43 同胞の話
ガルスの村で牛乳缶を2つ購入。
1つは牛乳を購入して入れるものでもう1つはアレだ。
たらいに入れておいた産廃のポーション液。
インベントリからひっぱり出してみたら、入れる前にはド緑色だったのが何故か透明になっていた。
【アイテム知識】の見解は「薬草茶:薬草液のような何かが神器によってほどよく浄化された。微量のMPが回復する」とある。
腐っても神器かー!
侮れねえー! 迂闊に入れたまま放置できねえじゃん……。
透明なお茶ってなんだろうと思って舐めてみたら、ほんのり甘い青汁のような味だった。
村長さんに挨拶をしてからイビスに戻り、オロシに薬草や毒草を売って道具屋で薬草茶やポーションを入れる瓶を纏めて購入した。
オロシに聞いたところによると、商業ギルドに登録すると生産部屋ってのが借りられるらしい。
ただし年会費が1万G掛かるというので、ちょっと考えさせておくれ。薬草茶は宿屋で瓶に移し替えておこう。
市場で調味料と食材を買い足し、魔道コンロ用の魔石も買っておく。
魔石はダンジョンの人型魔物が落とすらしい。1つ1000Gするんで、自分で使う分くらいは確保しておきたいところではある。
後はナイロンたちに連絡をとって武器防具の整備をしてもらう。
次は何をするんだったかと考えながら歩いていると、ローブ姿に杖持ちの魔術士らしい男性に声を掛けられた。前髪で目が隠れているんで、表情が読みにくいが朴訥な感じか。
「あのー、ビギナーさんですよね?」
「いかにも」
頷き返すと喜色満面となって両手を握ってきた。あれ、そっちの趣味の方?
「良かった! 自分はレンブンと言います!」
「な、ナナシだ」
嬉しいのは分かったから両手を離して貰えないかねえ。
「ナナシさん、実は内密のお話があるんです。損はさせませんので付き合っていただけますか?」
なんか話の方向がいかがわしいものから、怪しい訪問販売みたいなものになったぞ。
悪い印象はないから付き合うのに否とは言わないけれども。
そのまま手を引かれて冒険者ギルドの個室へ連れ込まれた。レンブンは扉を閉めて鍵をガチャンコと掛けると、ようやく緊張を解くように大きな溜め息をひとつ。
俺に席を勧めると、頼んでおいたお茶やおつまみを並べて椅子に座る。
「改めまして、ソロで活動しているレンブンです。魔術士やってます」
「こちらこそ。テイムモンスターを連れているが、ソロのナナシだ。戦闘は格闘系が主に」
互いに頭を下げて簡単な自己紹介をする。
「さて内密の話と聞いたが内容は?」
「はい。回りくどいのはまどろっこしいので単刀直入に。ナナシさんはユニークスキル持ってますよね?」
ああ、だいたい分かった3人の内の1人か。城落としがそれだと思ったのかな。
「持ってるな。たぶんエトワールに確認して確証を得たんだな?」
「はい。同じくユニークスキルを持ってる人ならスキル名が聞き取れますので、お城が落ちてきた現場にいたと思われるエトワールさんたちは首を傾げてましたし。残りはビギナーさんであるアナタだけですね」
まあそうだろうなー。
「俺のユニークスキルは【城落とし】だ。その名の通り城を落とす広範囲押し潰し魔法と言えばいいのかな」
「自分のユニークスキルは【魔法大全】ですね。1部を除けばほぼ全ての1次スキルの魔法が使えます」
「全て?」
「ええまあ……。火、水、風、土、光、闇、無、神聖、精霊ですね」
指折り数えていったレンブンが挙げたのはビギナーからすると羨ましい羅列だった。その分デメリットも凄いんだろうけど。
「死霊術は入ってないんだな」
「知ってるんですか、死霊術! あれと暗黒魔術は人には使えないそうなので入ってませんね」
あるえー?
俺、人間なのに使えてるんだけどどーなってんの?
「デメリットなんですが、どれかを3レベルに上げる場合には全部を2レベルに上げないとならないというところですね」
「そりゃまた変な条件だな。でも使ってりゃー上がるんだろ?」
俺の楽観視した言葉にレンブンは首を横に振った。
「ソロでやってる分には良いですけれど、PTを組んでしまうと使っても3種類というところでしょう。それ以上だと異常さが際立ってしまいます」
なるほど、魔術士が神聖魔法を使っていたら勘繰られるだろう。
エルフでもないのに精霊魔法を使っていたら、何らかのコードを使ったと疑われても仕方がないな。
「あー、すまんかった」
「いえいえ、ナナシさんに悪気がないのは分かってますから、気にしてませんよ」
5種類も6種類も魔法を使ってれば、他のプレイヤーが変だと思うのに時間は掛からないよな。逆にソロでやるとその辺は気にしないで良いが、打たれ弱いので敵を選ぶということか。
「じゃあ俺とPT組んでやろうぜ。こっちにはアレキサンダーという優秀な前衛もいる」
「えっ!?」
名前を呼ばれたアレキサンダーはぽよよんと気合いを入れて跳ね上がった。隣のシラヒメは「チー、チー」と鳴きながら俺のマントを引っ張っている。
「はいはい、シラヒメも俺の優秀な後衛だよ」
頭を撫でながらそう声を掛けてやると、「チー」と鳴きながら8の字ダンスを踊る。
喜ぶのは分かるが、それ蜂のやることだろう。
「こちらから切り出すつもりだったんですが、良いんですか?」
「俺は別に誰が何を使おうが気にしないしな。存分に色々使ってレベル上げすればいーぜ」
「ありがとうございます! 助かります!」
「ああ、あと俺の【城落とし】のデメリットは1度使うとゲーム内で23時間経たないと再使用できないってとこかな。まだ1回しか使ったことがないけどな」
あっちのデメリット聞いたんだからこっちも言っとくべきだろう。何に役立つか解らないがね。
「そう言えば範囲攻撃と言ってましたね。どれくらいですか?」
「最小直径10m、最大は23万平方mとあるが試してみないことにはなんとも」
「それはまた使い所の難しい魔法ですね……」
レンブンは範囲を聞いて口元をひきつらせている。
そーだろーそーだろー、一緒に使える場面を考えてくれ。
だんだんと専用ページが重くなってきた……。




