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04 初プレイの話


 ステータスについての愚痴をこぼす相手もいないので、さっさとログインする。


 降り立った場所は小さな棚と粗末なベッドのある木造の部屋だった。

 チュートリアルによると、初心者が3泊までなら無料で泊まれる宿屋である。


 ━━称号【後先考えぬ者】を手に入れました。


 ってなんだ今の脳内アナウンスは!?

 再度ステータスを開いて確認してみると【後先考えぬ者】という称号が生えていた。


 効果は防御力20%アップ。3が3.6になったところで……、あ、切り上げられて4になってんな。

 最近の称号は効果も付随してんのか。すげー。


 ユニークスキルとったからだろうな、これ。


 気を取り直して持ち物確認。

 武器防具以外だとポーションが5本。今居る街、イビスの地図。所持金が2万(ごーるど)


 地図は真っ黒なんだが、歩いて全部埋めろってことなのかね。人っ子1人居ない宿屋を出ると中世の街並みが広がっていた。


 子供たちが数人で笑いながら駆けて行ったり、奥様方が道端で歓談していたりと、この辺りは住宅街のようだ。


 街の中心部が何処か分からんので、駆けて行った子供たちの後を追ってみたところ、入り組んだ路地の中で見失った。


 うん。街の地図もぐねぐねと歩いた形でしか表示されないし、先導に子供たちを選んだのは間違えたかもしれん。きっと子供なりの秘密基地でもあるんだろう、何処かに。


 迷ったら右手側の法則だ。一応最後の手段に屋根に登るとかあるしな。


 再びぐねぐねと入り組んだ中を右側の壁を頼りに進んでいくと、ぽっかりと空いた行き止まりに出た。


 周囲にはぼろぼろの板や古びた角材が散乱し、地面には家が建っていた土台跡が残っている。

 端の方には組んだ石垣がやや崩れた井戸がぽつーんと存在していた。


 好奇心で近寄って覗いてみると、井戸の縁に縄ばしごが掛かっていた。

 さっきの子供たちの秘密基地ってこれなのかな?


 子供の秘密基地に許可なく踏み込むような無粋な真似はしない方がいいだろう。(きびす)を返して来た道を戻ろうとした時である。穴の底から小さな泣き声が聞こえてきた。


 気になったので井戸の中へ「おーい! 何かあったのかー?」と声を掛けてみた。

 一瞬底のざわめきが消え、しばらく経つと男の子が縄ばしごを登ってきた。


「今言ったの兄ちゃんか?」

「うむ。君たちの事情は分からんが、泣き声が聞こえてきたので気になってな。もちろん君たちの内輪に余所者が混じるのが嫌ならここで去るさ」


 男の子の視線は俺の顔と井戸とを往復していたが、やがて頷いて俺に手招きをした。


「いいぜ。兄ちゃん口が固そうだし」

「おや、いいのか。ではお邪魔しよう」


 井戸の底は意外にも大人5人が余裕で入れるほど、広くなっていた。水路が続いてると思ったんだが、この子たちが広げたのかもしれないな。


 底に居たのは俺を招いた子の他に、男の子が1人と女の子が2人。

 片方の女の子が泣いていて、もう片方の子がボロ布に包んだ何かを奥に隠そうとしていた。


「そ、その人は?」

「オレが呼んだ! この兄ちゃんに頼もうぜ!」


 話が全く読めないんだが。


 子供たちは俺より離れた所で輪になると、話し合いをし始めた。部屋が小さいから丸聞こえなんだけどな。


 要約すると、まだ底に水路が残っている時に大人しい魔物を見付けた。それを子供たちだけで飼うことに決めて水路を塞ぎ、餌を与えてきた。


 しかし、大きくなるに連れて井戸を脱走するようになったらしい。

 衛兵に見付かりでもしたら退治されてしまうので、街から逃がそうと思った。


 だが子供たちだけでは街の外に出られないので、ほとほと困り果てていたとのことだ。



「あーすまん。ちょっといいか?」


 女の子の方が俺を警戒しているようなので、両手を上げて敵意のないことをアピールする。


「その魔物を俺にも見せてくれないか?」

「た、たいじするの?」


「いやいや、これでも可愛いものには目がないんだ。可愛いもの好きに悪い奴はいないと、胸を張って言えるさ」


 無駄に大真面目な顔をして言ったところ、全員が吹き出して笑われてしまった。少しは緊張が(ほぐ)れたようでなによりだ。


 信用してくれたらしく、ボロ布に包まれた中身を見せてくれる。

 そこには円らな瞳を持った赤いグミが鎮座していた。


 大きさはサッカーボールくらいか。断りを入れて手を触れてみたところ、ひんやりとしてぷよんぷよんと柔らかい。


「こ、これはまさか、人をダメにするソフ「違うよスライムだよ!」


 ……。

 オウ、ジーザス。

 渾身のボケをスルーして突っ込まれたザマス……。かなりショック。


 触ったついでに表示された選択肢に驚いたものもあるけどな。


 ━━レッドスライムをテイム出来ます。 YES/NO


 いやもうその手のスキルが無いから、これがレッドスライムだという名前だけしか分からんのだがね。どれだけ強いのかも知らないし。


「よし、君たちに新たな選択肢を俺が提供しよう!」

「「え?」」


 子供たちの手を離れ、俺の周囲をぽよんぽよんとまとわりついていたスライムを抱き上げる。


「とりあえずこの子は俺が預かろう。そうすれば時々君たちに逢わせてあげることが出来ると思うぞ」


 子供たちは顔を見合わせて、俺の顔とスライムに視線を向けた後に「よろしくお願いします!」と揃って頭を下げた。うむ、素直な子たちは好感が持てるな。


 それを見届けたあとにテイム画面のYESを選択する。


 ━━称号【スライムの友】を手に入れました。

 

 同時にオプション設定の画面が開く。

 設定するのはワールドアナウンスにキャラクター名を出すか出さないかだった。なんかものすげえ嫌な予感がするな……。


 別に有名に成りたい訳でもないので、NOを選択する。世捨人が有名になってもしょーがねえしな。と、思った瞬間、脳内アナウンスが立て続けに聞こえてきた。


 ━━プレイヤーの皆様にお知らせします。

  ビギナーが初めて魔物を従魔に加えました。これよりテイムシステムを開示します。

  プレイヤーの方は公式HP(ホームページ)内の特設サイトにて各自確認をお願いします。


 ほらー!

 大事になってんじゃねーか! どーすんだよこれー!


 あと手元のウインドウには『レッドスライムの名前を付けて下さい』と表示されている。

 名前ぇー、名前かあ。名付けって苦手なんだよなあ。


 子供たちと視線を合わせるようにしゃがみ込み、最初に会った男の子の肩に手をやる。


「俺はナナシって言うんだ。君は?」

「アランだぜ。よろしくなナナシ兄ちゃん!」


「そうか。アラン、この子を君たちはなんて呼んでいた?」


 そう聞くと子供たちは顔を見合わせて、恥ずかしそうに俯いた。


「わ、笑わない?」

「ええと……。名前次第としか。とりあえず聞かせてくれ」


 男の子側が気まずそうに、女の子側が恥ずかしそうなんだが。見た目と違って主導権は女の子の方なのか?


「あ……」

「あ?」


「あれきさんだー」

「アレキサンダー?」


 ずいぶんとこう剛殻な名前が付いてたんだなあ。

 また子供たちと会わせたときに名前が違うと悲しむかもしれないので、そのままアレキサンダーと入力する。


「よし。これからよろしくな、アレキサンダー」


 アレキサンダーはぽよんぽよんと跳ねながら、俺の足にすり寄ってくる。こいつなりに挨拶をしてるのかもしれん。


 名前を付けた時にウインドウが開き、テイムした従魔は冒険者ギルドで登録しなければならないと忠告が書いてあった。

 まあ首輪もない土佐犬が歩いていたとしたら、住民も気が気じゃないだろうしな。




 家の手伝いがあるという子供たちと手を振って別れる。

 また機会があったらアレキサンダーを連れて来ねばならんな。責任重大だ。


 称号【スライムの友】はスライムに、懐かれやすくなる?

 もしかしてスライムに出会ったら、増えていくんじゃないだろうな……?



 一応上書きされたステータスはログアウトした時に表示する予定です。

 

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