36 うり坊大進撃の話
薬草と毒草を摘みながらのリンルフ戦だ。とりゃー!
以前と違い【カウンター】の【観察】+【急所攻撃】のコンボで飛び掛かってくる端から沈んでいく。討ち漏らした奴はアレキサンダーとシラヒメのコンビが潰していく。
料理するのが確定しているようで、リンルフの肉は纏まった数になったらアレキサンダーから渡される。
最初シラヒメが自分で得た肉を、糸でグルグル巻きにして背負っていたんだ。けど、アレキサンダーに突つかれて俺におずおずと渡してきたのが笑った。
薬草の数がインベントリの1枠を越えたころ、肉の数も焼ききれないほどになったので1度森を抜けようと思う。
「アレキサンダー、シラヒメ。街壁まで戻って焼き肉でもするか?」
ぽよよんと嬉しそうに跳ねるアレキサンダーと「チー!」と鳴くシラヒメ。
これで最後にしようかと現れたリンルフに向き直ると、奴らは突然毛を逆立てて脱兎の如く走り去った。
「あれ?」
これはあれか。話に聞く森林名物突撃猪か?
間髪入れず森の奥から近付いてくる地響きと何かの唸り声。
【気配察知】で感じるのと視認するのがほぼ同時で、慌てて進行方向から飛び退いた。
弾丸のように突っ込んで来たバイク大の丸太と表現すればいいだろうか。俺らの背後にあった木に激突して、負けた木の方がメリメリと倒れていく。
「ええと、どうやろう?」
とりあえず助走をつける前なら突進は怖くない。
こちらに振り向こうとしている横っ腹へ強打トンファーを叩き込む。
「ピギィッ!?」と悲鳴をあげてたたらを踏む猪。ノジシと言うらしい。
頭をむちゃくちゃに振り回して俺を近付かせないようにしている。だがこちらは俺1人だけではない。
アレキサンダーが俺と一緒にノジシの注意を引き、ノーマークになったシラヒメが奴の後ろ足を糸でグルグル巻きにしてしまう。
前に出た俺がトンファーで奴の鼻先と牙をいなしている間に、今度はアレキサンダーが奴の左前足にカジリついた。
アレキサンダーは普段大人しいが、スライムである。
その体内は丸ごと溶解液なので、溶かされながら喰われる痛みを永続的に与えられる。
ノジシは痛みで暴れだし、後ろ足が縛られているのでバランスを保てずにひっくり返った。
あとはただの良い的である。俺の滅多打ちとシラヒメの噛み付き、左前足は丸ごとアレキサンダーのお腹の中へ。
憐れノジシはボタン肉と猪の毛皮へと姿を変えた。
ボタン鍋にしたいところだけれど、この世界って味噌はあるのかな?
面倒な敵の相手も終わったし移動するかと思ったところで、こんどは「ぷー」という鳴き声が茂みの奥より聞こえた。
「おいおい、今度はなんだよ?」
と呟く俺たちの前にぞろぞろと姿を現したのは、うり坊が5匹である。
1匹がラグビーボールくらいはありそうな大きさだ。うり坊の標準がどれくらいだかは知らないけれど。
うり坊たちは5匹とも無警戒に俺に近付くと、足元へ身体をこすりつけ始めた。
「ええ……」
俺はお前たちの親を倒したと思うんだが、この反応はなんぞや?
テイム用のコマンドが表示されないようなので、ペット扱いになる訳ではないようだ。
どうしようかと思案していたら、唐突に目の前にウインドウが開いた。
『クエスト:突然だがうり坊たちのために暮らせる場所を探してあげよう! 森の奥に連れていくのも良し! このまま見捨てるのも良し! どうするかはキミの采配次第!』
「…………ナンダコレ……」
「Y/N」選択が無いところをみると、強制仕様ではないようだ。
なつかれた姿を見せられては断ることも難しい。
「あーもー、仕方がねえなあ……」
手を振ってウインドウを消すと、うり坊たちをまとわり付かせたまま歩き出した。
おっといけない忘れ物。
先程ノジシの倒した木をインベントリの中にしまいこむ。時間があるときに【大工】スキルでなんかつくってみよう。
アレキサンダーは自分の上にシラヒメを乗せ、俺とうり坊の後ろを着いてくる。
列を外れそうになるうり坊にはシラヒメが「ヂー!」と鳴いて警告している。牧羊犬みたいなことやってんなー。
2匹共何も言って無いのに俺の意を汲んでくれてありがたいよ。
平原へ出ればうり坊を連れ歩く俺の姿は目立つこと目立つこと。
少なくないプレイヤーのあちこちから悲鳴や羨ましげな叫び声が聞こえてくる。
以前焼き肉パーティをやった壁のそばに座り込み、まずはステータスのチェック。
【格闘】と【カウンター】【急所攻撃】が少し上昇。【観察】と【気配察知】が10を越えていたのでSP+2。これでSP5なので、そろそろ次に何を取るか考えておくかなくてはなー。
アレキサンダーはいつもの通り不明。
シラヒメが2レベルアップして7。このまま順当にいくと、俺が抜かされるんではなかろうか?
うり坊の胴体にアラクネさんから貰った糸を巻き、犬用のハーネスみたいにしておく。
シラヒメにちょいちょいと指示を出し、彼女の糸をリードみたいに繋げて貰った。
逃げないとは思うが、調理している時にバラバラになるのは避けたいからな。
猪って雑食性だったよな?
以前に採ったキノコや山菜でもあげておけば大丈夫かな?
皿にインベントリから出した山菜を盛っていると、平原にいたプレイヤーが1人近寄って来た。
「すみませーん」
「はい?」
魔術士と思われる女性である。
その後ろには同じPTの面々が固唾を呑んでこっちを窺っている。なんだいアレ?
「そのうり坊ってビギナーさんのペットなんですか?」
あー、それが気になってたのか。なるほどなるほど。
他にもこっちの様子を気にしているのもペットか否か、が気になってんだろうな。
「こいつらは今さっき森ん中でクエストを貰って、それで一緒に行動してるところです」
「森の中でクエストッ!?」
おーおー、驚いてる驚いてる。
こっちの様子を窺っていたプレイヤーが一斉に森の方を向いたなー。
「分かりました。すみません、ありがとうございます!」
「いえいえ」
お礼を言った女性プレイヤーは仲間の元へ戻ると、PTごと急いで森の方へと向かった。
他にもこちらを気にしていたプレイヤーが続々とそれに続く。
どういう条件でこのクエスト出たのか聞かれてないけど、そういったマナーなのかねえ?
俺は待ちくたびれているアレキサンダーたちの催促に従い、料理セットをインベントリから取り出した。
一日の閲覧数が連載開始と比べて50倍に。
本当に何があったんでしょうか?




