42 幼馴染と散歩する話
リアル回です。
さてさてたまには外に出て羽根を伸ばさないとな。
ここに来て物凄いゲーム漬けになってる気がするぞ。
ああ、でもその前に確認しておかなければならんことがあった。俺はついさっき通販で頼んだペット用のアクセサリーを掴んで階下へと向かう。
守護者の待機場所へ行くと、No.02のコイとNo.01のポイポイ(母親命名)が並んでいた。俺たちはポイと呼んでいるNo.01は虎型である。しかも牙の長いサーベルタイガーの姿だ。
待機場から手招きして呼び寄せる。
のそりと動き出して俺の前でお座りをしたところで、すかさずペット用アクセサリーを頭から被せた。
うん、ゲーム内で見たサーベルライオンそっくりだね。
じーっと見ていたらフイと視線を反らされた。本物の動物のような仕草だが、俺には冷や汗をだらだら垂らして緊張に体を強張らせてる人間じみた様子にしか見えん。うん、俺の主観もだいぶ入ってるがな。
「ポイ、お前なんか隠してない?」
「ガウ」
声を掛ければ反応して返してくるが、これはシステムの範疇内だろう。
再びじーっと見詰める俺と微動だにしないポイ。
「……兄さんはガードモジュールフェチだったんですか?」
「お、翠もログアウトしてたのか」
階段を下りてきた翠を振り返る。
呆れた視線が俺とポイを行き来し、もっと冷たい視線へと変わった。
「お人形遊び、というには行き過ぎていると思いますが」
なにやら盛大な勘違いをされているようだ。
客観的にみるとぬいぐるみをデコレーションしているようだしなあ。俺にその趣味はないけれど。
「人形遊びじゃなくてな、ゲーム内にこんなのがいたんだよ」
「そーですか。ではそーいうことにしておきます」
投げ遣りな様子で俺から視線を外すとバスルームへ消えていった。ありゃー何を言っても聞き入れないつもりだな……。
俺は居間で簡単なストレッチを済ますと、壁にあるホワイトボードの午後欄(もう3時だが)に「散歩」と書き込む。
プチ姉は休暇とあるので、たぶん部屋で寝てるだろう。母親と牙兄貴は数日前から変わらず仕事となってるが、ここに休暇と書いてあることなど1年に1回くらいしかない気がする。
コイとポイに「留守番頼むな~」と声を掛けて家を出た。
外に出ると向い側にある家から出てきた貴広と目があった。
「よう」
「なんだ、貴広も気分転換か?」
「ボディーガードのようなもんかねー」
「んん?」
疲れた顔の貴広の背後からピョコンと小さい頭が飛び出した。俺を見つけるとニカッと笑って、敬礼をするようにしてから口を開く。
「こんちわっす、大気にーちゃん!」
「純義か。久しぶりだなあ」
純義は貴広の2つ下の弟で俺と翠の幼馴染2号である。
時々俺のジョギングに着いてきたりする元気な運動少年だ。
「「久しぶりだなあ」じゃないすっよ大気にーちゃん! 最近は全然ジョギングの時間が合わないじゃないっすか! 聞けばタカ兄ちゃんたちとおんなじゲームで遊んでるって言うし! 俺も一緒に遊びたかったっす!」
一気にまくし立てた純義の顔はげっ歯類の頬袋のように膨らんでいた。
俺は彼の頭をグリグリと撫でながら謝っておく。
「悪い悪い。最近のジョギングは飯食ったあとの夜だからな。純義には危ないだろ? コイとかが一緒なんでお前には厳しいしな」
純義はガードモジュールアレルギーらしく、コイやポイが近くにいるとくしゃみ等が止まらなくなるようだ。どうやら人工毛がダメらしい。
蛇型やトカゲ型なら毛もないから平気だろうと連れてきてみれば、今度は悲鳴をあげて逃げ出す始末。まあ、その時にレンタルでチョイスしたのが人が乗れる大型だったからな。
それ以来純義は爬虫類が嫌いになったのである。正直すまんかった。
それから貴広たちと歩きだす。
ビルを出て向かう先は近くにある浜だ。徒歩20分といったところだろうか。
「貴広はいまどこだ?」
「ダンジョンだな。お前が掘った奴」
「言うな。ヘーロンの先は行かねえの?」
「あー、なんか閉鎖されてるぽくてよ。北行っても西へ行ってもある場所から先には行けないんだわ」
「住民と仲良くして情報聞いたらどうよ。俺がいま居る所、隠れ里みたいなとこだぜ」
「え!? マジで!」
「マジマジ。冒険者が蛮族みたいな言われようで、嫌われてるぽい。βの時になんか無体を働いたかのよう」
「なんでお前はそんなとこに入れたんだよ」
「だって俺、ビギナーだよ。冒険者のカテゴリーに入ってないからじゃねえの」
「ナニソレ汚ねえ!」
道中話すのは主にあるブイのことばかり。
純義には退屈かと思ったのだが、目を爛々と輝かせて話を聞いていた。
「?」
「βの参加者には1人だけ招待枠ってのがあんだよ。それに純義をぶっこんでみた」
「へー」
俺が不思議そうにしているのに気付いたのか、貴広が苦笑いしつつ教えてくれた。なら俺にも招待枠はあるのかね。β権はあったが行ってなくても可能なのだろうか?
それはともかく、早ければ今夜から純義とも遊べるのかと思いきや、そう簡単にはいかないらしい。
「来週に第2陣が参入する予定と公式にあった。純義が参加できるのはその時だな」
「ほうほう」
「なんで大気にーちゃんが解説される側なんすか?」
「公式なんか欠片も見とらんわ!」
「威張って言うこっちゃねーだろーよ!」
うん、事実なのでごめん。素直に悪かったと頭を下げておく。
前から公式は見ようと思ってたんだが、すぐ別のことをやっていたりするんだ。
「ゲーム始めたら大気にーちゃんも色々教えてくれっす!」
「うーん。俺はレベルで言うと他のプレイヤーより弱いからどうかなあ?」
浜に着いてから石を拾っては水面に投げる。
さざ波がたっているが、それを突き抜けて水切りは水面を向こうの方まで飛んで行く。
純義は俺たちの真似をしながらお願いをしてくる。俺の返答に貴広は呆れ顔だ。
「純義。あんなこと言ってるが大気は有名人だから気を付けろ。迂闊に行動を共にすると人外魔境へ連れていかれるぞ」
「えっ!?」
「人外魔境とは失礼な。猿とか蜂とか蛇とかを相手にしてるくらいだぞ」
蛇と聞いた純義が顔を強張らせて貴広の背後に隠れた。
「へ、蛇がでるっすかっ!?」
「ああ大丈夫だ。夜の森の中にしか出ないからな、大丈夫だって」
おっといけない。貴広から非難の視線が飛んできた。手を顔の前に立てて詫びておく。
しかしアイツにあるブイをやらせて大丈夫なのだろうか? PT組んで狩り場行って出てきた敵が蛇だから逃げた、なんてことになったら大変じゃないかな。
ソロの俺が言うこっちゃないけれど。
「おい大気。お前なんかトバシ過ぎじゃねえ?」
「いや、こんなもんじゃないか」
第3者的には何だかよくわからない会話だろうが、水切りのことである。
波はさざ波程度なので、波打ち際を越えればうねるだけの水面だ。
俺の投げた石はさざ波の上を飛び越え、うねる水面を跳ねながら視界が通らなくなるまで遠くに消えていく。あれー、俺がおかしいのか?
「あっという間に見えなくなったっす」
「強肩ってもんじゃねーだろうよ」
3人で水面をあーだこーだ言いながら眺めていると、後ろから「いたーっ!」という叫び声が聞こえた。
「あ、みーちゃんっす」
「あー?」
目敏く見付けた純義が指差す先には、砂浜に続く階段を駆け降りてくる翠の姿があった。みーちゃんと言うのは小さい頃から純義だけが使う呼称だ。
「もー兄さん! いつの間にか居なくなるなんて酷いです!」
「ちゃんと予定表に散歩と書いていったんだが」
「行き先くらい書いていってください!」
「だから散歩なんだろーが。行き先が知りたかったら連絡しろよ」
携帯端末を見たが着信もメールも来ていない。
俺の端末を見た翠が顔を真っ赤に染める。すっかり忘れていたようだ。
チラリと翠の後ろを見ると5mくらい間を開けてコイがいた。あれで街中の監視カメラにアクセスしながら俺を追って来たんだろう。
こっちには純義がいるので、それより近寄って来ない。以前にした命令はまだ有効なようだ。
その後は買い物をして帰るという翠に付き合って、皆で商店街を回って帰ることに。途中忘れないうちに2人には言っておこう。
「貴広、翠。ユニークスキルのことなんだが」
「あ、良いのか。おばさんに口止めされてんじゃねえの?」
「もう1回使ったしな。それにゲーム内だとどうやらスキル名は言っても他のプレイヤーに認識されないようだし」
ユニークスキルまでは言えるんだが、その先が喋っても聞き取れないようなのだ。
リアルで伝えるしかないじゃん。
「スキル名は【城落とし】文字通り城が落ちてくる魔法?」
「なんで首傾げてるんです?」
「1回行使につき、MPをほぼ全部使うからなあ。広範囲落下物押し潰し魔法だ」
「この前の始まりの街地震事件か? あれで住宅街壊滅したんじゃねえの」
「しないように調整した」
「広範囲って、あれで広範囲じゃないんですか?」
現場にいた翠が困惑顔だ。直径10mが最小範囲なんだよ、残念ながら。
「いまんとこ最大は23万平方m。サイズにして480m×480m。朱鷺城駅が一瞬で壊滅するくらいだ」
「「え"!?」」
分かりやすい大きさ比較の対象を、近くの巨大駅に指定すると2人の表情が固まった。
うんうん、それだけの殺傷力があると分かるだろう。
何に使えというんだ本当に。
仕事のストレスを執筆意欲に変えているせいで土日は執筆進みませぬ。
ストックが間に合わないなあ。
PV90万にブクマ4000突破、総合評価1万越え!
楽しんでで頂ければ幸いです。お読み頂きありがとうございます!




