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38 隠された村の話


 左右を木々に囲まれていた街道とはうって変わって、山裾のだだっ広い草原という光景がパアッと広がっていた。


 周辺のほとんどが牧草地のようで、柵もない草原のあちこちに牛や羊が点々と佇んでいる。

 牛は白黒や黒いの他、赤い牛もいる。

 羊は白や黒、なかにはピンク色のも。ああいう毛は需要あるのかねえ。


 ガルスはその草原の中に密集して建てられている村のようだ。

 こういってはなんだが、村の方が牧場のついでのような印象である。


 ぼへーっと緑溢れる光景を眺めていると「オヤ、オ主ハ……」と背後から声を掛けられた。

 こっちの村に知り合いは居なかったと思うけど? 

 振り返ったそこにはアラクネさんの巨体が鎮座していた。


「ええーっ!?」


 待て、ここ人里だよな?

 なんでアラクネさんが堂々と闊歩(かっぽ)してんの!?


 もう1度牧場の風景をよく観察してみると、牛や羊に混じってアラクネさんと思われる個体が幾つか確認できた。


「ここはもしかしてアラクネさんの村!?」

「イヤ違ウ」


 おもいきったことを口にしてみるも、あっさりご本人から否定される。

 じゃあ何なんだと疑問が顔に出ていたらしく、アラクネさんが自分たちと共生している村だと教えてくれた。


 ガルスの村は人とアラクネさんたちが持ちつ持たれつで共存している所なんだそうな。


「オ前ハ違ウヨウダガ、異方人トイウノハ、モンスタート聞ケバスグ『退治スルモノ』ダト決メ付ケル者ガ多イトイウカラナ。コノ村ハ隠サレテイルノダ」

「ああ、それでどこからもここの話を聞かなかったのかー」


 というかプレイヤー諸君が、善良な魔物の人に野蛮人(バーバリアン)扱いされてるんだが、以前に何かあったのかねえ?


 βの時に友好なモンスターをバッサバッサと斬り殺しちゃったとか。

 話し合いを求めてきた魔物を蹂躙(じゅうりん)しちゃったとか。……ありそう。


 この村の事は他のプレイヤーに言わないでおくか。

 人に聞いたから出現したのか、【ネッツアーの加護】の効果もあるのかが分からんしな。アラクネさんと邂逅した過去があるからかもしれないし。


 そういやー、シラヒメとかは静かだなあ。


 足元のうり坊を見ると、アラクネさんを警戒するように俺の影になる場所に隠れている。

 アレキサンダーとシラヒメはそんなうり坊の盾になるように、並んでアラクネさんを睨んでいた。


 アレ? シラヒメは同族とか違うん?

 2匹の緊張は俺が「警戒しなくていいぞー。平気だぞー」と諭すまで続いた。



 その後はアラクネさんにこの村の村長だという40代くらいのオジサンを紹介してもらえた。

 俺がかくかくしかじかと、うり坊を連れている経緯(クエストのことを除く)を説明する。


「なるほど、今どき珍しい方ですな。行きずりの獣の子を心配するようなことなどは」

「かわいー」


 微笑んで頷く村長さんと、うり坊の1匹を抱きしめる幼い息子さん。


「この子も気に入ったようですし、この獣の子たちはうちの村で預かりましょう」

「ほんとですか。ありがとうございます!」


 村長さんは快く引き受けてくれたようなので、キチンと頭を下げておくのだ。

 例えゲームと言えど、この辺をちゃんとやっておかないと母親がうるさいからな。モニターしていると言っていたし。


 足元で俺と同じようにアレキサンダーたちも頭(?)を下げていた。頷いてるようにしかみえんが。


「あと、もう遅いようなのでどうなさいますか?」

「遅い?」


 村長さんに言われて空を見上げるとオレンジから藍色になろうとしていた。

 ええと、朝から狩りをしていて、うり坊に出会ったのが昼くらいだったから……。移動に費やしていたら陽も暮れるわな。


「牧草地の端っこを貸していただければ、夜営でもしますよ」


 野宿の予行演習にでもなるかなと答える。

 そしたら村長さんが「使っていない納屋(なや)があるので、夜露を(しの)ぐのにどうですか?」と提案してくれた。


 どうやらこの村は宿屋などがない模様。

 屋根がある所を貸して貰えただけめっけもんだろ。


 牧草地に気を付けて頂ければ火を使っても構わないと言われたので、借りた納屋の前で魔道コンロを使って料理をする。


 といってもリンルフの肉とフォレストスネークの肉くらいしかないが。

 香辛料と調味料を四苦八苦して混ぜ合わせ、タレのようなペーストを作り上げてもみたが、舐めたら変な味がしたので使うのをあきらめた。


 インベントリに格納しといた木より枝を払って、何本かの串を削り出す。

 小刀だけでやると凄い大変だ。


 蛇肉に串を刺して塩コショウを振ってじっくりと焼く。そうしてできあがったのが「蛇肉の塩焼き」である。

 食ってみたところローストチキンのパリパリになった皮のような食感がした。リアルの蛇肉のように、硬くて噛み千切るのに苦労はしないようだ。あれは調理の仕方で小骨も多いしな。

 

 アレキサンダーとシラヒメには昼にも与えたリンルフの肉焼きだ。シラヒメは生でも問題ないようだが、アレキサンダーに焼いた方をあげていると同じものを選んでいた。

 また調味料とか買い足ししておかないとなあ。


 その日は1番最初に買ったマントにくるまって就寝した。

 うーむ、藁草の匂いというのも新鮮だなあ。


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