282 予定は未定な話
うははははは!
北へ向かって一直線だぜえ!
ツィーたちにはああ言ったが、彼女たちが想定していたのは往復での日程だろう。重ね重ね言うが「往路」と「復路」である。
他の人はどうだか知らないが、こちとら【空間魔法】の転移があるのだから、帰りは一瞬で済む。
復路の心配は皆無なんだ。往路だけを想定して進むだけなんだ。
例の使い魔の集いの会場はイビスだと言うから、転移からの移動時間は気にしなくていい。
あ、でも一度ギルドの扉から屋敷に戻って使い魔を連れて来る手間は要るなあ。
だいたい魔王様の街まで行くのであれば、ここからだと西北西に進むことになってしまう。斜めに森を横断など以っての外よ。
よって北に向かって一直線。これ以外の道はなし!
「いかん、何かテンションがおかしくなってるな。いったん落ち着こう」
バッタリ出逢ったリングベア3匹を権能で叩き斬ったところで我に返る。意識的には変わってないんだが、ハイになって進むのも問題だよな。
ぽよんぽよん
「コケッ」
「アレキサンダー、グリースも。初めから頑張らなくていいんだぞ」
薬草と痺れ草を集めてきた2人が俺の前に草の山を築く。
いい加減、材料だけのストックが膨大になってきたなあ。インベントリを圧迫し始めてるから、ポーションも纏めて作ってしまおうか。
たまには生産活動もやっておかないと、スキルの持ち腐れになるやもしれん。使い魔のボウ(牛のぬいぐるみ)にも手伝って貰おう。
いや、渡しておけば作ってくれるか? そこは改めて要検証だな。
「とりあえずダンジョンと違って何処から何が出てくるか分からんからな。全周警戒しつつ、臨機応変に対処していこう。前衛は俺とアグリでサポートはミミレレ。ヤトノは攻撃出来そうならどんどん手を出して行け」
コクコク
「ぴゃあ!」
「ぽー!」
とは言ったものの、ヤトノの攻撃方法って、種埋め込んで根っこ生やした下僕に殴らせる奴しか見たことないんだが。西部劇でコロコロ転がっている枯草のような感じか?
他はやらせてみるしかないなあ。
「左右はグリースとツイナに任せる。アレキサンダーは全体の補助。後方はシラヒメで上空をアスミで頼むわ」
「コケッ!」
「がう!」「メェ」
ぽよぽよ
「ワカりマシタ」
「ちー!」
まあ、あくまで担当ってことで。手が出せそうならやってしまえ、だ。
とか考えていたら真正面よりホーンラビットが目を三角にして突っ込んで来た。
ぴょーんと飛び上がって角を下に向けて落下して来たところで、横から頚椎を狙って蹴り砕く。攻撃方法が分かっていれば対処は楽だしな。こうも分かりやすい奴も珍しい。
次、と目を向けた先では数匹のホーンラビットが地面から突き出た根っこに雁字搦めにされていた。こりゃ、ヤトノの仕業かー。
そこにミミレレが作成した正方形の水が頭部を覆い、次々に溺死させて行く。酷い連携もあったものよ。
ドロップ品は角、毛皮、肉。相変わらずぶわっと広がる鹿角みたいな形状で、よくその辺に引っかからないで過ごせるもんだ。
こんな考察してる最中も横から忍び寄って来たリングベアを、ツイナが叩き伏せてから首を噛み切っていたり、丸まるとトゲ鉄球みたいになるアルマジロみたいなのをグリースが蹴り飛ばしていたりする。
いや、今のアルマジロは襲って来たんじゃなくて、出会い頭に俺たちと出逢って脅威を感じて丸まっただけなのでは? 何も蹴り飛ばさなくても。
「コケッケ!」
「ああ、転がって来たら危ないから遠ざけただけなのか。了解了解」
「おトウさま?」
「……あれ?」
何と、シラヒメを介さなくても会話が成立している。少しは慣れたってことなのだろう。円満なコミュニケーションは連携のキモだから、結構なことだね。次だ次。次へ行こう。
しかしホーンラビットはラビットと付くからに兎だろう。兎は草食動物じゃないのか?
それが率先して突撃してくるとか、殺意たけえ森だなおい。
体毛が緑のグリーンウルフが群れで襲って来たが、半数はヤトノに半数はシラヒメの網糸に拘束される。頭部をアグリが順番に粉砕して行くだけの簡単な作業である。
アグリは働き者だなあ。
ゴガアアアッと雄叫びを上げて突っ込んで来た6本足の虎と、権能で精製した腕を使ってガップリと組み合う。
噛み付いて来ようとした顎の中に四角い魔力体を放り込めば、虎は疑問符を頭上に浮かべながら顎を閉じられずに藻掻いている。
相手がバス大なもんだから、伸し掛かられているこっちはあっさり潰されてるようにも見えるんだろう。咄嗟に4本の権能の腕を背後に回し、ジャッキアップしたように体を浮かせたので、横から見て拮抗してるように見えないかな?
まあ、無防備になった虎の腹に手隙の両腕で渾身の一撃をぶち込めば、奴は目と口から血反吐を吐いて絶命した。
ううむ、真っ向から受けなくても、飛び掛かって来た瞬間に腹を狙えばよかったんじゃん。変な構図になる前に次はそうしよう。
まあ、誰が見て誰かが心配するようなものでもないんだがな。
対応を組み立てている間に、木々の間から忍び寄ってきたと思われる太長いものが、シラヒメの糸で首をすぱーんと切断された。
ドサリと落ちてきた首は真っ黒い蛇のものである。シャドウパイソンと呼ばれる大蛇の類らしい。
例によって名前しか分からんから、そろそろ図書館でモンスター図鑑を読破せねばならんなー。
しかし、少しのインターバルを置きながら散発的に襲われているが、蟹が見当たらない。
あの直立したタカアシガニみたいなの。
奴は前回に通り過ぎて行ったところからノンアクティブモンスターだと思われるんで、こちらから見付けない限り討伐するのは難しいか?
結局、その日は夕方になるまで待っても出て来なかった。明日に期待しよう。
今日はプレハブを出して野営だ。
プレハブと言えども家があって野営というのもおかしな話だが。
シラヒメとアスミが周辺の木々を切り倒して森の中に小さな広場を作る。
立っている木と切り倒した木を組み合わせ、簡単な壁を作るように指示しておく。シラヒメの糸で補強しておけばそれなりに強固な壁となるだろう。
ヤトノもこちらの意図を理解してくれたらしく、蔓などを絡ませて更なる壁の強化を施してくれる。
一応、前回ログアウトした時みたいに、ログインしてみたら家が別の場所へ吹き飛ばされていた、という状況を防ぐためだ。
後は別のプレイヤーが森に入って来た時に使えるようにだ。ただ入って来て生き残れるかはそいつら次第だがね。
ツィーに聞いた話によると、前回俺たちを追うように森に入ったプレイヤーたちは、猪や虎に蹂躙されたらしい。
しかし、普通のプレイヤーならば2次職と言う強者になっているはずなんだが、1次職の前のビギナーである俺に劣っているとは思えないなあ。
やはり、スキル数の差か?
お読み頂きありがとうございます。
昨年はやたらと感染症の波が襲い掛かって来て、思うように小説の執筆が出来ませんでした。待っていただいてる皆さまには申し訳ありません。
年末には肺炎とインフルの合併症で危うく天に召されるところだった。あぶない危ない。ようやく自分が年寄りだったと自覚したような感じです。若い気分でも体は付いてこないんですよ……。




