278 ちょっとだけ遭遇する話
タイトル思いつかない文
ダンジョンの外周路から出るとまだ陽は高かった。さて、どうするかな。
街中を探索するしか出来ることはないか。
それかルレイのレベル上げに、クランハウスに滞在するという方策がある。レンブンやオールオールが長期滞在するとは思えないからなあ。
ちょっとは食材や茶葉なども購入しておいた方がいいものか? ルレイが出してくる食事の材料などは、搬入してくれる業者がいるんだとは聞いたことがあるけど。
俺たちがいない時に限り、王妃様が訪ねてくる事があるらしいから、茶葉に関しては最高級の物を揃えているとかいないとか。
時々王子も訪ねて来たりするが。シェルバサルバも俺が居ない時に何しに来てるんだろうな。
高級品のお茶菓子もあった方がいいんだろうかね? 来客のグレード的に。
あ、でも前に椿さんが「高価な物が美味しいとは限らない」とか愚痴ってたことがあったなあ。それについては、ルレイに相談して選んだ方がいいかもしれん。
「がう」「メェ」
「ん、どうしたツイナ?」
ペットたちをゾロゾロと引き連れて歩く際は殿に付くことが多いツイナが、隣を固めてきた。シラヒメも俺の後ろにぴったり付き、アレキサンダーは警戒態勢を強めている。
何だ何だと首を傾げていたら、大通りから続く市場の入り口付近で人が大勢集まっているのが見えた。イベントか何かかと思ったが、殺気立っている者たちも居るようだ。揉め事かねえ?
半分くらいはプレイヤーぽいな。俺はその中の1人、クラン・嵐絶で顔を見た覚えのあるプレイヤーに声を掛けた。
「何の騒ぎだ?」
「あ! び、ビギナーさん!?」
「うおっ!?」
「ひえええっ!?」
「ひっ!?」
ソイツが俺の渾名を呼んだことで、集まっていたプレイヤーたちが次々と振り返った。数人は顔を青白くさせたり、大袈裟に驚いたり、震えて尻もちを付いたりしてる。
俺はお化けか何かか?
通りには複数のポーションの瓶やら鎧やら、盾や武器などが転がっている。事件現場みたいだが、こういう痕跡ならよく見たことがあるなあ。
「PKか?」
「あ、はい! 買い食いしてるところを後ろから襲われたらしくて、1人はその場に居合わせた者が対処して倒したんですけど」
「全部で3人居て、2人は姿を消しました。今付近を捜索しようとしたところです」
そんな堅苦しい言い方じゃなくていいから。何か官憲みたいな応答になってないか?
畏まられているような気がしないでもない。言葉使いが悪くても気にしねーってのに。
「ふーん。最前線の街中に出て来るとか、余程自信のある馬鹿か、何も考えてない利益重視のアホかの、どちらかだねえ」
「はい、俺たちもそう思います」
グルリとその場を見渡してみるが、それらしき者は見当たらない。
戦闘が起こった時にでも壊れてしまったのだと思われる屋台を直したり、散らばった物を片付けたりしている住民とプレイヤーがいるくらいだ。
PKなら【看破】してしまえば一発で分かるんだが、先ずは特定せんとなあ。
「アスミ、ミミレレ。見付けたら手段を問わないで捕縛しろ」
「ちー!」
「ぴゃあ!」
2人に先に頼んでおき、マントに隠して【死霊術】でスケルトンの腕だけを密かに召喚する。召喚して直ぐに権能で覆い隠し、黒い袖の左腕に見せ掛けてからPK探知機として作動させた。
「へえ、ふぅん」
見える。見えるぞ。PKの姿がくっきりとなあ!(看破前であるが)
俺は散乱している木片を片付けていた住民らしき者の中の1人に近付き、肩に手を置いた。
「え? あ、ど、どうしました、か?」
「惚けるのか?」
さーっと顔色が変わったそいつにすかさず【看破】を掛ける。頭からペリペリと皮が剥けるかのように偽装が剥がされ、正体が露わになった。
「チイッ! クッソ!?」
「逃がすか!」
俺が手を離すのと、盗賊風の格好をしたソイツが慌てて立ち上がろうとするのが同時だった。しかし、ずん! と上から降って来た立方体の水の方が遙かに早く、ソイツを水中に閉じ込めて拘束する。
「ぴゃあ!」
「ちー……」
ミミレレの方が早かったか。アスミは「ざんねーん」とでも言うように尾を上げてクルクル回している。ガラガラヘビみたいだな?
がばげべごぼぼぼと水中で苦しみながらジタバタと藻掻くPKは置いといて、俺はハンドサインで促したシラヒメと共に、直ぐ側にあった家の壁を駆け上がる。
もう1人は屋根の上から通りを覗き込んで居やがったからだ。
俺が駆け上がると同時に屋根の上のPKの姿がスーッと消えていく。何かのスキルを発生させたようだが、完全に姿が消える前にシラヒメの放った粘着糸の網がPKをそこに釘付けにする。保護色か何かで姿は消えたが、屋根に張り付いた粘着糸の網は中央がこんもりと盛り上がっていた。
「隠れられてないぞドアホウ!」
権能から飛び出した2本の腕を刃に変えて、膨らんだ部分へ横向きに走らせる。「ぎゃあっ!?」という苦痛の悲鳴と共に、肩口から3枚に卸されたPKの姿が一瞬浮かび上がり、粉々に砕け散った。
脳内にポーンという音が鳴り、システムメッセージがPK2名を退治したことを告げてくる。
水の立方体に閉じ込められた方は脱出出来ずに、そのまま溺死したようだ。
同時に【強奪者】のスキルの効果でPKから【採掘】スキルを手に入れた。溺れた方はミミレレが息の根を止めたので、スキルは得られない。
【採掘】かあ、【大地魔術】と併用すれば鉱脈探しに使えるかなって程度かね。
後は奴らの持っていたアイテムと装備がドバッと流れ込んでくる。隠密性を高めるからか革装備が多いなあ。いつもの通りポーションや毒物のアイテムが多いのは、他者から奪ったのと普段使い用かな?
俺が建物の屋根から降りると、周囲にいたプレイヤーたちがホッとしたような顔をしていた。退治されないPKがその辺を彷徨いてるかと思うと、気が気じゃないもんな。
「ビギナーさん、ご苦労様です」
「ありがとうございます!」
「助かりました!」
口々にお礼を言ってくるプレイヤーたちに気恥ずかしくなる。
普段恐れられてる身からすると、こういう反応は新鮮だからな。
PKたちからのドロップ品を被害に遭った人たちに渡そうと提案したが、それはPKを退治した者の報酬だからと皆に辞退された。
武器防具はそこに転がっている物で足りるんだとさ。怒号を聞きつけたプレイヤーたちが素早く駆けつけて来たことで、PKたちは拾い集めることなく散開したそうな。
そこに俺が通り掛かったと。
ペコペコとその場に居たプレイヤーたちに頭を下げられて、その場を後にする。後ろの方から「話してみると怖くないんだな、ビギナーさんって」「ああ、うちのギルマスと喋ってる時なんか飄々としたものだと思うぞ」なんて声が聞こえてきた。
やはり恐れられてるのは、やらかした事が伝言ゲームで広がったからだろう。指名手配犯を腕力で吹っ飛ばした話とか。もっと他のプレイヤーに優しくして、誤解を解かなければなー。
たぶん気が付かない内に何処かでやらかして、それが恐ろしい伝え話みたいなのとして拡がりそうな気もするが……。
「おかえりなさいませ、ご主人様。お兄さま、お姉さま方も」
「ただいまルレイ。で、はいこれ」
市場で色々購入してきた食材の入った紙袋をルレイに預ける。
彼女はそれを覗き込んで「まあ、ありがとうございます」と嬉しそうだ。「買い過ぎです」なんて言われなくて良かった。
「今は誰も居ないか?」
「いいえ、レンブン様がお帰りになられています」
「お、なら丁度いい。行ってくるか。アレキサンダーたちは好きにしてていいぞ」
ぽよんぽよん。
「ハイ」
「がう」「メェ」
「コケケ」
「ちー」
「ぽー」
「ぴゃあ」
アグリは玄関口の脇に突っ立ち、門番のような貫禄を出している。いや、クランハウスでは自由にしてていいんだけど、立ち位置そこで良いのかお前。
アレキサンダーは庭の片隅に畑を作ったようで、シラヒメたちと向かうとのことだ。何を育ててるんだろうな?
ツイナは庭の日当たりのいい場所で丸まってしまった。グリースも同席するようだ。
ミミレレの場合だと、俺がログインしている間は俺から離れられないので隣に佇んでいる。アスミは「ちー」と鳴いて飛んで来て、ヤトノもこっちに葉っぱを伸ばす。付いて来たかったようなので肩に乗せてやる。
「レンブン居るかー?」
「おや、ナナシさん。お帰りですか?」
2階のレンブンの部屋の扉を叩くと二つ返事で本人が出てきた。
「さっきの連絡の件ですよね?」
「そーそー。ヘイズダンジョンの6、7階層の情報とドロップしたアイテムの情報。両方とも掲示板に載せられるか?」
「問題ないと思いますよ」
「後これがその槍」
インベントリから出した誓いの槍を1本、レンブンに渡す。
「装備しなくてもアイテムとして使えるみたいだから、レンブンも1本持っておけばいいんじゃないか?」
「またこういう……。ばら撒いたら怒られますよ。エニフさんたちに」
「げっ!? い、いや〜。そこはちょっと黙っててくんない?」
「まあ、早々遭遇は致しませんが、根掘り葉掘り聞かれたら対応はそちらにお任せするということで宜しいですね?」
「う、うーん。それならまあ……」
今から返答例か何かを考えておくべきか?
エニフたちは理詰めで来るから怖いんだよなあ。
「7階層のゾンビを刺激したら、階層中のゾンビが400体も集まって来たというんですか? あのスペースにそんなに居るとは思えませんが、不思議ですね。しかし、アレキサンダーさんたちも居たとは言え、ナナシさんの戦力で殲滅出来るということは、他のプレイヤー換算で50人くらいのレイドが必要になるのではないでしょうか」
「はあっ!? そんなに必要になるんかいっ!?」
「ええ、ナナシさんたちの戦闘力は異常ですからね」
「マジか……」
あ、でも後半はゾンビの人海戦術になったから、もしかすると人数は必要なのかもしれないなー。
しかし50人も必要になるのか。俺たちの約6倍とかじゃないと心許ないとは思わなかったぞ。
主人公のこれまでのステータス
名前:ナナシ
種族:稀人
職業:ビギナーLv.51
SP:9
所有スキル:
【拳豪Lv.34】【投擲Lv.51】
【蹴撃Lv.51】【片手棍Lv.28】
【致命攻撃】【反射】【闘気】
【体術】【見切り】【威圧】【畏怖】
【腕力強化】【知力強化】【脚力強化Ⅱ】
【魔力強化】【MP増加】【魔法強化】
【水属性強化】【防御力強化】
【死霊術Lv.42】【暗黒術Lv.7】【幻魔法Lv.12】
【水魔法Lv.15】【土魔法Lv.20】
【無属性魔法Lv.16】【空間魔法Lv.1】
【生活魔法】【大地魔術】【聖霊魔法・水】
【看破Lv.46】【気配察知Lv.67】【忍Lv.15】←new
【水泳】【潜水】【登攀】
【追跡】【鷹目】【牧畜】
【魔力視】【魔力感知】【魔力付与】
【魔力操作】【魔力制御】
【裁縫術】【厨師Lv.2】
【調合Lv.46】【大工Lv.32】【詩吟】【採掘】←new
【植物知識】【鉱物知識】【アイテム知識】
【スライム会話】【並列思考】
【劇毒耐性】【苦痛耐性】【睡眠耐性】
【環境耐性】【麻痺耐性】【忍耐】
【闇耐性】【魔耐性】【精神耐性】
【暗視】【解体】
ユニークスキル:【城落としLv.11】【幸運Ⅱ】【黒の権能1/4】←new
称号:
【後先考えぬ者】【死を垣間見た者】
【草を食む者】【闇を統べる者】
【強奪者】【殲滅者】【魔王軍四天王】
【スライムの友】【アラクネの友】
【料理人☆】【半魚人】【主夫】
【ネッツアーの加護】【マルクトの祝福】【イェソドの加護】
【ゲヴラーの祝福+】【ティーフェレースの加護】
【聖霊の加護】
【魔女見習い☆3】 【スフィンクスに認められし者】【魔王の話し相手】
【ミノタウロススレイヤー】【甲殻スレイヤー】
【プラントスレイヤー】【マリンスレイヤー】
【アンデッドスレイヤー】
ペット
名前:アレキサンダー
種族:エルダーレッドスライムLv.35
所有スキル:【物理攻撃無効】【炎無効】【炎魔法】【形態変化】
【インベントリ】【溶解】【罠発見】
名前:シラヒメ
種族:アラクネLv.34
所有スキル:【糸精製】【糸射出】【かみつき】
【空間機動】【裁縫師】【劇毒】
名前:グリース
種族:コカトリスLv.27
所有スキル:【腐蝕の視線】【腐蝕毒】【腐蝕無効】
【貫通攻撃】【格闘】
名前:ツイナ
種族:キマイラLv.35
所有スキル:【雷魔法】【風魔法】【火魔法】【水魔法】【土魔法】【死霊術】
【かみつき】【飛行】
名前:アスミ
種族:ケツァルコアトルLv.8
所有スキル:【飛行】【水魔法】【風魔法】
名前:ルレイ
種族:シルキーLv.5
所有スキル:【管理】【料理】【掃除】
名前:ヤトノ
種族:世界樹Lv.3
所有スキル:【樹の王】【大地魔術】
使い魔
名前:ベウン
種族:クマのぬいぐるみ
所有スキル:【大工】【軽業】【料理】
名前:ボウ
種族:牛のぬいぐるみ
所有スキル:【登攀】【調合】【植物知識】
名前:ブラウ
種族:羊のぬいぐるみ
所有スキル:【植物知識】【料理】【牧畜】
名前:バター
種族:パンダのぬいぐるみ
所有スキル:【登攀】【隠れる】【忍び足】
名前:ミミレレ
種族:水聖霊王
所有スキル:【真聖】【水の王】
名前:アグリ
種族:戦闘用ドール
所有スキル:【片手棍】(貸与)
お読み頂きありがとうございます。
誤字報告してくださる方も、いつもありがとうございます。
コロナで二週間ほど休んでました。
アスミとミミレレのPK戦部分ごっちゃになってました。ご指摘ありがとうございます。




