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56 ヘーロンを探索する話


 先日ログアウトした宿屋で目覚める。

 起き上がる動作だけで色々とすんなりいく感じがするなあ。


「おお、体が軽い」


 ベッドから降りてストレッチをするだけで、指先にまで動作の流れが通るようだ。途中から拳法の型に切り替えて、数分動いてみれば、引っ掛かるような感じが消えていた。


 アレキサンダーとシラヒメは俺の型の動きに踏まれないように、足元をウロチョロして遊んでいた。

 鬼ごっこでも影鬼でもねえよ。


 頭と肩に2匹(ふたり)を乗せて宿を出る。

 待ち合わせ場所に行く途中で、何かの串焼きを売ってる屋台を見付けた。聞いてみればフォレストスネークの焼き串だそうな。


 5本買って1本を食ってみれば、蒲焼きのように柔らかかった。

 口の中でほろほろとくずれるのがいい。自分が作ったのと比べれば雲泥の差である。

 やはり下拵(したごしら)えの手間を惜しんではいけないと、再認識させられる。


 待ち合わせ場所にはすでに3人揃っていた。特に腕組みして仁王立ちしているアニエラさんの意気込みが半端ねえ。

 彼女の背後に燃え盛る炎とゴゴゴゴゴという擬音が幻視出来るようだ。

 そんなに期待するようなことかぁ?


「遅いわよ!」

「早すぎるだろう。ちゃんと学業に行ったのかよ?」

「い、行ったわよ……」


 語尾が消え去りそうにか細くなってんだけど、こりゃ途中で切り上げてきた可能性が大だな。

 アルヘナに目を向けると苦笑して肩をすくめた。処置なしか?


「最初に言っておくが、何もなくても恨むなよ」

「ん、了承」

「はーい」

「分かってるわ!」


 ホントに分かってるのかね。特に最後。


 3人を先導するようにヘーロンの住宅街をゆっくりと歩き始める。

 イビスと同じく、ゆったりとした時間が流れている平和な光景だ。


 途中、4人の主婦様が井戸端会議をしているのを見付けた。

 やはり情報収集といえばあれだ。若干話が長くなるのはいなめないが。


「よしアルヘナ、あそこの方々と交流して情報収集を頼んだ」

「ええっ!?」


 目を丸くして驚いているアルヘナの肩を捕まえ、井戸端会議している主婦たちに押し出してやる。


「ちょっ、ちょっと兄さん!?」

「いいからいいから行ってこい」


 心細そうに後ろを振り返りながら、意を決して「あ、あの、すみません」と主婦様に話し掛けるアルヘナさん。


 「あらあら旅人さん?」

 「どうしたの。何か困ったことでも?」

 「初めて来た方にはこの街は不馴れでしょう。色々と教えてあげるわ」

 「そうね。まずは買い物のイロハからかしら?」


 口を挟ませる暇もない主婦様の怒濤の攻勢に、アルヘナは目を白黒させて狼狽えるばかりだ。

 あれで有用な情報の取捨選択はできるんだろうか?


 アルヘナがおろおろしながら受け答えしている様を、アニエラさんとデネボラさんがげっそりした顔で見ていた。


「あんた、鬼なの?」

「獅子は妹をも崖から突き落とすという……」


 2人とも酷い言いようだ。これも情報収集としては、比較的楽な分類だと思うんだけどな。



 たっぷり30分ほどお喋りに付き合わされてからアルヘナは解放された。

 なんか目の焦点があってなくて、フラフラしてるが大丈夫か?


「死ぬかと思いました……」

「死なないだろ」

「「いやいや」」


 息を整えてから呟くアルヘナに突っ込むと、アニエラさんとデネボラさんが同時に首を振った。

 うーむ、味方がいないようだ。


「それで何が聞けた?」

「食料品を買うのに安い店と消耗品を買うのに安い店。あと数日中に子供が生まれる家と、奥さんと喧嘩して旦那さんが追い出された家。それと……」

「情報の取捨選択くらい考えろ」


 アルヘナの頭をぐりぐりと撫でて中断させる。

 もしかしたら何かに使えるかもしれないが、たぶん必要ないと思われる話まで拾わなくていいっつーの。


 今度はアルヘナの案内で市街の食料品を賄う区域へ移動する。

 そこは幅2mくらいしかない住宅街の通路の1角だった。


「うわあ」

「おお、こりゃまた狭いなー」


 右側に野菜等を扱う店。その先には左側に果物を扱う店。

 その先は店頭に食器などが並び、その先は数羽まとめてグルグル巻きにされたメンドゥリを扱う鶏屋? 屋根下にあるのはそこまでだった。


 数人の子供たちが獣皮を地面に敷いて綺麗な石を売ってたり、木の実を売ってたり。

 奥の方に行くにつれ発展途上国のバザーじみてってんなー。


 俺が進んでもアルヘナたちが後を着いてこないのに気が付いた。

 振り返ると3人共呆然としている。


「どうした?」

「……店?」

「え、あの、これ……」

「お店って聞いたからもっとこう、ちゃんと店舗あるものじゃないの……?」


 どうやら思い描いていた店と現実のギャップについていけないようだ。

 イビスも似たようなもんだったけど、そんなにショックを受けるようなもんかね?


「あんまり感情移入するもんじゃねーぞ。ゲームなんだから割りきれ」

「え、あ、うん」


 3人の頭を順に撫でてやったけど、それで少しは落ち着いて意識を切り替えられたようだ。

 別名、見たくない物からは目をそらす方法とも言う。


 手を払われないだけ良かったぜ。

 迂闊に男性が女性に触れると、セクハラ判定で吹っ飛ばされる場合もあると貴広から聞いていたからなあ。

 


 ゲームだからと割り切るか、ゲームだけどと踏み込むか。

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