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277 7階層の話

「うーん。7階も変わり映え無しか」

 ぽよんぽよん

「ああ、下と同じ様に手当たり次第にぶっ倒して、通行証ドロップを狙った方がいいかもしれないな」


 アレキサンダーからの提案は、アンデッドも無視しないで倒せば手早く済むのではないかということだった。

 さっきは攻撃されないなら手を出さなければいい、という考えだったからアンデッドたちは視界に入れてなかったんだよな。そのせいでアニエラたちには、活躍する場がなかったと反省するばかりである。


 7階層に上がっては来たものの、6階層と同じ光景であったため、特に感じるようなものはなかった。

 地上に原住民的なアンデッドと、樹上にはシルバーモンキーが潜んでいるのであろう。広範囲を探索したわけではないから他の敵対生物を確認してないため、不意打ちなどの攻撃もあるかもしれん。


「では早速」

「コケ」


 今か今かと待ち構えていたグリースが、近場でウロウロしていたアンデッドを蹴り倒す。既にトサカが俺の背丈を越えた、筋肉質の闘鶏(コカトリス)が繰り出す蹴りである。

 打撃に脆いアンデッド、ゾンビがそれに耐え切れる訳もなく。一撃で上半身と下半身がお別れになった。

 と、まあ、そこまでは良かったんだが、問題はそれに周囲のゾンビたちが反応したことだ。さっきまで緩慢な動きでウロウロしてた奴らが、同じ動きでこちらを凝視し、目をギラーンと光らせれば何かあるのかと構えを取りもする。


『RORORORORORORORORORORORORORORORO!!』


 雄叫びを上げながらゾンビたちが全員で地面を力強く踏む。

 ざんざんざんざんざん!!

 ざんざんざんざんざん!!

 

 何かの儀式か威嚇しているのかは分からんが、統率力がとんでもないな。

 しかしジャングルの四方から同じ音がするってことは、この階層にいるゾンビ全部が反応してるってことか?

 うち何体かは地面に手を突っ込み、土の中から槍を取り出していたりする。手持ち武器をそこから取り出すんかい!

 下手しなくても物凄い数のゾンビが此処に押し寄せてくるな、こりゃ。

 ええい、オールオールめ! めんどくせえギミックを仕込みやがって! アニエラたちがいる時に試さないでよかったぜ。


『RORORORORORORORORORORORORORO!!』


 槍を掲げたゾンビたちが号令と共に一斉に突進してくるのを見ながら、権能の翼を広げた俺とアレキサンダーたちは地を蹴った。






 どばー!


 アスミの産み出した滝のようなお湯のシャワーで汚れを落とす。ゾンビばっかり粉砕し続けると体が悪臭に包まれる気がするわな。

 結果的にそんなに強くなかったからよかったものの。倒しても倒しても、粉砕しても粉砕しても、森の奥から途切れることなくわらわらと現れるゾンビに閉口することになった。


 アレキサンダーとツイナが四方八方に吐き出す炎で、この辺り一帯の樹木は燃え尽き、エレベーターシャフトまでは見通しが良くなった。

 アスミがゾンビを片っ端から水に閉じ込めて、グリースとアグリがそれを砕き、ヤトノはゾンビを触手体に変えて押し寄せてくるゾンビを蹂躙してた。末恐ろしいちびっ子である。

 シラヒメは時折上から襲ってくるシルバーモンキーたちを排除していたが、周辺の木々が粗方燃えたためにクソザルたちは這々の体(ほうほうのてい)で逃げていった。後半は蜘蛛糸で絡め取って、ゾンビたちの動きを鈍らせていた。

 ミミレレには特に指示を飛ばしていなかったが、広範囲のゾンビたちを水の立方体に閉じ込めて圧縮したり、水球の中に閉じ込めてモーニングスターのように振り回したりとやりたい放題である。


 俺は権能で多腕を使って殴り潰していたのだが、応用を覚えて腕を刃に変えて切り刻む方向で倒していた。がしかし、途中からは【死霊術】でリッチを数体召喚したことで、そいつらが産み出したゾンビ&スケルトン対地元ゾンビという泥試合に発展する。ツイナも【死霊術】で同じことをやり出したため、最後の方は任せっきりになったわ。


 殲滅が終わったらアスミとミミレレが産み出したお湯のプールとシャワーでリラックスタイムである。石鹸も使ってゾンビの悪臭を落とすかー。

 ツイナは再度自分でスケルトンを召喚して、ブラシを使わせて体を洗わせているし。俺のブラッシングは要らな……、あ、それはそれで必要? そうなのか。

 アレキサンダーは真っ先に俺を体の中に飲み込んで、汚れを落としに掛かった。いつも済まないねえ。

 さっぱりした俺がグリースを洗い、アスミを磨き、ツイナを丁寧にブラッシングする。シラヒメの蜘蛛身は自身の唾液で毛づくろいをするので手伝えないが、上半身の女性身には新しい服を着せてやった。ヤトノはレベルが少し上がり、頭頂の葉っぱが3枚に増えている。

 ミミレレはその様子を見ながら楽しそうに水と戯れていた。


 全員レベルが1ないし2上がったのは喜ばしい事だな。ドロップした魔石が400個以上あったから、それに匹敵する数を倒したのにそれだけなのは、相手が弱かったからだろう。もっと強い奴出て来い。


 魔石とは別に「誓いの槍」という武器も7本くらいドロップした。

 目的を1点に定めて、それに向かって邁進(まいしん)する間だけ、ステータスが5割上昇するという途轍(とてつ)もない効果を持つ槍だ。

 ただ最大持続日数が2日間だけで、目的を達成しても失敗してもそこで壊れるという使い捨てである。人によっては使えるかも知れんが、俺は要らんな。


 一応レンブンに詳細を送って、掲示板に載せて貰うか。嵐絶にも情報共有しておくとして、売却はどうしたものか。誰か使うかもしれんから、クランハウスに置いておくという選択肢もあるよな。


 7階層の通行証は出たが、上に行ってもまたゾンビとクソザルだろうな。また大乱戦になるのも疲れるし、今日は此処で止めておくか。


 ぽよんぽよん?

「おトウサマ?」

「帰るかー」

「がう」「メェ〜」

「コケッ」 

「ちー」

「ぽー」

「ぴゃあ」


 エレベーターで下に降りると、1階層でエレベーターシャフトの周囲にいたプレイヤーたちに「げ!?」って顔をされた。

 いい加減に慣れてくれないかねえ。毎回驚かれる方の身にもなれってんだ。

 でもその中にいた顔見知りが手を振って声を掛けてきた。


「おー、ナナシー!」

「アサギリ!?」


 5人程引き連れているところを見るに、クランで行動してる訳ではなさそうだ。前にクランにお邪魔した時のメンバーにはいなかったと思うし。その仲間たちは顔を引きつらせながら、俺と目を合わせないようにしてるみたいだが。


「掲示板でヘイズに居るのは知ってたが、会うのは久しぶりじゃん」

「何だよ、ソースは掲示板かよ。友達がいのねえ奴だなあ」

「当たり前だろ。お前の動向を把握してる奴なんか居るわけねーだろ。そんなのがいたら、ソイツは神だ神!」

「いやいやいや、神は盛りすぎだろう、神は。せめてGM(ゲームマスター)とか、統括AIとか居るだろうよ」

「いや、お前の場合、その2名も把握してるか怪しいものがある」


 おい、断言すんな。俺の立ち位置はお前らの中で一体どーなってるんだよ……。

 アサギリはうんうんと頷いた後に、俺の後ろで大人しくしているアレキサンダーたちを見て溜め息を吐いた。


「ペット増えすぎだろ」

「別に誰にも迷惑かけてねーんだから、増えたって良いだろうが」

「ちー!」

「おおっ!? 待て待て!」


 俺の首元でアスミが鎌首をもたげて威嚇すると、アサギリは体の前に両手を掲げて1歩下がった。アサギリの肩にいた彼のペットのヘビも、危険を感じて懐に潜り込んでしまう。


「おいおい、俺はナナシと敵対する気なんて一切ねーって。その牙と水を引っ込めてくれよ」

「ぴゃあ!」


 水? 水は何だろうと思ったら、ミミレレが俺の横に何時の間にかデッカイ立方体の水を浮かべていた。お前もアスミに連動するんじゃない。

 アサギリのPTメンバーたちの顔色が真っ青になってるじゃないか。

 俺はアスミとミミレレを落ち着かせて、後ろに下がらせた。


「こえーよ。ペットはちゃんと律しといてくれよ。唯でさえお前のペットはおっかねえんだからよ」

「悪いな。皮肉と悪口の区別がつかなかったみたいだ」

「怖っ!? 次からは会話に気を付けることにするぜ」

「そうしてくれ。生憎とアスミたちもまだ小さいからな」


 胸を撫で下ろしたアサギリは、次に眉をしかめてアレキサンダーの頭の上を凝視する。


「で、なんだその葉っぱ? えーと、木の苗みたいなのは?」

「ああ、ヤトノのことか。今のところ、1番の新顔だな」

「ぽー?」


 アレキサンダーがぽよぽよ進み出て来ると、頭の上にいたヤトノが3枚の葉っぱをさわさわと動かした。いまいち判別出来ないが、挨拶のような仕草らしい。


「ヤトノ。と、後はミミレレもか。こっちはクラン・インフェニティハートのクランマスター、アサギリだ」

「ぽー」

「ぴゃあ」

「お、おう。よろしくな」

「後はアグリ。使い魔な」


 ミミレレも使い魔なんだが、いちいち告げなくてもいいだろ。アグリはギガーンと突っ立っているだけだ。頭を下げるとか愛想もない。


「おお、これがあのリビングアーマーか……。リビングアーマーって頭あったか?」

「作ってくっつけた」

「おお、もう……」

「で、ミミレレは水聖霊(・・)で、ヤトノはトレントだ」

「ぶっ!?」


 ヤトノに関しては正直に伝える訳にはいかないんで誤魔化しておく。これ以上の騒ぎになって押し寄せてくる奴がいたら困るし。ミミレレに関してはこっちは「水聖霊」とは言ってるが、聞く方は「水精霊」としか聞こえないみたいだしな。

 しかしアサギリは噴き出して目を白黒させているし、後ろのPTメンバーたちも「「えええええェェェぇぇーっ!?」」と絶叫していた。


「トレントってあのトレント!? 

この木の苗みたいなのが、デッカイ樹木になるってことぉ!?」

「植物系の魔物ってペットに出来るのー!?」

「流石ビギナーさん! 俺たちに出来ないことをすんなりやってのける! おっそろしいわ!」

「こんなん誰にも追従出来ねえってええっ!?」


 周囲で聞き耳を立てていたプレイヤーたちが口々に(はや)し立てる。半分くらい目が虚ろで焦点合ってないが大丈夫か?

 外野はとりあえず放って置いて、アサギリの話を聞く。これからこのメンバーで上に行くとのこと。

 ギルドで適当に組んだPTかと思ったら、クラン・インフェニティハート加入の第4陣だということらしい。


「ナナシは何処まで行った帰りだ?」

「7階層だな。面倒くさいギミックに嵌って大変だったぜ」

「ほほう。お前のPTで大変って事は、他の奴らには全滅するかもしれないというのと同義語だな」

「レイド組んどきゃ大丈夫じゃないかな。たぶん」


 あんな400体以上のゾンビに相対するとなると、プレイヤーの数さえ揃ってれば対応は可能だろう。


「レイドって、どんだけの難所だったんだよ? ドラゴンでも出て来たのか?」

「まだドラゴン1匹の方がマシだったかもしれん。倒しても倒してもおかわりが延々とな」

「うえー……」


 あ、でも普通のプレイヤーだと【死霊術】持ってないから、どうしたってゾンビには襲われるのか。だとすると接敵したら最後、延々ゾンビ地獄に遭遇することに?


「アサギリ」

「何だ?」

「6階層から上はレイド組んで行け。後は頭上注意な」

「待て待て待て待て!? 何だその忠告!? そんなにヤバイ所なのかよ、ここっ!」

「報酬はいいと思うぞ。それなりに。艱難辛苦を乗り越えれば」

「怖い言葉を残していくんじゃねえっ!?」


「ギブミー情報」とか(のたま)うアサギリたちを残して、俺たちはダンジョンから外へ出た。

 対価なしでペラペラ喋ったら、ルビーさんとかに怒られちまう。

 無料提供は掲示板かねえ。レンブンに6、7階層の情報を流して掲示板に記して貰おう。

 後は突っ込む人たちで検証してくれ的な?



 ━━その頃のダンジョンマスターさん

「思いきって2フロア分のゾンビをぶつけてみたが、ピンピンしてやがる。やっぱり化け物だろ、ナナシ」

 お読み頂きありがとうございます。

 毎回誤字報告もありがとうございます。


 主人公のクラン、敵が身内にいるんだ(笑

 

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― 新着の感想 ―
DM「おい運営、こいつチートすぎだろ。ナーフしろや!」
「ペット増えすぎだろ」には新入り(弟妹)を喜んでいるみんながが怒って当然ですね! GMゲームマスターとか、統括AIに把握されるのは特殊な人間だけだから、把握されていないということは、一般人だよきっと.…
通常でも半分なのかw 一斉攻撃がダンマスの仕込みじゃなかったら、普通に大変そう。
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