30 穴を見つけちゃった話
【鉱物知識】のスキルを手に入れたので、実地研修をしようと思う。鉱山とか何処にあるのか分からないので、知ってそうな人に聞くべき。
ナナシ『おーい貴広ー』
ハイロー『おう実名ヤメロ馬鹿野郎!』
ナナシ『鉱山って何処かにないー?』
ハイロー『スルー!?』
ナナシ『それか鉱石が掘れる場所の心当たり知らねー?』
ハイロー『ヘーロンでは聞いたことないな。イビスは北に断崖絶壁があるんだから掘ってみたらどうだ?』
ナナシ『断崖絶壁は掘ってもいいのかい。鉄玉なら白サルが投げてきたんだが』
ハイロー『えらいもんとやりあってるな、お前』
ナナシ『んじゃありがとう、やってみるわー』
ハイロー『手が足りなそうだったら言えよー』
貴広とのチャットで解ったが、ヘーロンに鉱山は見当たらないようだ。断崖絶壁を掘ったら化石が出る絵面しか思い浮かばないのだが。
プレイヤーが何人いるんだか知らないけど、1人くらいはロッククライミングに挑戦したって奴はいないのかね?
北門はまだ陽があるうちに出入りしておこう。ちょっと削ってみるだけな。
ピッケルとハンマーと石ノミとクサビは住民に聞いてみたところ、道具屋じゃなくて鍛冶屋に売っていた。
聞き及んでいた通り北門を出たら50m先は断崖絶壁だった。
ここから何者かの襲撃とかあったらどーすんだろうな。
しかし【鉱物知識】による影響か、石ノミなりピッケルなりを入れる“目”が解るようになっている。これは便利だ。ただこの壁面って目が半円状の輪になってるんだが、なんだこりゃ?
「まあ、打ち込んでみりゃ分かるか」
クサビとハンマーでもって第1打をどっせーいっと!
「げっ!?」
端っこにちょっと打ち込んだだけなのに、壁面全体に亀裂が入ってガラガラと崩れ落ちる。
土砂崩れでも起きたのかと慌てて壁面から離れた。
もうもうとした砂煙が治まると壁面にはぽっかりと穴が開いていた。
人が3人ほど余裕で通れるくらいの幅がある。
近寄って覗き込んでみるが、中は真っ暗。
意を決して中に踏み込んでみたら、薄暗くちょっとした広場になっていた。奥には通路が伸びているようだ。あとここから別マップになっているn……、
━━プレイヤーの皆様にお知らせします。ダンジョンを発見し、中に踏み込んだプレイヤーが現れました。
これよりダンジョンの情報を開示します。詳細は公式ホームページにある、ダンジョン専用の特設ページにてご確認下さい。
「ってまたかーーっ!」
脱兎の如く逃げる!
北門を通り抜け! 街中を疾走し! 噴水広場まで来たところで急ブレーキ!
こ、これで穴を開けた時の目撃者は門番さんたちのみ! 俺がやったなんて誰も知るm……、
━━称号【ネッツアーの加護】を手に入れました。
「ぐふぅっ……」
ベンチに崩れ落ちても誰も変に思わないよね?
ええと何々?
永遠の自由と旅を愛するネッツアー神の加護。困難を切り開く剣の導き。隠された道やエリアやアイテムを発見しやすくなりますぅ?
解体スキルの上位版か!
このままレアアイテムばっかり持ってられないぞ。
インベントリにも限界があるし、何か外部に保存できる手段を探さないと。
頭を抱えていたら貴広からチャットが来た。
ハイロー『おーいナナシさんやー』
ナナシ『なんじゃい! こちとら今てんてこ舞いなんだけど!』
ハイロー『さっきの断崖絶壁どうなった?』
ナナシ『穴が開いた』
ハイロー『おー、なんか掘れた?』
ナナシ『ダンジョンの入り口があいた』
ハイロー『……』
ナナシ『……』
ハイロー『今のワールドアナウンスてめえかあああああっっ!!』
ナナシ『狙ってやった訳じゃねええええっ!』
脳内漫才をやっていたら今度は翠からのチャットが接続。
貴広との2方向だけじゃなく3人チャットも可能なのか。すごいな。
アルヘナ『何を2人でぎゃあぎゃあ騒いでるんです?』
ナナシ『何の用だよ』
アルヘナ『ええ、ヘーロンにダンジョンは無いようですので、場所を知らないかなーと』
ハイロー『北の断崖絶壁を掘った奴がダンジョンの入り口をぶち抜いたんだそうだぞ』
アルヘナ『なんでつい今さっきのことを貴広さんが知っているんです?』
ハイロー『だからお前ら兄妹は実名を出すなと何度言ったら分かるんだ!』
ナナシ『あ、夜の狩りがあるんで切るわ! 通信終わり!』
アルヘナ『あ! ちょっ!?』
貴広が核心を言う前にチャットを強引にぶったぎる。メールとチャットの受信を2人分だけ拒否にする。これで後はリアルで起きたら即逃亡するしかねえ。
「よう、開祖殿。ちょっと聞きたいことがあるんだけれども」
ふう、と安堵したところで肩を叩かれた。
びくーん! と飛び上がって声を掛けられた方に向かって構えをとる。
そこにはポカーンとした顔のアサギリが立っていた。
「なんだー、アサギリかあ。驚かさないでくれ……」
肩を落としてベンチに力なく座ると、心配そうな表情のアサギリは俺の隣に腰を下ろす。
「なんだなんだ、元気がねえなあ開祖殿。俺で良ければ相談に乗るぜ」
「相談よりその「開祖殿」って呼び方はなんなの?」
「俺らサモナーを目指す者に道を示してくれた開祖殿じゃねえか。最初に接触したせいで俺が受け付け口みたいになったから、次から情報があったら教えてくれよ」
ああ、アサギリから接触して来たのはシラヒメに対して受け付け口に質問が殺到したのか。
彼の襟首からは、小さなアオダイショウみたいな蛇が顔を覗かせている。
頭の上からアレキサンダーを降ろせば、その上に乗ってるシラヒメも目に入る。彼女はアオダイショウに対して前脚を広げて「チー!」と威嚇していた。
シラヒメを紹介して、出会ったクエスト(?)を状況から遭遇した場面まで説明しておく。
「よくサルとか蜂とか1人で相手出来るなー。ソロで行かないとアラクネさんは出てこないのか?」
「ペット持ちでPT組んで試して、出てこなかったらソロで行ってみたらどうだ?」
「11レベル台PTで行っても難所だぞ。西の街道は」
「そうかな。俺が8レベルで無難な相手だったけどな。2vs1だから不安はないし」
何故か黙るアサギリ。
なんかおかしいこと言ったかな? と首を傾げていると、ギギギーっと立て付けの悪い扉みたいに首を巡らせたアサギリの顔色は青い。
「1人で行くと1匹しか出ないのか?」
「シラヒメ連れてても1匹しか出なかったけど。もしかしてPTだと増えるのか!」
なんか会話が噛み合わないと思ったらそういうことか。
西の街道は例え2人組PTで行っても、5~6匹のサルから青柿を投げ付けられるんだそうな。そりゃ柿に殺されればトラウマにもなるわな。
とりあえずアサギリにアラクネさんクエストの情報を掲示板にあげるのを頼んでから街を出る。
また門番と揉めるのはめんどくさいしな。
俺が出るのと入れ替わりに東門の外からプレイヤーが続々と戻ってくる。群衆のエキストラかと思うくらい多いなあ。
今度はオンドゥリどころか、おサルの人気が高まるのかぁ……。




