274 実験の話
名前:ミミレレ
種族:水聖霊王
所有スキル:【真聖】【水の王】
なんじゃこりゃあ……?
ログインして最初にミミレレのステータスを確認してみたらこれである。すっきりしてんなあ。
よくよくチェックしてみたら、【水の王】スキルの中には【精霊魔法】だとか【水無効】だとか【水倍加】だとかが入ってるらしい。
【真聖】は俺や仲間に聖なる加護を付加するスキルのようだ。影響は微々たるものと書いてあるけどホントかいな。
そして何故かキラキラ葉っぱ2枚になっていたヤトノのステータスが劇的に変化していた。
名前:ヤトノ
種族:世界樹Lv.1
所有スキル:【樹の王】【大地魔術】
どういうことなの!?
ログアウトしている間にいったい何があったんだ?
もしかして魔族の街の有り余る魔力を吸収して、更なる進化を促されたのかなあ。マジでよう分からん。
こちらも【樹の王】スキルの中に【植物魔法】や【物理耐性】や【樹の支配】などが入ってるようだ。【大地魔術】だけは俺とお揃いである。
人のことは言えないのだが、俺のステータスにも見覚えのないスキルが生えていた。
ユニークスキルの欄に【黒の権能1/4】である。
これもしかしてこの前の黒い外套か?
何でゲームに反映されてんだよ!?
俺の一般常識が音を立てて崩れていくようだ。オカシイだろうよ。
これも中に【形態変化】とか【偽装】とか【物理耐性】とか【MP微回復】が入ってるとのことだ。
【形態変化】は俺が変わるんじゃなくて、変形した外套を被る形になるそうな。ゲームでも着ぐるみなんかい。
【偽装】は名前やらステータス等を隠したり、偽ったりするスキル。
【物理耐性】は防御力強化。それと所持する称号と相まって現在、俺の防御力はカチカチである。
【MP微回復】はMPが今この瞬間も徐々に回復していってる。スケルトン地獄の時のMP借金がすぐにでも清算出来そうだ。
しかし、後の3つが揃ったら俺はどうなってしまうんだろうか?
恐ろしい恐ろしいぞ……。
まだ揃ってない物を狸の皮算用してもしょうがない。それはこっちへ置いておこう。
ここで少し思い付いたことを実行に移そうと思う。
以前にヘーロンにて【死霊術】で召喚したスケルトンたちに、「チンピラを襲え」と命令した時のことだ。
後で掲示板から情報を得ていたオールオールに聞いたところによると、スケルトンたちはプレイヤーと一般住民には目もくれず、チンピラ住民とチンピラぽいプレイヤーを重点的に襲っていたらしい。
このことから召喚したアンデッドたちは、命令に合致した目標を何らかの機能で判別しているようなのだ。
まだ一例でしかないけれどなー。
なので「PKを襲え」と命令すれば、数多のプレイヤーの中からPKだけを嗅ぎ分けるんじゃないか、とな。
ただ街中にスケルトンだのゾンビだのを出現させると、俺が衛兵にとっ捕まってしまう。
なので何度か【死霊術】を調整しながら使ったところ、スケルトンの腕だけを召喚することに成功した。
このスケルトン(腕)だけをマントの内側に忍ばせ、PKを指し示して貰えばいいかと思うんだ。念の為、骨の腕は包帯でグルグル巻きにしておく。
そして試しにヘイズダンジョンの手前の通路で「暗殺人形を探せ」と命令したら、殆ど探し出せた。これなら行けるかな?
次はペットたちをクランハウスに置いておき、単独でイビスに移動する。アレキサンダーたちを連れていると、1発で身バレするからなあ。
移動はホームポイントの金銭支払いワープによってだ。
街の外に出てからスケルトン(腕)に「PKを指差せ」と命令を下しておき、街に出入りするプレイヤーをチェックしてみることに。
3時間程で1名のPKを発見することが出来た。見た目は人畜無害そうな行商人風のプレイヤーだったが、【看破】を掛けたらPKと出た。
「テメーがPKかあああっ!」
「ギャアアアッ!?」
真っ二つに処したが、得られたスキルは既に持っている【水魔法】で、レベルが1つ上がるだけに終わった。
うーん、ハズレか。
突然の凶行にイビスの門番さんたちをびっくりさせてしまったが、顔見知りだったので今のプレイヤーがPKだと説明したら納得してもらえた。差し入れをしたりして、仲良くしておくもんだわ。
何でいきなりPK狩りを実行したのかというと、スキルが欲しいんだよな。なるべく直接戦闘に関わりのない一般スキルが。使い魔ぬいぐるみに持たせたいのが主な理由だ。
その後はリングベアのところで捜索してみたが、半日経っても1人も遭遇しなかった。
逆に1人でウロウロしてたのが悪かったのか、不審者扱いをされそうになったのでとっとと退散する。PKを抹殺しに来てPKに間違えられたら、本末転倒だわな。
しかしいざPKだけを探すとなると、意外に難しいのな……。
仕方がないのでその日はクランハウスでアグリの体を作るのに費やした。
哭銅を削って作っていたのだが、【大工】スキル持ちのベウン(クマのぬいぐるみ)とヤトノが手伝ってくれたお陰で、2体完成させることが出来た。
魔族の街で売っていた漆に似た塗料で真っ黒に塗る。塗ってる最中は魚が腐ったような臭いだったが、乾燥させた後はフローラルな香りに変化するとか、謎過ぎる物体である……。
その後はヘイズの街中をフルメンバーで探索することになった。何処に何があるのかまだよく分からんからなあ。
俺の前にアレキサンダーと、その頭上にヤトノ。俺の周囲にふよふよ浮くミミレレと、首元にアスミ。背後にアグリとグリースが付き、その後ろにシラヒメとツイナが並ぶ。
増えたなぁ。何時の間にかにこんな大所帯に。
オールオールは生産活動という名のダンジョン管理である。
何でもヘイズダンジョンは、各階層のパラメーターがしっちゃかめっちゃかになっていたとかで「面倒増やしやがって!」と、ぶちぶちと愚痴っていた。
レンブンはフリーの助っ人としての冒険者活動に勤しんでいる。固定したパーティーに所属するよりは、あちこち渡り歩くのが楽しいらしい。人間観察が趣味なんだとか。
「有事の際は呼んでくださいね」とは言われたが、クランのイベントが発生しない限りは別々行動でも構わんだろう。俺も2人をクランに縛り付けようとは思ってないから、その申し出は妥当じゃないかな。
周囲で俺たちの集団を見てざわざわドヨドヨしてるのがプレイヤーで、青ざめてたり道の端に寄って視線を合わせないようにしているのが住民である。たぶん。
見た目で怖そうなのはツイナとシラヒメとアグリかなあ。
今回アグリには頭部にフルフェイスの兜を乗せてみた。目の部分には赤い菱形の眼光がギラーンとしてるから、黒い鎧姿とマッチして死霊の騎士みたいだよな。ボロボロのマントでも被せてみるべきか?
街の中央にヘイズダンジョンの塔があるので、何処からでも見えるな。冒険者ギルドや兵士の詰め所などが外壁沿いに、配置されている。塔の最下層に繋がる通路があるからだろう。
ダンジョンからの魔物の流出を警戒してのことなんだろうが、オールオールがそんなことを設定するとは思わんしなあ。
まあそれを知っているのは俺とレンブンだけだからなあ。今更、行政に口を出すことでもないか。
市場や商業ギルドを回ってみたところ、ポーション業が活性化しているように見受けられる。
これもオールオールがギルドの競売に出したハイポーションの影響だろう。商業ギルドでも効果の高い薬草を高価買取する旨を記したポスターが、デカデカと壁に貼ってあったからなあ。
嵐絶からも「何で出品しちゃったんだー!?」という苦情が回ってきた。バレテーら。
オールオールは幾らで売れるのか? という物は試し程度の動機だったそうだけど。絶対、所持し続けてるのが面倒になったからだろう。
まあ、適当に面白そうなタイミングで放出してくれ。掲示板が阿鼻叫喚で爆笑だったらしいから。
新生アグリの試運転にダンジョンに続く通路を下ろうとしたところで「ちょっと待ちなさいよ! ナナシ!」と呼び止められた。
「おや、アニエラとデネボラじゃないか。2人だけか?」
白い鎧の二刀流騎士のアニエラと、三角帽子にローブ姿のデネボラ。クラン、エトワール所属の二人だ。2人だけというのは珍しいな。アルヘナは一緒じゃないのかね?
「ログインが遅くなっちゃったのよ。他のメンバーはクエストに行っちゃったわ」
「2人でどうしようかと話してた。そしたらアナタの徘徊してる噂を聞いて……」
徘徊じゃなくて散策なんだが。
今日はアグリとヤトノの新規が2名いるからなあ。噂にもなるか。
アニエラの視線が俺の周りをグルっと回る。若干、呆れが混じってるな。
「それにしても、増えたわねえ。レベル上げとか大変なんじゃない?」
「それはもう割り切るしかあるまい。大して気にもならんしな」
「そっちの小さいのは初見……」
デネボラの視線の先にいるのは、アレキサンダーの頭上のヤトノだろう。はて? エトワールにはアスミから紹介してなかったよな?
どうも普通の【鑑定】スキルだと種族まではっきり判別できるものではないらしい。ちょっとボカすか。
俺の首元を指して「これはアスミ。ケツァルコアトルだ」「ちー」。隣を指して「こっちはミミレレ。水聖霊だな。使い魔扱いになってる」「ぴゃあ」。
「「えっ?」」
背後を振り返って「あれはアグリ。リビングアーマーな。あれも使い魔」「……」コクコク。最後にアレキサンダーの頭上の「これはヤトノ。まあ、トレントみたいなものだな」
嘘は言っていない。先日まではそうだったからな。
2人は口をあんぐり開けて、同じタイミングで「「ええええええええっ!?」」と叫んだ。
お読み頂きありがとうございます。
誤字報告もありがとうなのですよ。
時系列で言うとミミレレ名付け→ミミレレ進化→ミミレレのやっつけ→ヤトノ進化!
なのでだいたい主人公のせい。




