266 ヘイズダンジョンの話2
まあ、1度だけならまだしも、その後も現れても襲って来ないゾンビとソードスケルトンとレイスと。と何度か続けば、さすがに何かが変だと感付いて来る訳である。
「ナナシが何かしてんじゃねーだろうな?」
「生憎と企業秘密です」
ジョンさんの問いにはこう答えるしかない。スキルを開示する訳にはいかないからな。
「「「…………」」」
スゴい表情でこちらを凝視してくる嵐絶の面々。
分かる。
言いたいことは物凄く良く分かるぞ。ウンウン。
だが、話せないものは話せないんだ。理解してくれると俺が嬉しい。
「ナナシが何かしたといってるよーなもんじゃねーか」
「馬鹿ですか。そこをオブラートに包むのが駆け引きと言うものですよ」
そこの2人。あからさまに喋ったらバレバレなの止めてください。更に凝視度が濃くなったじゃないか。
嵐絶で前方に出現するノンアクティブアンデッドを処理している最中に、横合いからオールオールを狙って飛んできた小さな光り物を弾く。
同時に素早く動いたシラヒメが小さな加害者を踏み潰した。いや、踏み潰したというより蜘蛛脚の構造上突き刺した、と言える。
その小さな加害者は子供の姿をした30cm程の人形だ。胴体を貫かれていてもまだ生きてる(?)ようで「キーキー」言いつつ、手足を振り回して暴れていた。
よくよく正体を確かめるより先に、グリースが「コケッ!」と蹴り飛ばして粉々にしてしまう。
「何だ今の?」
「暗殺人形・小ですね。ああやって人の足元に忍び寄り、毒針などで我々を殺りに来ます」
「えっ!? 今の俺が狙われたのか!?」
レンブンの解説に、オールオールが自分を指差してビビリまくっている。
たしたしと前に出たグリースが目をカッと光らせて「ケーッ!」と叫んだ瞬間、天井に連なる鍾乳石からボトボトと似たような人形が落ちてきた。
どれもケロイド状に焼け焦げてたり、体の1部が溶けたりしている。
続いてササッと前に出たシラヒメが蜘蛛脚で足踏みをし、全てを粉々にしてしまう。
「おお、凄いなグリース。シラヒメもありがとうな」
「コケケ」
「キョウシュくデス」
頭を撫でてやるとグリースはご機嫌に体を擦り付けてくる。シラヒメは嬉しそうに蜘蛛の体を震わせていた。
「うわあ……」
何故か嵐絶サイドが顔を青くして恐れおののいていた。
そりゃあこんなに潜んでたんじゃ、ビビリもするわな。
「違うからな! お前のペットの処理能力に驚愕してるんだからな!」
「は?」
「普通はあんなのいっぺんに倒せませんよ! ナナシさんの育成方法ってどうなってるんですか!?」
「え、マジで?」
違ったらしい。
どうだうちの子たちは凄いだろう、と自慢したら親バカだろうなあ。そして皆には引かれるだろう、たぶん。
などと考えていたらアレキサンダーとツイナが、鼻息荒く自己主張してきた。
ぽいんぽいん!
「ゴガア!」「メエッ!」
何時もより倍くらい跳ねております。じゃなくて、俺にも活躍させろー、俺たちもー。ってことらしい。
「いやこんな狭い場所で火を吐こうとすんな。嵐絶にも飛び火するだろーが」
「「ヒィッ!?」」
「ん? うわっ!?」
口の中に火を溜めてる2人の額を叩いて注意をすると、嵐絶側から悲鳴が上がった。
しかしオールオールも同時に驚きの声を漏らす。
何だと思って顔を上げると全員が臨戦態勢だったり、硬直したりする格好のまま、青い顔で俺の頭上を凝視していた。
マイスさんが震える指で俺の頭上を指差して「そ、それ……」とか細い声で注意を促す。
ゆっくり視線を上に上げつつ振り返ると、巨大な半透明の鮫の顔のどアップが目の前にあった。
おお、これがシャークレイスか。思ってたより数倍デカイな。
ペットたちに攻撃しないようジェスチャーし、じーーーっと見つめ合うこと10数秒。
その間、視線と視線でデータのやり取りがあったとか、通じあうものがあっただとかは全然ではないがなかった、と思う。
暫くすると興味を無くしたのか、シャークレイスはフイっと向きを変え、壁を突き抜けて何処かへ行ってしまった。
「「「ぶはーーー……」」」
俺とレンブン以外が止めていた息を吐き、極度の緊張が解けたのか地面に座り込んだり、膝を着いたりして脱力する。
念の為、周囲の安全確保をアレキサンダーたちに頼んでおこう。途端に火焔が渦を巻き、壁側や天井の鍾乳石らが火に包まれる。まあ誤差の範囲内だね。
呼吸の有無はアスミが風を運んでくれるから、窒息の危険性はないだろう。
しかしそこまで緊張を及ぼすものの脅威度か。俺的にはもう少ししたら手が届くような感じだったから、そこまでではなかったな。
「レンブンは平然としてるが、慣れた感じか?」
「いえいえ、これでも緊張はしてたんですが、ナナシさんが危機感を抱いてないようだったので、安心感がありましたね」
「いきなりガブッと殺られてたかもしれないぞ?」
「その時はその時ですよ。それに私もシャークレイスに何度か殺されていたりしますので、今更ですね」
レンブンはシャークレイスの被害者だったのか。それであの落ち着きよう。ただ者ではないな。
ちなみに殺された時は、スパーンと真っ二つにされるか、頭から丸かじりされるらしい。シャークレイスは実体を持たないのにどういう仕組みでそれを行っているのやら……。
「何となく手を伸ばせば届きそうな感じではあったな」
「なるほど。アレが使役出来るかもしれないのですか?」
声をひそめるレンブンに頷いて返す。
「アレ、というかアレに近い? まだ腕1本分足りないのを待っててやろうじゃないか。と、言われたような感じではある。うーん、イマイチ言葉には出来ないな。視線を読み取ったような気がする程度だ」
「……分かりました。とりあえずこの場は、殺されなかっただけありがたいと思うくらいにしておきましょう。長々と話していると、疑いを持たれますからね」
レンブンに頷き返すと「ナナシぃっ!」と怒鳴られて、突撃してきたジョンさんに頭を抱え込まれた。
「お前、敵と意思疎通してんじゃねーよ! 襲われないなら襲われないって先に言っとけ! ネタは教えてくれんだろうなァ!」
「いやいや、ネタも何もありませんって。どちらかというと強敵と見つめ合って、認めて貰ったが足りないから精進しろというくらいじゃないですかね?」
「アレと同等くらいって、ナナシさんは実はとんでもなく強いんじゃ……」
落ち着いたマイスさんだったが、俺を見る目には驚愕が混じっていた。
これは【畏怖】スキルが仕事してるんじゃないだろうな。
しかし強さと言っても人によって方向性はバラバラだから、一概に自慢は出来んなあ。
「おいナナシ」
「なんだい、オールオールさんや?」
「赤玉たちは先に行っちまったが、いいのか?」
「え? あれっ?」
オールオールに言われて周囲を見渡すと、シラヒメと聖霊ちゃんとアスミはいるが、アレキサンダーとツイナとグリースの姿はやや離れた前方にあった。
安全確保イコール露払いと解釈したのか、ずんずんと進んでしまっている。
「ここのアンデッド、易しくはないはずなんですが……」
「ビギナーさんのペットだぞ。俺たちの想像を越える強さを持っていてもおかしくはない」
「こっちがバフとデバフを駆使して、リーダーたちがなんとか処理してるのを、ペット3匹だけで……!?」
嵐絶の後衛の方々が唖然としながらアレキサンダーたちを見て呟いていた。
唖然とするなとは言わないが、もちっと警戒くらいしようぜ。
鍾乳石の影から飛び出して来た人間大の人形の攻撃を横へ弾く。短剣サイズの刺突武器かよ。殺意たけーなあ。
膝で左肩を砕き、手刀で首を落とせばあっさりと塵になる。
残ったのは魔石とは違う真珠のような拳大の石だ。
「おやドロップ品ですね」
レンブンがそれを拾い上げ、しばし見つめていた。【鑑定】で分からなかったのか、苦笑いしながらこちらに渡して来た。
受け取ってから【アイテム知識】で調べてみれば……。
━━━━━━
・ドールコア
使役用の人形を作るための中枢。作成した人形は長い年月を掛けて1から育てるか、使役者の性格をコピーして完成させるかの2択。
完成させた人形は使役者の持つスキルから4つまでを選択して覚えさせることが可能だが、人形が壊れるまで使役者は分け与えたスキルを使うことが出来なくなる。
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使い魔の廉価版かね?
使い魔は魔女の持つスキルの内、3つをランダムで使うことが出来るけど、分けられたスキルが使えなくなるようなことはない。用途が違うのかな?
「ドールコアだとよ」
「人形の核。つまりは先程のような暗殺人形が作れると?」
「育成しだいじゃね?」
カクカクシカジカと説明すると、ジョンさんが「なんじゃそりゃー!」と絶叫していた。
今まで暗殺人形・中からドロップしたのは、使っていた刺突武器くらいらしい。
ならレアドロップか、これ。
お読み頂きありがとうございます。
ギリギリ間に合いました。
これまでの道中、ペット無双。レンブン何もせず。オールオールはただの的。
 




