267 ヘイズダンジョンの話3
その後も雑魚はわらわらと出てきたが、誰1人欠けることなくダンジョン塔の1階部分に到着した。
通路口を出れば、そびえ立つ塔の壁がお目見えである。
見上げてみれば壁の先も見えやしない。スキル【鷹目】でもっても先端を探るのは不可能なもんだから、どんだけだよ。
オールオールによれば今通って来た坂道はダンジョンじゃなくて、ただの通路だと言うことだ。
何故にそんなことがオールオールに判るかというと、ダンジョン内であれば彼のステータスが生きるかららしい。あそこの通路内は灰色のままだったそうな。
昔はしっかりとした石造りの通路が、地下水の染み出しによって鍾乳洞みたいになってしまったんじゃないかというのがマイスさんの憶測である。
ジョンさんの話によると、塔の1階から5階辺りまでの構造は似たようなものだという。
輪切りにされた円筒形。とはいえ直径が500m(レンブン談)もあり、天井までの高さは10m以上。
所々に発生している靄によって視界は遮られて、反対側も見通せない。全体的に薄ぼんやりとした感じである。
「何処に光源があるんだここは?」
「天井全体がぼんやりと光ってるらしいぜ。何かに応用出来ないか調べた奴もいたが、削り取ることも出来なかったと言うぜ」
「ダンジョンは削れないだろう」
「まあ、そういうことを考える奴も世間にはいるってことだな」
「だとさオールオール」
「何で俺に話を振ってくるかねえっ!?」
塔の内部には中央に太い柱が立っていて、それは5階層までに進んだ者だけが使えるエレベーターだということだ。
2階層に行くにはエレベーターの隣にある魔方陣に入ればいいとのこと。しかし使用するには、1階層の何処かにいる中ボスを倒さないとならないんだとか。
「中ボスねぇ……」
「1階層はリビングアーマーですね。PT単位で1体倒せば全員が通れます」
「この中から探すのかよ。ライバルだらけじゃね?」
見える範囲にはウロウロしているPTが4つ程。ゾンビとか人型アンデッドは魔石を落とすからな。金策には丁度いいんだろう。
「ちー!」
「ぴゃあ!」
ここで前に出たのはアスミと聖霊ちゃんである。
アスミが広範囲にぶわっと撒いたのは濃厚な霧だ。一瞬で視界が真っ白になって、隣のオールオールとレンブンくらいしか見えなくなる。
「「「なんじゃこりゃー!?」」」
「焦らないで! ただの霧よ!」
「一瞬でコレかよ。神性ペットってとんでもねーなあ!」
視界が遮られ過ぎて、嵐絶側からも困惑している声が聞こえてくる。
ついでに巻き込まれたのは徘徊していたプレイヤーたち。霧の向こうから嵐絶側と同様の悲鳴が聞こえてくる。
安心するがいい、うちのペットたちは有象無象に害を及ぼさん。
「ちー!」
「ぴゃあ!」
霧の何処ぞを尾で差すアスミに応えた聖霊ちゃんが両手を上げる。
途端に何処かでドパアアアアン! と何かが破裂したような音が響き、同時に霧が晴れた。
「ちー」
「ぴゃあ」
アスミは俺の首元に戻って機嫌の良さそうな声を上げ、聖霊ちゃんはその横に浮かび嬉しそうだ。
「……何だ今の?」
「終わったみたいだなあ」
「「「……は?」」」
「はい?」
「……え?」
「マジで?」
全員がキツネに摘ままれたような表情になる。
アスミが霧で索敵をし、発見したリビングアーマーに聖霊ちゃんが一撃を与えたんだろう。
討伐の証拠に俺のインベントリには「リビングアーマーの鎧(胴体)」というドロップ品が増えていた。
このリビングアーマーの鎧(各部位)はノーマルドロップ品らしい。
今まで使い道がいまいち判明せず、飾ったり溶かしたりしていたとか。
そしてレンブンの元には「リビングアーマーの鎧(両腕)」、オールオールの所には「リビングアーマーの鎧(両足)」がドロップし、組み立てれば首ナシのリビングアーマーが完成。
ここにドールコアを嵌め込んでリビングアーマーの仲間が爆誕した。
「よし! 君の名前はアグリだ! 【片手棍】スキルを貸与するから、この獄卒の棍棒を使え!」
「何、サラッと作ってんだあああああああっっ!?」
「め、目の前で行われたことなのに、何が何だかさっぱり分からない……」
「この世の不思議がいまここに……」
「深淵を覗く者はまた深淵に覗かれているのだ……」
「あ、コイツ混乱状態のデバフにかかってやがる」
「さすが我らがクランリーダー。人に出来ないことを平然とやってのけますね」
「誰も痺れないし憧れないがな……」
ドールコアの使用方法は各項目をON/OFFするだけであるようだ。
性格をコピーするのをONにし、名前を付けるのをONにする。リビングアーマーの1部を逆読みにしてアグリと命名した。
スキル貸与をONにしてあんまり使わない【片手棍】スキルを選択する。【土魔法】や【水魔法】も考えたが、魔法だけならペットたちが揃えてるから、今のところはいらないだろう。
アグリはドールコアによって作成されたからか人形扱いで、仲間というよりは魔女の使い魔に当たる物であるようだ。聖霊ちゃんと同じくPTメンバーとして反映されていない。付属品のような感じか?
獄卒の棍棒を渡されたアグリは左右に持ち替えたり、ブオンブオンと風切り音を出しながら振っていた。暫くすると馴染んだのか、腰に納めて俺たちの後を着いてくる。位置的には俺の隣である。
「よし、グリースとツイナはアグリをフォローしてやれ。アスミと聖霊ちゃんは次の階層ではさっきの手段はナシな」
「コケケ」
「ぐる」「メェ」
「ちー」
「ぴゃあ」
アグリは返答手段に棍棒を振り回すな。頭がないと頷くこともできないから、不便かもしれん。代用品を探すか作ってやらないとな。
なお、2階層へは全員問題なく通ることが出来た。良かった良かった。
「2階層からはキョンシーというアンデッドが増えますね。これは跳ねる上に素早いので注意してください」
と解説を入れるレンブンの背後では、止める間もなく突っ込んでいったアグリがキョンシーをホームランしていた。
ついでにフォローに回る筈のグリースやツイナも周囲のアンデッドを殴る蹴る。瞬く間に駆逐していく。
「2階層の中ボスはオーガのゾンビです。リミッターの外れたパワーを持つので注意してください。ただ、そのパワーによって自壊しやすいので倒すのが容易いのですけどね……」
レンブンは俺の背後を見て苦笑い。何だと思って振り返ると、糸でグルグル巻きにした巨体の何かをシラヒメが引きずってきた。
「おトウサマ、チュウぼストヤラをツカマエました」
ぽいんぽいん!
「ちー!」
「ぴゃああ!」
哀れ糸でグルグル巻きにされた中ボスのオーガゾンビとやらは、アレキサンダーの火焔と、アスミのトルネードと聖霊ちゃんの聖なる雫(シラヒメ通訳によるとアンデッドに対しての劇薬のようなものらしい)によって塵に返った。
「展開が早すぎる!?」
「俺ら何にもしてないっすね……」
「アイコンタクトというレベルじゃない意思疎通のコンビネーションにより、周囲の敵の駆逐が早すぎます」
「まあ、アイツらイビスのダンジョンでも進撃速度が洒落にならないくらい早いしなあ」
「地下2階はほぼ素通りですからねえ」
「「「……恐ろしい……」」」
「お前ら俺にも殴らせろよなあ」
「ペットの主人が何もしてないのがまた末恐ろしいですよねえ」
「ここはナナシの敵になるやつがいるのか?」
「さあ? 私は5階層までしか知らないので何とも言えませんね」
ほぼ鎧袖一触になっているんだが、他のプレイヤーが5階層で詰まっていたというのは何故なんだ?
お読み頂きありがとうございます。
首なし鎧が仲間になりました。
ツッコミ人員がいると幾らかは楽かもしれません(オイ




