280 確認とバイトの話
リアル回です。
腕を拡げるとムササビの皮膜みたいに黒いヒラヒラとしたマント? 外套の裾的な物が現れる。
これが俺の意思1つで数本の腕代わりになったり、自在に伸び縮みする剣になったりする訳だ。
戦闘中であれば高揚した精神に沿って意のままに変化させたり、攻撃を掴んだり逸らしたりするのだが。平時だと隅っこまで思考を通すというか、掌握するというか、そこまで意識しないと形が維持出来ん。
ゲームであれば【並列思考】によって制御が可能なんだが、現実だと何処まで取り回せるのやら……。
そういえば時々思い出したようにゲームのスキルを使ったりしてるな。何処から何処までが使えて何が使えないのか把握しておく必要があるかもしれん。
しかし片っ端から作動させてみたとして、動かなかったら間抜けな気がする。
「何か思いついた? 模擬戦する?」
「いや、ちょっと待ってくれ」
俺が現在居る所が軍の訓練施設である。使うにしても理由付きの申請書が必要なので、「自己の戦闘力の確認」という名目で提出したら、問題なく通ってしまった。
のはいいんだが、直属の上司であるところの龍樹姉が「戦闘力の確認なら対戦相手が要るだろう」と言って、戦闘部隊の偶数ナンバーのサイバーノイドを寄越してきたのである。
確か予備機だった筈だ。近接戦闘軽量タイプN04とか対人用じゃなくね?
猫耳付きの軽装ユニットとは言え、一般車両を一撃でスクラップに変える膂力を持つからな。対戦相手としては難敵だ。
それにどうもサイバーノイドには権能の黒い外套は見えていないらしく、俺の行動を時折不思議そうに見つめたりしている。あっちの攻撃をすり抜けたりしないだろうな?
「んじゃ、確認も終えたことだしやるか。細かい調整はやりながらだな」
「何のことを言ってるのか分かりませんが、分かりました! それでは行きます!」
「お手柔らかに頼むぜ、ホントに」
「出力は60%以内でと言われていますので、それが大気さんの理解内に収まればの話ですね」
「龍樹姉っ! 容赦無さすぎだろ!」
結果的にはボロ負けになっ……、いや、模擬戦だから勝ち負けもない。しかし、容赦のあるようでないサイバーノイドはやっぱり難敵である。
近接戦闘用とはいえ身長は俺とそんなに差はない。
機械と生体部品のハイブリッドだから重量は倍以上に違う。腕の中にジャイロのような重力制御を持つため、瞬間的な接触にとんでもないパワーが掛けられる。相対すれば強化外骨格のアーマーでさえも凹むから始末に負えない。
それさえ避ければ硬いだけの人型機械なんだけど、行動の制御処理が速いから格闘戦の組み立てがとにかく上手い。モタモタしていると直ぐに追い詰められてしまう。
なのでやる事と言えば決して真正面に立たないこと、攻撃は受けるんじゃなくて逸らしたり避けたりすること。大振りな行動はなるべく封じ、小回りや小細工で手数を稼ぐくらいしか出来ん。
サイバーノイドの継戦能力の方が圧倒的に強いからなあ。こっちの体力が先に切れるって。
それでも休憩を挟みつつ何度か相対しているうちに、権能の使い方については慣れてきたように思う。
先ずは俺の意を汲んで形状はどうにでも変わること。最初は刀剣の形にして攻撃を逸らしたり、弾いたりしてたんだ。腕の振りに合わせ、鉄扇のように細い板を段々に重ねた物を広げて表面を滑らせることで防御する方向性に落ち着いた。
相手側は何にもない空中で、火花を散らしながら横に滑る拳に困惑していた。分からんでもない。
でも直ぐに俺の周りに視認出来ない壁があると仮定して、それごと叩き潰す方向で対処して来た。
押し込まれたらパワーに劣る俺では対抗出来るものではない。【無属性魔法】で空中に小さな四角形を生成することで突進に対処……、ってこれも使えるのか!? どーなってんだ一体。
「さっきから何を使っているのですか?」
「秘密。と言いたいところだか、俺にも何がなんだか」
「出所不明の能力の使用は欠点にもなりますよ」
「分かってるんだけどねえ」
そんなの俺が1番よく分かってないに決まってるだろ!
出所は判明してるが、使えている現状がとにかく不明だ。由来がゲームとか言おうものなら、精神科か何処かにぶち込まれそうな気がする。
何ならよく分からない内に身に覚えさせ、手段の1つとして十全に使えるようにしておけば何かあった時の備えになるだろう、と思っている。
「捉えました」
「……げ」
ちょっと思考に片寄ってたからか、気が付けば相手の拳が左胸に当てられていた。寸止めにしてくれたから良かったようなものの、本来であれば肋骨と肺と心臓を潰されてお終いである。やっぱりサイバーノイド相手だとこっちがパワーと体力に劣るわな。
「時間切れですね」
「時間、切れ?」
「隊長にはこのくらいの時間で切り上げろ、と命令を受けていましたので。貴方の相手はこれで終わりです」
「……はーっ。こっちのアレコレ全部お見通しか。さすがはウチの姉」
実のところ、体力もギリギリ限界だったから助かった。
これ以上はどうやって切り盛りしていこうかと本気で悩んでたからなあ。こっちのペース配分やら何やら見切られてたのは悔しい限りだ。
「では失礼します」
「っと、お相手ありがとうございました」
礼儀正しくお辞儀をして去っていく猫耳サイバーノイド。その背中に少し遅れて頭を下げる。疲れていたとはいえ、対面で礼が出来なかったのは怒られ案件だな。
あー、疲れた。立ち回りにも問題点がいっぱいだ。山籠りでもしたいところではある。
余談だが、後日任務での集まりで、隊の同僚の何人かがあの時の立ち会いを見ていたらしく「化け物だ」「人間じゃない」「先祖はゴリラだったんじゃねえの」などと揶揄された。
誰でも出入り出来る施設だったんだからしょうがないよな……。
「……ということで、君の役どころはこんなことでいいかな?」
「分かるには分かりましたが、立ち位置がイマイチ理解に苦しみます。ただちょっと聞きたいんですが?」
「何かな」
「着ぐるみで悪の組織の幹部やれって正気ですか!?」
「ええ、マジです。これはもうディレクターもプロデューサーも脚本家も演出家も監督も承知の上ですよ」
「ええー!?」
帰り道に寄ったのはバイト先のテレビ局の企画会議後の話し合いの場である。
何の因果が今回回ってきた役どころが前述の通りではあるんだが、参加するのは着ぐるみのレオンで、と言うことらしい。
あの柔和な笑顔を浮かべたゆるキャラ状態のまま特撮番組に組み込まれるとのこと。
あんなのがそのままの状態で悪の組織内に立っていたって、マスコットか何の冗談かって感じなんだが。その場面ではそれなりの装飾を施すと聞かされた。
着ぐるみだけで完結してるというのに、マントやらブレストプレートやらを羽織ったって違和感バリバリの異物になりそうだな。
「ところで、この番組のタイトルって……」
「ええ、そこに書かれている通り「無限勇者ババーン」と。放映開始まではまだ間がありますから、告知するまでは秘密ですね」
「……ガガーンの続編とかじゃないですよね?」
「はい。そこはもう違いますね」
その場にいる人たちはにっこにこである。
監督さんと演出家さんと、プロデューサー数人がもういい笑顔で迎えてくれて、演出家さんが事細かに説明してくれたんだけれども。なんでそんな上機嫌なんだ?
「撮影スケジュールは前回と同じく。その都度端末に送りますので、それに従って来ていただければ大丈夫ですよ」
「はあ、分かりました。では、今後とも宜しくお願い致します」
「ええ、いい番組に出来るよう頑張りましょう」
普通こういう対面面接って主人公役の人とするんじゃないのかな??
俺が考えて分かるものでもなし、そこはスタッフの人たちの対応に任せるしかないか。
しかし正義側が無限勇者って。悪の組織もあっという間にやられてしまうんじゃなかろーか。
お読み頂きありがとうございます。
番組タイトルはAIさんが考えてくれました。




