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58 続々・ヘーロンを探索する話


 街の北側に向かった俺たちではあるが、現場は住宅街だった。

 そのわりにはずいぶんと静まりかえっている。


 見掛けた人に聞いてみたところ、相手が黒猫であるからか気味悪がられて皆外出を控えているのだそうな。見回してみた限りでは黒猫は見当たらない。


「ちょっと回ってみる?」

「そうですね。兄さん、どうしますか?」

「街中で危険はないとは思うが、どういうクエストかもまだわからんし纏まって行くか」

「賛成」


 また骨格標本が出ないとも限らんしな。

 みんなで行動方針を決めたところで、アレキサンダーが俺の頭上からぽーんと飛び降りた。そのままぽよよんぽよよんと跳ねながら進んで行ってしまう。なんか前より進むスピードが早くなってないか?


「赤玉ちゃん行っちゃったんですけど……?」

「着いてくか。アレキサンダーに任せた方が早そうだ」


 あれでも色々と鼻が効くしなあ。駆け足でアレキサンダーの後を追う。

 マップ上には表示されているが視界からは消えている。離されないようにダッシュして角を曲がると、アレキサンダーに覆い被さる黒猫の背中が見えた。なるべく音を立てないように近付き、黒猫だけをかっ拐う。


 にゃーにゃージタバタと暴れる黒猫を高く上げる。

 腕を伝って近付くシラヒメが、自分の糸を巧みに駆使して黒猫をグルグル巻きにした。

 そこへアルヘナたちが追い付く。


「早、すぎ」


 最後に到着して息を切らしたデネボラさんに、ポンと黒猫の糸巻きを手渡す。

 にゃーぎゃー言ってる黒猫に顔を寄せて、デネボラさんがふんふんと頷いている。


「話してるみたいだな」

「話してると思うわ」

「えっ!?」


 アニエラさんの爆弾発言に、思わずデネボラさんの方を2度見した。


「あの子執念で【猫会話】ってスキル持ってるのよ。取得方法はよく知らないけど、猫との簡単な意志疎通は出来るって言ってたわ」

「魔女っ子の執念すげー」


 素直に感心してしまうやろ。

 しばらく黒猫との会話を続けていたデネボラさんだったが、糸をほどくと真剣な顔をして皆を見た。


「この子使い魔だった」

「あら、残念だったわね」


 使い魔にできなかったという割りには真剣な眼差しである。なんか事情が解ったのか。


「この子の主人が倒れたらしくて、助けてくれる人を探していたらしい」

「「えええええーっ!?」」

「そりゃ病気かなんかかね?」


 俺の問いに「分からない」と首を振るデネボラさん。そりゃあ猫は人間の病状なんて解るわけがないだろうなー。


「ちょっと! 話してる場合じゃないわよ!」


 早く早くと急かすアニエラさんに促され、デネボラさんが黒猫を離す。俺たちを振り向いて「にゃーん」と鳴いた黒猫は先導するように駆け始めた。


「って早っ!?」

「着いていけという試験か?」


 住宅街の細道を右に左にと曲がり疾走する黒猫を追う俺たち。


「なんでこんなぐねぐね道を?」

「きっと、魔女、の、住み処(すみか)、に、辿り、着く、には、決ま、った、道順、を、行かな、けれ、ばっ」


 既にデネボラさんがフルマラソンを走り切ったの如く息も絶え絶えなんだが、大丈夫かいな。

 そうこうしているうちに黒猫が次に向かったのは、人が横になっても入り込めるかどうかも怪しい家屋と家屋の隙間だ。


「ちょっとぉ! さすがに無理でしょこれっ!?」


 アニエラさんが悲鳴をあげる中で俺は左右の家屋の壁を蹴り、3角飛びの要領で屋根まで駆け上がる。バイトでこれより高いビルもやったし、楽勝だ。


「ええええーっ!」

「先に行く! マップから道順を確認して後を追ってこい!」

「兄さん、気を付けて!」


 シラヒメとアレキサンダーに黒猫が進んだ方向を教えてもらいながら、屋根の上を走って追い掛ける。たぶん見失っても称号で見付けられるんじゃないかと思うが、その時になってみてからだ。


 家屋の隙間を縫う黒猫は、俺が屋根に登った所から、然程離れていない家の前で足を止めた。


 俺も屋根から降りて、黒猫が扉を引っ掻いている家の前に立つ。

 見た感じ普通の民家との違いが見受けられないな。待つこと暫し、別の道からヘロヘロになった2人と元気なアルヘナがやって来た。

 PTメンバーの1人が辿り着いていれば道順云々は関係ないようだ。他のプレイヤーが挑戦したとして、あの狭い道を越えられる奴が何人いるのやら。



 デネボラさんが率先して黒猫がカリカリと引っ掻いているドアに近付く。2回ほどノックしてから1分待ち、それからドアを開いた。


「そんな呑気に待ってていいの?」

「いきなり開ける方が危険。魔女の舘で礼儀を忘れると何が起きるか判らない」


 まあ、別のゲームでノックを忘れるとどっかに吹っ飛ばされる罠があったなあ。それと似たようなもんだろうな。


「邪魔をする」

「お邪魔しま~す」

「誰もいないのかしら?」

「居ないわけはないだろう」


 黒猫は玄関を入った廊下を真っ直ぐ進み、突き当たりを右に曲がった。

 廊下途中にあった左側の半開きの扉をチラ見したが、応接間のようだ。黒猫が進んでいった扉の先にしか人の気配はない。


(兄さん気付いてますか?)

(ああ。人の気配があるってことは死んだとかではないようだ)


 スッと並んだアルヘナが小声で状況確認をしてくる。

 倒れたと聞いたが、実はしょーもない理由のような気がするぜ。


 一足先に部屋に向かったアニエラが黒ローブのおばさんを助け起こしていた。なんかそこら辺にいる主婦層と対して変わらないおばさんが魔女なのか。


 デネボラさんが水筒から少量の水を飲ませているようだ。気が付いてはいるのか。

 弱々しく開いた瞳が俺たちを捉え、震える唇が何かの言葉を紡ぐより先に緊迫した室内に大きな音が響いた


 ぐううぅ~~っ!



 全員の目が点になったのは言うまでもない。


 「続々」ってつけるとB級ホラー映画を連想してしまいますなー

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