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06 妹の機嫌が悪い話

 


 不穏な気配を感じたがすぐに襲いかかってくるようではないので、警戒だけに留めておくか。


「すまん。アルヘナ、エニフさん、待たせたな」

「「……」」


 詫びながら冒険者ギルドを出ると、こっちを見た2人がポカーンとした顔で動きを止めた。


 噴水前広場も同時に静まり返り、複数の窺う視線を感じる。

 こっちもか。なんなんださっきから?


「……兄さん。なんですか、それ?」

「何って、アレキサンダーのことか? 見ての通りテイムしたモンスターだが」


 眉間を揉んで難しい顔をした翠が俺の腕をがっしり掴み、噴水広場から連れ出していく。

 向かう先は東門の方のようだ。


「お、おい?」

「とんでもない騒ぎになる前にここから離れますよ!」


 ああ、やっぱり騒ぎになるのかアレキサンダー……。

 さっきの広場にいたプレイヤー連中も、何か聞きたそうな顔だったもんな。



 ずるずると東側の草原に連れ出された。


 ここのモンスターはタマラビという丸いウサギと、チャボのような雌雄の鶏のオンドゥリとメンドゥリの3種類だ。

 ノンアクティブらしいので、此方から攻撃しない限り無害なんだそうな。


 翠に街壁沿いに壁ドンされ、ずいずいっと詰め寄られた。アレキサンダーは頭の上から腕の中へ降ろす。


「なんですかこれは! 何をやらかしたんですか兄さんは!」

「待て待て落ち着け近い近い!?」


 身長は俺の方が高いけど、差としてはそんなに無いからな。

 詰め寄られると瞳で瞳を覗き込む感じになってしまうんだよな。


 俺もそうだが翠もアバターの身長を弄ってないようだし。


「何をしたもなにも、俺だって意図してやった訳じゃないぞ。気が付いたらワールドアナウンスが響き渡ってたってだけだ」


 猜疑的な視線を向けてくる翠を見つめ返す。

 数秒のち「はあぁぁ~ぁ」としょーがないな的な、愚痴るようなタメ息を吐いた翠ががっくりと肩を落として離れる。


「まあ兄さんのことですから、こういったことで嘘は無いと信じていますけど……」

「恨みがましい目で見んな」


 俺たちの間に漂っていた緊迫感が薄れたのを見て、ようやっとエニフさんが口を開く。


「びっくりしました~」

「ああ、すまん。騒動を持ち込んだみたいで悪かった」


「そっちもびっくりしましたけど。アルヘナちゃんとナナシさんとの距離感がすごい近くって、言葉にしなくても解ってるってところがとっても素敵です」


 聞いてるうちに翠の表情が茹でダコのようにどんどん赤くなっていく。


「ちっ、違うから! 私と兄さんは兄妹なんだから! そこに深い意味とかやましいところなんてないんだからね!」

「大丈夫よ。分かってるわアルヘナちゃん」

「エニフはぜんっぜんっ分かってないでしょっ!」


 エニフさんのお見合いを勧める親戚のオバちゃん的な対応に、怒鳴るように否定する翠なのである。


「何を慌ててんだお前」

「~~っ!? もう! 兄さんのバカッッ!!」


 耳鳴りがするような音量で怒鳴られた。こういった場合の調節は働かないのか。

 キーンとした耳鳴りはすぐ収まったんだが。



 翠はそのままドスドスと足音を立てながら俺たちから離れていく。

 俺が肩をすくめて首を傾げる中、エニフさんはくすくす笑いっぱなしだった。




 エニフさんが触りたそうにしていたので、アレキサンダーを手渡ししてみる。

 こうした行動には接触制限とかなさそうだ。


「ふわあ」


 ぽよんぽよんと跳ねるアレキサンダーの手触りに、エニフさんは至福の表情だ。


「これってスライムなんですか?」

「レッドスライムって種類だな。それ以外はまったく分からん」



 ちなみに俺のステータスに表示されるアレキサンダーのステータスは以下の通り。


 名前:アレキサンダー

 種族:レッドスライム(Lv.■)

 主人:ナナシ(アラン他3名)

 所有スキル:【⬛⬛】【⬛⬛】【⬛⬛】【⬛⬛】


 見ての通り全然わっからねえ。

 調べる系、鑑定等のスキルが必要になるな。

 スキルが無ければ仲間になったものでも判別が不可能なところが運営の鬼畜具合が垣間見える。


「私にも触らせて下さい!」

「お、復活したか」


 いつの間にか戻ってきていた翠がエニフさんからアレキサンダーを手渡され、ほわんほわんしている。

 気持ちは分かる。


「ナナシさんはこの子をクエストで手に入れたんですか?」

「クエスト、かどうかはわからんが、気が付いたらテイムするか否かという選択肢がでて、ワールドアナウンスがなった」


「兄さんはそうやって騒ぎを大きくするのが得意ですよね」


 翠の手を離れたアレキサンダーが俺の元へ戻ってくる。

 お前はいちいち愚痴らないと始まらんのか。



 色々諦めた顔で頷いた翠は気分を切り替えたようで俺を手招きした。そういや狩りするんだったな。


「兄さんのことですから格闘か剣だと思いましたが、スキルは何をとったんですか?」


 あ、そっちの問題もあったな。

 これもまた翠の怒りポイントに入るんだろうか?


「兄さん? 何ですかその「忘れてた」って顔は。今度は何をやらかしたんです?」


 さすがに翠だけあって俺の表情の変化には敏感だ。

 隠すだけ無駄だってことくらい自分でも分かってる。


「んー。ガチャスキルに手を出して攻撃スキルは一切無いな」


 胸を張って包み隠さず申告したところ、今度こそ翠は崩れ落ちた。


 あれ?



 一応説明も含む回。

 スキルの伏せ字は不明状態のデフォルト表示です。

 全部2文字で表される訳ではありません。

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― 新着の感想 ―
[一言] ドゥリドゥリ
[気になる点] ワールドアナウンスになるような出来事だったら騒ぎになることくらい予想できそうな気がするんですが… 俺なんかやっちゃいました系って普通に思考力足りないバカにしか見えない時もあるので、難…
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