47 さらにダンジョンの話
初めは1匹のグリーンスライムだった。
ここのスライムたちはアレキサンダーのように丸くない。アメーバのように液体が意思をもって地面を這っている姿だ。
それが俺の前に寄ってきて体を震わせ隊列に加わり、また1匹寄ってきて、そしてまた、といったように続いた。
いつの間にか俺たちの周囲はグリーンスライムで固められていたのだ。
レンブンも1匹2匹なら「珍しいですね」とは言っていたのだ。
が、5匹になると目を丸くし、9匹になると顔を青ざめさせ、12匹になるとグリーンスライムの隊列に場所を譲った。
現在の隊列はアレキサンダー、背中にシラヒメがへばりついた俺、グリーンスライム(いっぱい)、レンブン、となっている。
おい、なつかれるだけの称号じゃなかったのか! ものすごく畏まられてるみたいなんだが!
時折水中からカエルが俺を攻撃してくるんだが、周囲からブワーッと集まってきたグリーンスライムに倒されてんだけど!
カエルの肉とかガマの油とか貰ってんだけど!
なんもしてない俺に対するレンブンからの視線が凄いことになってんだけど。
段々いたたまれなくなった俺は探索もそこそこにダンジョンを抜けることにした。流石に一瞬でダンジョンを抜ける魔法や方法は無いらしい。
スライムたちも階段までは送ってくれたが、そこから先に進もうとはしなかった。
1匹1匹頭を撫でて働きを労いB2Fを後にする。
階段を登り終え、ひと息ついて後ろを降り向けば酷く疲れた表情のレンブンがいた。
「あー、レンブン?」
「いえ、ここまでの行程でナナシさんの規格外は分かりましたが、まさかこれほどとは……」
「なんか色々とすまん」
「こちらもスキル上げのお手伝いをして貰ってる身で多くは望みませんが、精神的疲労分くらいの手当ては戴きたいものですね」
闇を背負ったような笑顔が怖っ!?
絶対目が笑って無いって!
かと言ってあんまりあちこちに情報をバラ撒かれるのも困るから、それなりの譲歩は必要だよな。
俺は「カルマの銀細工」の売り上げから3分の2をレンブンに支払うことと、称号の情報を条件に今回の事柄を黙ってもらうことになった。
そこはかとなく不安は残るが。
「確かに口約束でしかありませんが、これでも今までの人生でそういったことを破ったことはありません。なんなら神殿まで行って契約しましょうか?」
「神殿? 契約?」
「神聖魔法を持つものは1柱の神様を選ぶ必要があります。自由と剣のネッツアー神殿や、美と魔術のティーフェレース神殿がプレイヤーに人気ですね。自分は法や平定のホクマー神ですけれども」
聞いたことのある神様の名前が2つもあって、口がへの字になってる気がする。
「いや、ホクマーなら俺も知ってるから信用するわ。レンブンは俺に嘘はつかないさ」
半分くらいは投げやりで言ったんだが、レンブンは顔をひきつらせて俺より距離をとった。
「なんですかその無駄に高い信頼度!? ここは逆に疑ってかかるところでしょう!」
「だってホクマー神に誓って嘘はつかないんだろう?」
「ええ、ええ! ホクマー神に誓いましたけれども、それでもここはゲームの中なんですよ。少しは疑問に思う、とか……」
レンブンは喋っている途中であり得ないといった表情を浮かべ、慌てて手元を操作して自己ウインドウを開く。そして表面に指を滑らせて一点で止まると、力が抜けたように肩を落とした。
「なんだ、どうした?」
「【ホクマーの契約】という称号が出まして、今の約束を違えると神聖魔法のレベルがダウンするそうです」
「うわあ……」
恨めしそうな視線がこちらを向く。
間接的に俺のせいだとしても、それを口にしたのはレンブンじゃねえか。
「まあ約束事ですし黙ってれば実害はありませんしね。これも試練としましょう」
やたらとポジティブな理解の仕方をするなあ。半分理論的ぽいけど。
そうしてB1Fのゾンビをぶちのめしながら突き進み、1Fもコボルトとダンゴムシを粉砕しながら出口へ向かう。
ダンジョンの外へ出ると入口より少し離れた位置に俺たちは立っていた。
混雑を緩和するための処置だろう。
戦闘をする必要を感じなくなったからか、シラヒメは俺の左腕にしがみついている。
お前またなんかでかくなってないか? レベルを確認してみると8になっていた。4レベル毎に大きくなる法則でもあるのかね。
ぽよんぽよん跳ねていたアレキサンダーを頭の上に乗せてから、突き刺さるような視線の中でイビスの街に入った。
途中、レンブンは俺を噴水広場にほど近い通路に引っ張って行く。
幅が4mくらいある割にあまり使われてないのか、人通りは少ない。
俺たちはダンジョン内で手に入れたアイテムを均等に分ける。魔石が100以上になっているんだがそんなに倒したか? もしかしたらドロップ増加の称号って、レアが出るだけじゃなくてノーマル品をも増やすのか。
鉄の短剣は奇数だったのでレンブンに8本、俺が7本で分けた。
ついでにレンブンから鍛冶をやっているプレイヤーを紹介してもらう。鋳溶かして別の物に加工することが出来るそうだ。鉄のトンファーとかあるといいかもな。
「あとさっきの称号のことだが……」
「ああ、はい」
「名称は【スライムの友】、スライムになつかれる。としか書いてないんだが。アラクネさんの時は特に嫌われてもいない対応だったから、知性ある者とそうでないモノで表記が違うのかもな」
匂わせた【アラクネの友】の称号にレンブンも目を見張ったが、それ以上の突っ込みはしてこなかった。
「今回は色々と情報を頂きましてありがとうございます。強制してしまったようなこともありまして、すみません」
「ああ、うん。まあ俺も情報を溜めすぎだって義妹に言われてるからな。こんなんで少しは貢献出来ればな」
「無駄にはしません。今回は思いがけないスキル上げも出来ましたし。機会がありましたらまたお願いします」
「こちらこそ。バフとか助かった。またやろう」
レンブンとは握手をして別れた。
競売が何時かは分からないが、それが済んだらまた会えるだろう。
そろそろアレを落とさなくては……。




