獲される。
「そんだけ戦えれば林のなかでも大丈夫でしょう! さっさと移動しましょう」
「え? まだスキル取れてないんだが、覚えるまで待てんか?」
「習熟度は蓄積してるから問題ありませんよ。エニフも行きますよ」
「はいはい」
草原の先に木々がまばらに生えている林が広がっていた。此方で出てくるのは狼と猪らしい。
狼はリンルフという緑色の狼。
色以外は普通の狼と変わらんな。ただし2~3匹の群れで襲い掛かってくる。
「はやっ!」
スピードという点ではオンドゥリたちとは大違いだ。
「頑張って下さい兄さん」
「頼りにしてますね、ナナシさん」
「初心者を前衛にするとか頭おかしいだろお前ら!」
アルヘナは奇襲を得意とする盗賊。エニフさんはバフとデバフ、回復を得意とする神官。
なんでも魔術士と神官の違いは得意魔法の威力の違いくらいで、使える術に差違はないそうだ。
違いが出るのは2次職に転職してからということらしい。
でだ。
リンルフ戦は俺が回避盾という役割りで翠が奇襲でちくちくと。その攻撃には毒や麻痺が混じる。
アレキサンダーも一緒になって盾をやっているが、まったく堪えた様子がない。翠によると打撃無効があるんじゃないかということだ。
エニフさんが狼の行動阻害と味方の回復を。
瀕死の奴を俺かアルヘナかアレキサンダーがトドメを刺すという戦い方になっていた。主にアレキサンダーが難なく倒している……。
1度だけ足を止めて渾身の一撃を加えてみたが、リンルフを倒すには至らなかった。逆に噛みつかれて9割のHPを持っていかれたのには肝を冷やしたわな。
翠に言わせれば回転は悪いそうだ。お前らとのレベル差が酷いので当たり前だろうよ。
2時間程リンルフと戦い続けた結果、俺は4レベルまで上昇した。アルヘナたちは11レベルから変化していないそうだ。
「ふぃー。とりあえずスキルは取れたが、習熟度をあげている方面は全く取れん」
「お疲れさまです」
「兄さん、お疲れさま」
本日のゲームはここでお開きとなった。
ドロップ品が大量に出てるんだが、売り払うのは次回となるだろう。
アルヘナはまだやりたそうだったが、こっちは今日の夕飯当番だ。冷蔵庫の中身と相談する必要がある。
何だかんだ言ってゲーム内に6時間ぐらいいるしな。日課をする時間があるかどうか。
「3人+1匹でギリギリじゃねえか。初心者に割り当てる仕事じゃないだろう、あれは」
2人は苦笑いしてるが、こっちは生きた心地のしない攻防だったぜ。
ゲームだけどさ。
そう言えばユニークスキルの試しが出来なかったのが残念だ。
2人には言っても聞き取れなかったらしいので、なんらかの禁則事項が働いている可能性がある。
母親が好きだしな禁則事項。
「また時間があったら一緒にやりましょうね兄さん」
「時間が合えばなー」
「次はうちのクランメンバーをフルに連れてきますよ」
アルヘナたちはエトワールという女性限定クランを作ったそうだ。アルヘナもエニフもそうだが、メンバー全員が星の名前で統一してるとか。
「女性だらけとか、俺が他の男性プレイヤーに恨まれるだろーが!」
俺の発言に、何故か頭上のアレキサンダーがぷるぷる震えていた。
男の嫉妬心はアレキサンダーも嫌のようである。
本日の終了時ステータス
名前:ナナシ
種族:人間(■■)
職業:ビギナー Lv.4
SP:0
所有スキル:【解体】
ユニークスキル:【城落とし Lv.1】
称号:【後先考えぬ者】【スライムの友】
説明交じりの戦闘描写は苦手ですねー