44 狩り場を探す話
とりあえず2人+2匹で行けそうな狩り場を探さねば。
「普段ナナシさんは何処で狩りを?」
「普段は東側で昼だったり夜だったりだな」
「夜だと烏骨鶏ですね……」
「あと俺のことは呼び捨てでいいぞ」
「では自分のことも呼び捨てでいいです。でも大丈夫ですかね?」
「何が?」
「ナナシさんを崇めている人たちに恨まれません?」
「いや、ないだろう」
あれは崇めているというのか?
あだ名みたいなものじゃないのかねえ。当人たちに詳しく確認したわけではないから良く分からん。
レンブンの方は神聖魔法や精霊魔法を上げたいんだと。
普通のプレイヤーの前で使うと「なんだそりゃー!?」と言われ不和の元になるし。スキルのことを話そうとしても聞き取れないしで、ストレスが溜まっていくんじゃないかね。
アンデッド系を狙うんならダンジョンもありなんじゃないかと思う。
くさいとか視覚が凄惨とも聞くからな、レンブン次第としか。
考え込んでいたレンブンと目が合う。
「あのう、ナナシはダンジョンとかどう思いますか?」
「おお、考えてたことがどんぴしゃ」
つい笑ってしまう。同じことを考えていた、なんてことが解ると楽しいものなんだな。
「ダンジョンはよく知らないんだが、今はどーなってんだ?」
「今は地下3階まで進んでいるって話ですよ。先日は1階のコボルトから、魔石の他に鉄の短剣が出たって騒ぎになってました。ゾンビも何か落とすようですが、不人気でみんな通り過ぎているみたいです」
「ふーん。地下1階は空いているのか。俺も残酷描写フルオープンのゾンビは見てみたいと思ってたからな」
俺の残酷描写の発言に目を丸くするレンブン。
ま、あんまり居ないという話だし、彼が言いふらすことはしないだろう。
今まで話しながら移動していたが、北門に近付くにつれてプレイヤーの姿も増えてくる。
何人かは俺を目で追っている者もいるようだ。街の外に出るのが憂鬱になるな。
「あ、レンブン。一応覚悟しておけよ」
「はい? 何を……」
先日に声を掛けてくれた門番に手を振って門をくぐる。
ダンジョン前の広場は以前にも増して混迷していた。
端の方では焼き鳥などの屋台も出ているし、消耗品の販売をしている奴もいるようだ。
入り口前には横5列にプレイヤーが並んで、順番待ちをしている。その列は先日みた時よりずいぶん短くなっているように思えるのだが?
列の最後尾に並んだところで、折り返し地点にいた人たちが俺に気付く。
目が合ったプレイヤーたちは自分のPTメンバーと此方を見ながら何か話しているようだ。特に大きく騒ぐような者がいなくて良かった。それでも多少はざわついているようだが、いい加減慣れろよと言いたい。頭の上にいるアレキサンダーや肩にいるシラヒメが、此方に向けられる視線の多さに身構えるくらいだ。
「注目されているようですね……」
「なーんでこーんなに知名度が上がっちゃったのやら。俺は静かに遊びたかっただけなのに……」
まー、ワールドアナウンスとかテイムとかしてしまったからな、そこらへんは諦めよう。
レンブンが言うにはダンジョンの入り方がまた変わったらしい。
10分おきに1PTというのは、何時まで経っても入れないプレイヤーが多すぎて不満が爆発したという。
今は10分おきに入場時間5分をとっているそうだ。それだけあれば100人は入れるんだとか。俺たちも10分待てば次の回で入れそうだな。
手前にあったギルドの改札みたいな所で300G払う。ペット分も払わねばならんのかい。
広場の方に冒険者ギルドの直営店があって、ダンジョンで出たものを売買出来ると聞いた。プレイヤーの店に売り払うかは各個人の自由だそうな。
入場の群集に合わせて中に入る。
一緒に入ったプレイヤーが次々と目の前で消えていく。どうやら1エリアに居られるプレイヤーの数は決まっていて、後は別のサーバへと振り分けられるんだと。
入るとすぐの小部屋でレンブンが光の玉を生み出す。ここからもうすでに暗いのか。
「MPは大丈夫なのか?」
「これは3時間ほど持ちます。切れたら掛け直しますので平気ですよ」
アレキサンダーが下へ降り、シラヒメは頭の上に移動する。
小さ……くは無いけれど、大立ち回りした時に踏んづけないか心配で。
俺とアレキサンダーが前衛でレンブンが後衛だ。シラヒメは攻撃手段が近接しかないからなあ。攻撃出来そうなら動いて貰う程度である。
行き先は俺の好きなように進んで行って良いそうだが、進む方向はなんとなく分かる。ダンジョンが大地の領分になるかは知らないが【マルクトの興味】の効果だろう。迷路の抜け方ではなく進む方向なので、行き止まりに突き当たる可能性もあるが。
気配察知のレベルアップで感知範囲はあがっている。躊躇なく迷路内の角を曲がると、レンブンが動揺する気配が伝わってきた。
「大丈夫ですか?」
「何が?」
「いえ、今、警戒せずに角を曲がったようでしたが……」
「そういうスキルがあるから平気だ」
「っ! そうでしたか」
今度はその先の通路で何かが動いてる気配がある。アレキサンダーがぽよよんと停止するのは敵発見の合図だ。
現れたのはコボルトが2匹。
レンブンからの攻撃上昇を受けた俺とアレキサンダーが飛び出した。
錆びた銅剣を振り上げた片方のコボルトに接近し、剣が降り下ろされる前に左のトンファーで肘を強打。カウンターも入ったようで、肘を逆向きに圧し折った。
ついでに右のトンファーで鼻先をぶん殴る。犬のような悲鳴を上げて怯んだところで喉と鼻先と目をラッシュで破壊すればコボルトは倒れた。
【急所攻撃】で赤く表示されている所しか狙ってないので、酷い戦法になってしまうのは仕方がない。
アレキサンダーはと目を向ければ、首無しのコボルトが倒れるところだった。
どうやら頭を包み込んで食ってしまったようだ。
振り返ればレンブンが呆然としていた。
暑い。




