27 西の街道の話
さて芋を洗うような混雑である。
潮干狩りの方がまだましかもしれないと思う。潮干狩りはあんなに殺気だっていないからな。
東の平原にはまるで初日のようにプレイヤーで埋まっていた。
メンドゥリとタマラビには目もくれず、オンドゥリが出現した瞬間、獲物に襲い掛かる猛獣のような形相でプレイヤーが即斬である。
きっと一昨日のオロシに言った腕輪のせいだよなー、これ。
街中で装備してるのを見付かり、質問責めにされたのでマントで隠している。
「こりゃあタマラビを狩るのも無理そうだな。どうするアレキサンダー?」
頭上でぽよんぽよんと跳ねるアレキサンダーも、人だらけな現状に困惑しているようだ。
取り合いでPVPに発展しているところもあるようだし。「タマラビだけ狩らしてください」と言っても納得してくれるとは思えない。
突っ切って森まで行こうかとも考えたが、各プレイヤーのテリトリーに踏み込んだらと思うと頭が痛い。
1度イビスの街に戻ってから、別の方向に行ってみよう。
翠の話によると南は海辺で北は山脈、西は林だか森だかを突っ切る街道が続いてるそうだ。
南は潮干狩りが出来そうだが、デカイ蟹がいるそうだし。
北の山脈はロッククライミングが必要な断崖絶壁という話だ。
「アレキサンダー、西側に行ってみるか?」
サルカニ合戦場だと聞いたが、柿を投げてくるならば捕って投げ返してもいいかもしれん。
森林なら薬草もあるだろうしな。
西門を出てからステータスを開いて色々と確認をしておく。
貴広に言われたからだけど、レベル付きのスキルには特殊技能があるそうだ。
【格闘】のLv.10で強打が打てるようになっていた。MPを少し使って、ダメージ増加にスタン効果が追加されるらしい。
【投擲】のLv.10で命中補正。命中率が上がるというもので、こちらもMPを少し使用。
あと【死霊術】Lv.5でエナジーフィールドというものがあった。
これはエナジードレインで吸ったHPを魔法防御壁として使用するもののようだ。
魔法攻撃してくる敵は今のところ聞いたことがないので、当分は使わないかもしれないな。昼間なので使う気もないけど。
門を離れてから気配を探りつつ、ゆっくり進む。
アレキサンダーは俺の1歩先をぷるぷる震えながら滑るように進んでいた。どういった移動法だろうな、あれ。
【気配察知】は今のレベルだと、直径5mの範囲内での生き物の位置が分かる。脳内にそういったレーダーがあるような感じだ。今注意すべきはその範囲外で樹の上である。
周囲にプレイヤーもいない。
静かだが、風が森を通り抜け葉ずれの音を響かせる。ほかには鳥のさえずりや何かの風切り音……!?
投げ付けられた物をキャッチして、すぐさま投げ返す。「ギャッ!」と悲鳴のような叫びが聞こえ、灰色のサルが樹上からドサーっと落ちてきた。
ハイロモンキーというサルは大型で体高1mくらい。外見はテングザルのように鼻が大きい。
起き上がろうとしたところにアレキサンダーの突撃を顔面に食らって、またひっくり返る。
再び起き上がろうとしたところに、俺が骨鶏トンファーで鼻を狙って強打を叩き込んだ。
ハイロモンキーは目を回して動きを止めたので、トンファーの先端突起を左右からこめかみに刺し込んでやれば終了である。
顔面を破壊されて脳ミソを殺られたものだから、首から上がスプラッタになってしまった。
ドロップ品はサルの毛皮。
その辺に落ちていた投げ返した物を拾ってみれば、まだ青い柿の実だった。確かにこんなものをぶつけられれば痛いだろうな。何かの役に立つかも知れないのでインベントリの中へ。
ああ、バイト代が出たのでインベントリを拡張した。
15枠から30枠へ増加である。これで少しは外の滞在時間が延びるだろう。
あとは戦った場の周辺に生えていた薬草を摘んでから移動する。
そんな事を10回くらい繰り返した頃だろうか。別のモンスターに遭遇したのは。
耳障りな羽音とともに一直線に俺に向かって突っ込んできたのは、黄色と黒の昆虫だった。
「蜂ぃっ!?」
全長が50cmもある超大型の奴である。
見た目の警戒色で更に恐怖感が増すデカさだ。スズメバチというよりアシナガバチのような姿か?
突っ込んでくるところへ姿勢を下げ、下からトンファーを振ってみるが軽々と避けられる。真っ向からぶつかってみたが針を向けられたので、こっちが慌てて避ける羽目に。
「うわ、当たんねえ。どうするか……」
アレキサンダーは目で追うのが精一杯らしく、ぽよんぽよんと跳ねてもまったく当たる様子がない。
不意に俺に近付いてくると、体内から青柿をコロンと吐き出した。
「お前も取ってたのか? え、何?」
青柿をぐいぐいと押し付けられたので、命中補正を掛けて蜂におもいっきり投げ付ける。
バキャッと顔面にめり込んだ青柿によって仰け反った蜂は、あっさりと落下した。
「お? 効果あり」
青柿大活躍だな。コツを掴んでしまえば後は楽だ。
首と腰をバラしてしまえば動きが止まる。脚部や触覚がビクビクしているが昆虫だとそんなものだ。
蜂はラージビーって名前で、ドロップ品は胴体部の甲殻と畳針並のデカイ針だ。あと瓶入りのハチミツで、内容量は100mlくらいかな。
こっちは解体の効果っぽいなあ。
高く売れそうだが、ホットケーキが作りたくなるな。市場でも牛乳は見かけなかったが、何処かに売ってないものか……。
「これはアレキサンダーのお手柄だな」
瓶ごとアレキサンダーに渡すと、器用に蓋を開けて風呂上がりのコーヒー牛乳のようにゴッキュゴッキュと飲み干してしまった。
何処でそんなん覚えたんだお前は……。
一応、読みにくいかなー? という漢字にはルビを振っています。
それでも読めないものがありましたら、申し出て下さればルビを追加致します。




