61 スキルを検証する話
【闘気】の説明文には気をコントロールし、攻防の威力を跳ね上げる補助的な戦闘スキルとある。
いやいやいやいや、ちょっと待て。
これリアルで習得に2年近く掛かった奴だぞ。なんでこんなあっさりと手に入る?
リアルと同じくスムーズな行動がとれる感覚があるからか?
一般的にこのゲームのアバターだって、神経の感覚を脳と擬似的に繋げた構築体という触れ込みだ。経験則のある人間なら技や技術をすんなり実行出来る筈だとしても、それは体に染み付いた記憶と反復行動だよな。
だが気に至っては肉体に備わっていても、電気信号に変換できる訳にはならないだろ。【闘気】を使うと減るのはHPだからか? 魔法だってこっちで習得出来てもリアルでは行使出来ない。あちらに持ち出せないからだ。
目に見えないものであるならば、気も魔法も似たようなもんだ。もしリアルに魔法があったならば、経験を積んだ者ならこっちへ持ってこれるのか?
「あー、なんか混乱してきた」
うだうだ理屈を考えていたら、脳裏でポーンと最近では聞かなくなった音が鳴る。
━━称号【ゲヴラーの興味】を手に入れました。
ってまたか……。
神様の名前入ってんじゃん! しかも戦いの女神じゃん!
戦闘に関する効果が10%アップするって? どこからどこまでが効果の範囲かよく分からんなあ。戦闘中にジャンプしたら、今するのより10%高く跳べると言われても確認しようがない。
なによりこういった称号の効果は上乗せされるとあるので、夜に戦ったら威力が5割上昇するようだ。暗殺者向けだなあ。
5割の内わけは【闇を歩む者】で30%、【ゲヴラーの興味】で10%、【格闘Lv.30】のボーナスが攻撃力+10%(パッシブ)である。砂漠の夜とか何が出てくるのやら、おっかなくてやってられんわ。
しばらくは街に逃げ込める位置で【闘気】の検証かなぁ。
デカイミミズはラージワームという全長5m弱の茶色いミミズだった。砂から体を半分程出して、回転させて攻撃してくる。
ドロップはミミズの皮。1平方mの薄いゴム膜みたいなのだ。ウェットスーツの生地っぽい。
アレキサンダーが何度かバットに当たったボールのように飛ばされた。本人は堪えてないようだが、その都度心配するこっちの身にもなれ。
ラージワームの外皮はゴムみたいな感触で攻撃が通り難い。でも【闘気】を纏わせた攻撃だと簡単に抉ることが出来る。防御に使うと回転攻撃を難なく受け止めることが出来た。
その分纏ってる間はガンガンHPが減ってくんだけど。エナジードレインもしてみるが、その奪取した分はそのままで本体HPだけが削れていく。
こりゃあインパクトの瞬間だけに使わないと、あっという間にジリ貧になっちまうな。
「なんやかんやと考えながらやっていたら、20匹ぐらい狩っていた件について」
アレキサンダーはぴょこたんぴょこたんと跳ねて回ってまた跳ねてと、勝利の踊りっぽいものなのか嬉しそうだ。アレキサンダーはよく分からないがシラヒメは10に、俺も12へレベルアップした。
スキルはともかくレベルの上がりが遅いのは、ソロだけどペットがいるから経験値が3分の1になっているからだろう。たぶん。
ビギナーもレベルが上がったら上級職とかあるのかねえ。ハイビギナーとか。……ねえよ。
手に入れたドロップ品だが、ヘーロンだと何処に売ればいいのか。さっきの裏路地にあった道具屋では買い取りはやってなさそうだったな。
魔女さ、セルテルさんに聞いてみるか。顔役だと言っていたし、そういったことも教えてくれるだろう。なんの顔役なのかは分からんが。
冒険者ギルドの前を通ると、アルヘナとエニフさんが談笑していた。当然気付かれる。
「あ、兄さん」
「ナナシさん」
「よう」
「どこか行ってたんですか?」
「ミミズとかサソリとか殴ってた。ああ、そうだ。アルヘナ」
なんか2人して呆れた顔になったんだが、俺何にもしてないよな? 首を傾げたアルヘナに毒針のスティレット2本をポンと渡す。物を確認したアルヘナがビシッと硬直する。鑑定は持っているようだ。
「……なん、ですかこれ……?」
「スコピオ倒したらでてきたんだけど、コイツは使わないからあげる」
「わああっ!? お金! お金払いますから! 全財産払いますから! あっさりと人に譲ったりするの止めてえええっ!?」
目を点にするエニフさんといきなり半狂乱になるアルヘナ。キャラ崩れてないかお前?
俺はただ熊の時の約束を果たしただけだというのに。
60話突破。ブックマークが5000突破でPVが150万突破してました。
毎回お読み頂きありがとうございます。
現在、リアルが複数の鮫にかじられる餌のような気分。夢に見そう……。




